MBO(目標管理制度)とは、社員の個人目標と企業目標の方向性を擦り合わせてマネジメントする手法です。社員自身が企業の目標達成に必要な取り組みを意識できるため、自主性の育成やモチベーションアップにつながります。
本記事では、MBOの概要や種類、導入メリット、具体的な進め方などを解説します。
MBO(目標管理制度)とは
MBO(目標管理制度)とは、社員個人と企業の方向性を擦り合わせて「組織の目標達成のために従業員がやるべきこと」を設定し、最終的な達成率で評価するマネジメント手法です。Management by Objectivesを略した言葉です。
企業からのノルマではなく、社員自身が設定した目標の達成を目指すため、業務のやらされ感を減らし、個人のスキルアップやモチベーション向上を促せます。
M&AにおけるMBO(マネジメントバイアウト)とは異なる
同じ略語の「MBO(マネジメントバイアウト)」は、M&A手法のひとつです。経営陣が株式の一部を取得して事業を拡大したり、中小企業オーナーが事業承継したりする場面で行われます。
今回解説する目標管理におけるMBOとは、意味や利用シーンが異なるため注意しましょう。
MBO(目標管理制度)は時代遅れ?意味ない?
もともとMBOは、1990年代のバブル崩壊によって「勤続年数ではなく成果で評価する」という考え方に変わる中で注目された手法です。
しかし、働き方改革が進み個人の価値観も多様化した現在、「MBOは時代遅れ」と思われることもあります。「仕事で出世したい」「プライベートを優先したい」など価値観が広がる中で、企業と従業員の目標を結びつけること自体が、時代の潮流に沿わないと思われるのでしょう。
近年、日本企業でのMBOの導入率が高くなっている
しかし、日本企業でのMBO導入率は高まっています。一般社団法人労務行政研究所が2022年2~5月に実施した「人事労務諸制度の実施状況【前編】」によると、日本企業によるMBO導入率は78.4%になりました。
参照:一般社団法人労務行政研究所「人事労務諸制度の実施状況【前編】」
MBOが時代遅れといわれるのは、あくまでも「ノルマを一方的に押し付ける」など、正しく運用しなかった場合です。
「社員が目標達成に向けて自走できるよう企業がサポートする」「管理者が成果とプロセスの両面を評価する」という点を意識して運用できれば、社員のモチベーションやスキルを高める理想的なマネジメント手法といえます。
OKR・KPIとの違い
MBOと似ている概念である「OKR・KPI」との違いを確認しましょう。
OKRとの違い
MBOとOKRは「目標管理」という大枠の目的は同じですが、以下の点で違いがあります。
目標について | MBO | OKR |
詳細 | 社員の目標を設定し、達成に向けて自主的に行動できるようサポートし、成果やプロセスを人事評価に反映させる | 高難易度の目標を設定し、企業の生産性や社員の大幅なスキルアップを目指す。高難易度の目標は達成できない可能性があるため、一般的に人事評価へ反映させない |
達成基準 | 100%達成 | 60〜70%達成 |
共有範囲 | 本人と上司など限定的 | 部署や企業全体で共有 |
評価や見直し頻度 | 四半期ごと(多ければ毎月) | 半年〜1年 |
設定方法 | 定量目標のみを掲げたり定量・定性の両方を組み合わせたり、企業によって異なる | 定性的な最終目標を設定し、達成に必要な定量目標を掲げる |
MBOは「目標達成」が最終目的であるため、人事評価に影響します。
一方でOKRは、高難易度の目標に挑み「企業や社員を成長させること」を重視するため、基本的に人事評価へ反映させません。
KPIとの違い
MBOは「マネジメント手法」であるのに対し、KPIは「目標達成までの進捗を測る指標」です。
目標について | MBO | KPI |
詳細 | 社員の目標を設定し、達成に向けて自主的に行動できるようサポートし、成果やプロセスを人事評価に反映させる | 目標達成に必要なプロセスを数値化して明確に設定する |
達成基準 | 100%達成 | 100%達成 |
共有範囲 | 本人と上司など限定的 | プロジェクト担当のチームや部署ごとで共有 |
評価や見直し頻度 | 四半期ごと(多ければ毎月) | プロジェクトごとで異なる |
設定方法 | 定量目標のみを掲げたり定量・定性の両方を組み合わせたり、企業によって異なる | 定量的な中間目標を設ける |
「MBOの目標達成に向けてKPIで定量的な中間目標を設ける→プロセスを踏んで目標をクリアする」と考えましょう。
KPIやOKRについては、以下の記事でオウンドメディアを例に挙げつつ、詳しく解説しています。
関連記事:KPIとは? オウンドメディアでの設定方法も解説
MBOの種類
MBOには以下の3種類があります。
- 人事評価型
- 課題達成型
- 組織活性型
人事評価型
人事評価の手段として活用する手法です。目標の達成率や取り組みをチェックし、スキルアップを図りつつ成果を評価します。プロセスだけでなく成果も評価対象となるため、従来の年功序列から脱却する際に効果的です。
ただし、社員個人の成長や評価がメインとなるため、企業の利益に結びつかないこともあります。
課題達成型
組織の目標達成を最優先に考え、トップダウンで社員目標を設定する手法です。例えば「全社売上目標を設定→部門の売上目標を設定→チームの売上目標を設定→社員の売上目標を設定」というイメージです。
社員自身に目標を設定させる「人事評価型・組織活性型」と異なり、個人目標が優先されにくいため、モチベーション低下を招くリスクがあります。そのため、管理者による定期的なフォローが必要です。
組織活性型
社員自身が目標を設定することで、仕事へのモチベーションや自主性、責任感を強く引き出す手法です。社員の意思が優先されるため、個人の成長が促進されて職場も活性化し、最終的な企業力アップを目指せます。
ただし、目標設定自体が目的になってしまい、「達成へのアクション」「進捗率の確認方法」などの設定が疎かになるケースがあるため注意しましょう。
MBOを導入するメリット
MBOを導入するメリットは、以下の5つです。
- コミュニケーション向上に繋がる
- 社員の主体性・モチベーション向上に繋がる
- 人事評価に対する納得感が生まれやすい
- 目標への対策が具体的にイメージしやすい
- 人材育成へと繋がる
コミュニケーション向上に繋がる
MBOでは、社員個人と企業の目標が結びついています。そのため「企業の目標達成に向けて社員は何をすべきか?」「管理者側は社員に何を求めている?」などのコミュニケーションを取りやすくなります。
社員と上司間のコミュニケーションが増えれば、よりオープンな職場環境を作れるでしょう。
社員の主体性・モチベーション向上に繋がる
MBOでは社員自身が目標を設定するため、「自分の仕事の重要性」「成果を達成した際の充実感」を実感しやすいです。そのため、業務のやらされ感を減らし、仕事への主体性育成やモチベーション向上につなげられます。
モチベーションの向上は、最終的な企業の生産性やエンゲージメント(企業への愛着)の改善にも役立ちます。
人事評価に対する納得感が生まれやすい
MBOでは、目標や達成率、進捗度合い、アクションなどを可視化して客観的に判断できます。そのため、社員の成果や努力を正当に評価可能です。
また、社員自身が目標を決めるため、「自分で決めた目標が未達だからこの判断は妥当」というように、評価にも納得しやすいでしょう。
目標への対策が具体的にイメージしやすい
MBOでは企業目標をベースに個人目標が結びついているため、管理者も「どのように個人目標を最適化して社員の力を引き出すか?」という視点を優先します。そのため、社員は目標達成に必要な対策だけでなく、自分の仕事が与える影響まで理解しやすくなります。
社員が自分の仕事の影響や意義を考えられれば、企業の目標達成までの動きに統一感が生まれ、最終的な事業の安定化につながるでしょう。
人材育成へと繋がる
社員自身が設定した目標に向けて主体的に行動することで、課題解決力や自己管理能力、論理的思考力など、幅広いスキルを強化できます。
さらに、スキルを身に付けた社員が実績を残し、仕事にやりがいや意義を見出せればエンゲージメントも高まります。また、企業への貢献度合いも強まり、離職率低下にもつながるでしょう。
MBOを導入するデメリット
MBOの導入には以下のデメリットもあるため注意しましょう。
- 管理職の負担が増えやすい
- 個人と組織で目標が合致しないケースもある
- 職種によっては目標が設定しにくい
管理職の負担が増えやすい
MBOでは、目標の達成率や進捗度合いを定期的に管理職が評価し、改善に向けフィードバックしなければなりません。通常業務に加えて、こうしたアドバイスの実施や面談が必要になると、管理職の負担は増加します。
さらに、フィードバックが適切でなければ部下の成長につながらず、部下・管理者双方のストレス要因となるでしょう。マネジメント人数が増えるほど、こうした負担は増加します。
個人と組織で目標が合致しないケースもある
MBOでは、個人目標が企業目標と結びつかないと、想定通りに運用できません。個人目標に偏ると企業の戦略に影響を及ぼし、逆になると社員の過剰労働やモチベーション低下を招きます。そのため、個人目標と企業目標をバランスよく結びつけるよう意識しましょう。
また、MBOは成果が人事評価に影響するため、簡単な目標を設定する社員もいます。個人目標の難易度に差があると不公平感が生まれ、モチベーション低下につながるリスクがある点にも注意しましょう。
職種によっては目標が設定しにくい
営業やマーケティングなどは、成約率やサイト成長率などで目標達成率を判断できます。一方で、人事や総務、法務などは目標を数値化しにくいため、達成基準が不明確になりやすいです。
達成基準が不明確だと、部下と上司間で認識が異なり「成果を出しているのになぜ評価されないのか?」など、管理者への不信感を招きます。そのため、人事なら「◯◯人の採用を達成する」、総務なら「備品発注のミスを前年より◯◯%減らす」というように、なるべく目標を数値化しましょう。
MBOの進め方
MBOは以下の手順で進めましょう。
- 目標を設定する
- 行動に移す
- 進捗を確認する
- 結果を評価する
1.目標を設定する
モチベーションを向上し仕事の意義を見出してもらうため、社員自身が個人目標を決めましょう。企業と個人の目標が結びつくよう、管理者が社員へ企業理念や今期の目標などを説明してから設定することが重要です。
管理者は必要に応じて部下の目標を修正しましょう。修正時も企業目標を押し付けてはいけません。「社員が望む成長を遂げられるか?」「社員がどのような役割を果たして貢献できるか?」という点を意識しバランスよく調節しましょう。
2.行動に移す
目標設定後に達成までの計画を作成したら、アクションを起こしましょう。計画は、目標達成予定日から逆算して作成し「いつまでに◯◯を行う」といった具体的なアクションに落とし込むと、行動しやすくなります。また、Excelなどで日付や進捗度合いを可視化すると、進捗確認を行いやすいです。
3.進捗を確認する
行動進捗を上司と確認しながら、未達部分の改善策を相談したり社員目標と企業目標の齟齬を修正したりしましょう。必要に応じて、上司やチームメンバーに業務をサポートしてもらうことも大切です。
4.結果を評価する
目標期日が来たら、達成率やプロセスを含めて評価しましょう。評価については、社員の自己評価と管理者の客観的な意見を総合して適切に判断します。
管理者は改善点を指摘しつつ、達成箇所や企業に貢献できた行動は素直に褒め、今後期待している点を伝えることで、社員のモチベーションを上げましょう。
MBOを成功させるコツ
MBOを成功させるには、以下のコツを意識しましょう。
- 社員に目標設定をしてもらう
- 組織の目標と合致する内容にする
- 行動変化や成長を評価することも忘れない
社員に目標設定をしてもらう
MBOでは社員自身による目標設定が大切です。自分で目標を決めることで、モチベーションや主体性の向上はもちろん、課題解決力や思考力などのスキルアップにもつながります。社員のスキルが高まりパフォーマンスが向上すれば、企業力の強化も期待できるでしょう。
組織の目標と合致する内容にする
MBOでは「企業の目標達成」をベースに個人目標を設定します。そのため、社員の意思やモチベーションを尊重しつつ、企業目標と個人目標をバランスよく結びつけましょう。企業のノルマを一方的に押し付けるのではなく、適宜管理者によるフォローが大切です。
行動変化や成長を評価することも忘れない
MBOを人事評価に活用すると目標達成率に注目しがちですが、達成までのプロセスや成長率も評価対象としましょう。目標達成率のみを評価対象にすると、個人プレーが増え「企業目標を達成する」という目的から外れます。
目標未達の場合は、社員の行動変化や成長率を評価しつつ、具体的な今後の改善点を指導しましょう。
もし、プロセスを人事評価に反映させない場合は、社員からの反発を防ぐため、管理者が丁寧に理由を説明してください。
MBOを取り入れて社内の活性化を目指そう!
今回は、MBOの概要や種類、導入のメリット、具体的な実施手順などを解説しました。
MBOは、企業目標と社員の個人目標をリンクさせることで、最終的に組織全体のパフォーマンスを向上させるマネジメント手法です。企業から一方的な業務命令を与えることがないため、社員の自主性育成やモチベーションアップにつなげられます。
管理者と社員間でコミュニケーションを取りながら、「企業・社員」の双方にベストな目標を設定し、適宜改善しながら最終的な組織力強化を図りましょう。