エンファクトリーが提供する越境型研修サービス「複業留学」は、大手企業の従業員がベンチャー企業で実務を行う「越境研修」です。
今回は実際に研修に取り組んでいただいた花王グループカスタマーマーケティング株式会社 森様に、複業留学についてインタビューいたしました。
──本業でのお仕事内容を教えてください。
マーケティングの仕事をしています。花王商品すべてを対象に、様々な小売業様に向けた新しいスキームでの売り方を考えています。 社内の「こういうのがあったらいいのに」と投げ込まれたアイディアに対し、業界や企業の枠を越え、どこにどう接続したら形になるかを考える、新規プロジェクトに近いチャレンジもしています。
──本業でも新しいチャレンジをされている森さんが、今回あえて複業留学に手を挙げた理由を教えてください。
これはあくまで個人の意見としてですが、当社のビジネスは、過去の成功体験があるがゆえに、そこで培ってきたリソース、ノウハウ、アセットの延長線上の保守的なものが多くあるように感じています。
3年ほど前に、異業種の大手企業3社の中堅リーダーが集まる研修に参加し「外の視点や文化から見た時、各社これから何にどう取り組むべきか」といったワークを通じて沢山の意見交換・フィードバックをし合う中で、外部の視点や文化に触れることの重要性に改めて気づきました。その研修での刺激や、直近の仕事の中で「もっと新しい経験を積んでいかないと」という思いが改めて芽生え、今回の複業留学に応募しました。
──複業留学して、驚いたことや、自社と違うと感じたところを教えてください。
ベンチャー企業に対して、もっと殺伐としていて時間がいくらあっても足りない、自転車操業のイメージを持っていました。しかし実際は、みなさんやりがいをもって楽しく働いていて。
時間が足りないというよりは、各自が無駄なこと、余計なことにコミットしないという感じなのかなと感じました。皆が高い熱量を持ちながらメリハリを持ってそれぞれが楽しく仕事しているというのが驚きでしたね。
──複業留学での活動内容を教えて下さい。
ある素材をサプリや食品に展開していくためのマーケティングのリソースが足りないということで今回ジョインさせてもらい、マーケット構造、競合状況、消費者の使用実態やニーズ・インサイトを捉えるためのリサーチ・アンケート・インタビューと、そこから得たことを元にしたSTPブラッシュアップのお手伝いをさせてもらいました。
これまでの花王業務を通じて培ってきたものも含め、少しでも多くのことを・良い形で 先方内部にノウハウとして残すことができるよう、常に意識して活動しました。
──本業でのスキルやノウハウを、複業でも活かせましたか?
私には、多角的かつ幅広いカテゴリーの販売戦略を立案し、全国様々な特徴をお持ちの小売業様を相手に仕事をして、経営トップ層・バイヤー・現場の方と対話してきた経験があります。花王の中では珍しいのですが、飲料やサプリ等の食品系のマーケティングにも携わってきましたので、かじった程度ですが、食品業界に対しての知識も持っていました。それら経験もあって受入企業に入り込みやすかったですし、自分が持っているノウハウを活用しやすかったですね。
また本業では、事業マーケティングサイドから出てきたプランを元に、どうすればよりカスタマー(取扱っていただく小売業様や消費者)から支持していただけるかを数値や現場からの声、現場で起きていることから推測して考え、必要と感じた場合は「こういうプランに変えてほしい」と交渉・調整するようなことを多くこなしてきておりましたので、それらの経験をうまく活かせたのではないかと考えています。
──複業留学中に困ったことはありましたか?
謙遜ではなく、自分の能力が足りないと感じました。私は販売マーケティングの経験が長く、0から1を生み出す側に近い事業マーケティングの経験が乏しいです。
もちろん、同じマーケティング領域として、自分の強みを発揮できた、やりやすかった面もありますが、自分が苦手・経験不足な部分に対してどうアプローチするかには苦心しました。
──困ったことをどのように乗り越えましたか?
本を読んだり、ネットの情報を調べたり、社内にある知見に触れたりしながら自分なりに考えを構築し、それを受入企業であるAlgaleXさんに伝えて意見をもらいながらプロジェクトを遂行しました。試行錯誤を重ねながらのプロジェクト管理・進行でしたが、だからこそ自分としても成長できましたし、違った環境・商材での実践を通して新たな自信にもつながったと感じます。
またこれまでの花王業務を通じ、私にはチャレンジ精神であったり、簡単に諦めない粘り強さといった資質があるのかなと感じておりましたが、複業留学を通じてこの自分のマインドセットの強みを改めて実感することができました。これからも社会は変わっていきますし、自分の仕事のやり方も変わっていくと思いますが、どんなときもチャレンジ精神を忘れず諦めずに粘って努力していけば、必ず乗り越えられるはずと自信が持てました。
──複業留学の前後で何か変化はありましたか?
無駄なことをしないでおこうという意識が、自分の中で強まったように感じます。
私はこれまで、自分の時間をできるだけ空けて、チームで足りていない部分にとことん入り込むことで、プロジェクトのクオリティが少しでも上がるようにと動いてきました。その時間・判断・行動は、プロジェクトをより良い状態で前に進めるため、高いパフォーマスを出すために必要だったと思っています。
ただ一方で「この時間を別のことに使っていたら、もっと面白いことができるかもしれないな」という発想に変わってきました。「目先のプロジェクトだけに限らず、限りあるリソースの中で全体成果を最大化するには、何が必要か」と、広い視点で考えられるように少しはなってきたのかなと思います。
──自分のリソースをどこに入力すればより出力が大きくなるかを、より考えるようになったということでしょうか?
そうですね。どうすれば自分自身を成長させられるかは常に考えているような気がします。広い話ですが、世の中における自分のバリューを最大化する・拡張していくにはどうすればよいかを考えること、それがひいては世の中への貢献につながるのだと改めて感じています。
「目の前のクオリティは理想とする領域までは到達できないかもしれない。でもこれは自分じゃなくてもいい。自分のリソースをここまで投じなくていい。それより別のところに入った方が、より自分の強み、チーム全体の強みが生き、パフォーマスを拡大できるのではないか」という視点で考えられるようになりました。
周りからは「よくそんなに熱を入れて色んなことに取組む時間があるね」と言われるのですが、むしろ昨年(2021年)までの方が忙しかったですね。仕事の捉え方やアウトプットの仕方が変わったことで負荷の背負い方も変わりましたし、まだ余力はあります(笑)
──受入先企業の評価を受けていかがでしたか?
私が熱量を持って最大限の力で、一社員のつもりで取り組んでいたことを感じてもらえてありがたかったです。
「ある程度こいつに任せてもいい」と信頼してもらえていたからこそ、いろいろな仕事・責任ある重要な仕事をアウトプットさせてもらえました。自分のスキルがもっと高ければ、もっと良いアウトプットになったのかもしれないと申し訳なく感じることはありますが、ただ、これはどこまでいっても……だと思います。私を受入れてくださったAlgaleXさんにはとても感謝していますし、今後も一緒に関わらせてもらうのであれば、もっともっと勉強して、その信頼に報いたいです。
──森さんの今後のビジョンについて教えてください。
3つあります。1つめは複業や業務委託など、貢献できることがあれば継続してやっていくことですね。
自分が関わってきたAlgaleXさんのプロジェクトについて、23年度のローンチまで責任を持って、最大限の貢献ができるように全力で伴走していこうと思っておりますし、もう少しまだ余力がありますので、課外ワークを増やして更なる経験を積み、世の中への貢献度を高められたらと思います。
応援して送り出してくれた花王という組織での貢献度を高めて恩返しができたらと思っています。
今回複業留学をしたことで「フードテックは面白いな」と改めて感じましたし、SDGsなど、社会課題解決に直結した領域に引き続き挑戦していきたいです。
2つめですが、さまざまなベンチャー企業の方と話をする機会をつくったり、自分の市場価値を見つめ直したりする中で、自分にはITデジタルのスキルが致命的に足りていないのだと気づかされました。このスキルの実戦経験を積んでいかないと、今後貢献できる幅が限られてしまう、雲泥の差を生んでしまうと危機感を持っています。これからの社会に生き、自分の子どもたちにバリューを残していくことを考えたときに、ITデジタルスキルは避けて通れないと痛感しているので、ここは優先必須事項として高めていきたいです。
3つめですが、自分の視点から見て誤解を恐れずに申し上げますと、日本の大企業にはヒト・カネ・モノといったリソースが余っていて活かしきれていないのではと感じるシーンが年々多くなってきているように思います。生活者のニーズも“一人十色”となり、技術革新による環境変化も早く激しい現代社会において、自社のリソースだけにこだわっても、最適化・最大化できないことが増えてきているように思うのです。例えば、リソースやノウハウが不足している企業と、リソースもノウハウも持っているのだけれど 発展的にうまく活用しきれていない企業とをジョイントワークできることを見つけて繋ぐことができれば、もっと新たなアウトプットが生まれ日本が活性化していく、より良い方向へと向かっていくんじゃないかと思っています。そういう役割を、ほんの一部だけでも自身が担えたらいいなと思いますね。
──他のメンバーに複業留学をおすすめするとしたら、どんな言葉をかけますか?
「ぜひやった方がいいよ」と声をかけますね。何か自分の中で課題を感じていることがあるなら尚のこと、積極的に飛び込んだ方が良いです。もちろん「モヤモヤ」レベルの人がとりあえず…といった形でチャレンジしても、学びはあるかと思います。ただ前向きな悩み・課題感を持っている人の方が、その悩みを活力に変えられ、より多くの学びをつかみ取れるのではないかと思いますので、是非 健全な危機意識や野心を持って取り組んでみてほしいです。