【完全ガイド】越境学習とは?狙いや効果を企業事例とともに解説

越境学習は自己の成長やイノベーションを促進し、企業におけるキャリア自律を高める手段として注目されています。
越境学習を導入する企業事例とともに、越境学習の定義や効果、注意点を解説します。

1.越境学習とは何か?定義を解説

越境学習とは、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を越え(“越境”して)学ぶことであり、「知の探索」によるイノベーションや、自己の価値観や想いを再確認する内省の効果が期待されています。また、自社の中での計画的な学びでは得られない、現状を打破するための能力が得られる可能性もあります。

法政大学大学院の石山恒貴教授は、越境学習を「自分にとってのホームとアウェイを行き来することによる学び」と定義しています。このような学びは、自己の価値観や想いを再確認する内省の効果が期待され、イノベーションを促進する重要な要素となります。

越境学習の特徴として、以下の点が挙げられます。
– 組織の枠を越えた知の探索が行える
– 自社内での計画的な学びでは得られない新たな視点を得ることができる
– 自己理解が進むことで、自律的な人材へと成長することが期待される

このように、越境学習は単なる知識の習得に留まらず、現状を打破するための能力を養う機会を提供します。特に、ホームとアウェイの違いを感じ取ることで、暗黙の当たり前に気づき、自己の成長を促すことが可能です。

2.越境学習が必要とされる背景

先行き不透明な時代の中、人的資本とそのマネジメント(人的資本経営)の強化が企業に求められています。
その中核となるのが、従業員の「キャリア自律」です。
所属する組織の枠を越境し、学んでいく越境学習は、視野拡大、知識・スキルの習得、イノベーションへの意欲情勢など、通常業務や従来の研修では得られないキャリア自律を高めるために必要な人材育成手段です。

さらに、人事白書調査レポートによると、約8割の企業が越境学習を重視しているという結果が出ており、ますます注目が高まっています。

越境学習が「重要だ」「やや重要だ」を合わせると約8割。企業規模が大きいほど重視する傾向
https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/2911

また、近年では「アウトプットの場」として越境学習を活用する事例も増えています。
例えば、DX人材育成を目的とし、自社の既存のe-ラーニングによるインプットを行い、その後に「実践の場」としてベンチャー企業でDXプロジェクトに取り組んだりするといった例です。後程詳しくご紹介します。

3.越境学習の効果・成果

越境学習のプロセスと効果は、「越境体験ルーブリック」により可視化することが試みられています。
越境体験ルーブリックとは、企業が越境体験を導入するにあたっての留意・工夫すべき点や、実際に越境体験をする際に学びとなる要素をまとめ評価指標として整理したものです。

また、越境学習プログラムを提供する株式会社エンファクトリーでは、越境学習者を対象に越境学習者の行動・意識変化を調査しています。
約95%の参加者が主体的なキャリア形成意欲が向上するなど、キャリア自律を構成する心理・行動面にプラスの変化が明らかになっています。

>>レポートはこちらからご覧いただけます
【越境学習者の行動・意識変化を調査】~社外プロジェクト参加が促すキャリア自律意識と、ピアラーニングを通じた本業への波及の実態~
https://enfactory.co.jp/ekkyo-gakushu/report/1935/

越境学習の成果は対象者や目的によって変わりますが、以下のような成果を得ることが期待されています

若手

エンゲージメント向上

  • 視野を広げ、物事を多面的・俯瞰的に捉える
  • 企業目的を自身に落とし込み、仕事に繋げる

中堅

次世代リーダー育成

  • リーダーとしてのマインド醸成
  • 課題発見力・提案力の向上

ミドル・シニア

キャリア自律

  • 視野を広げ、物事を多面的・俯瞰的に捉える
  • 企業目的を自身に落とし込み、仕事に繋げる

世代共通

イノベーション・風土情勢

  • 学びの定着向上、チャレンジできる環境づくり
  • 副業解禁のトライアル

4.越境学習の実践企業事例

ここでは、実際に越境学習を実践する企業の事例をご紹介します。

1)株式会社オリエントコーポレーション

株式会社オリエントコーポレーションでは、2023年3月期を初年度とする3カ年の「中期経営計画」において、新たな人財戦略を経営基盤に位置付け、社員一人ひとりの挑戦意欲に応える、自律的なキャリア形成支援の拡充に取り組んでいます。

その取組の一つが、スタートアップ企業での副業やトレーニーを含めた社内外での新たな経験付与プログラムの機会提供です。3年間で200名が参加しており、越境学習を通じて社員のキャリア形成を支援し、社員と会社が互いにWin-Winな関係性のもと成長していくことを目指しています。

参照)
https://www.orico.co.jp/company/sustainability/management

2)東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社

東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社では、2019年4月から「人間性(ハート)と専門性(プロフェッショナリティ)の追求」をテーマに人事制度を変革し、業務外における人間的な素養を高めることや、社内でのロールモデルとなるような自主的な取組みを支援し、人間性向上の推進を目的として、2020 年7月より「Humanity Enhancement Program(ヒューマニティー・エンハンスメント・プログラム)」をスタートしました。

具体的には、キャリア形成上の課題や悩みを持つ社員(メンティ)に豊富な知識、経験を有した相談相手(メンター)を紹介し課題解決を図るメンター・メンティ制度の導入の他に、多様な実践経験や価値観、知見を得るための他企業への複業留学支援(越境学習)を導入しています。

参照)
https://www.tokaitokyo-fh.jp/sustainability/materiality-4

3)株式会社パルコ

株式会社パルコでは、人材育成の取り組みの1つに、社員一人一人のモチベーション向上とスキルアップを目指し、各キャリア・各分野に応じた教育プログラムとともに、他社での越境学習プログラムを実施しています。

参照)
https://www.parco.co.jp/sustainability/theme/employee.php

4.越境学習の注意点

越境学習は、社員のスキル向上や視野を広げるための非常に有効な手段ですが、実施にあたってはいくつかの注意点があります。これらをしっかりと理解し、対策を講じることで、より効果的な学習体験を提供することができます。

越境学習を成功させるためには、以下のポイントを考慮することが重要です。

– 目的を明確にする
– 越境者への関わり方
– 継続的なサポートを提供する

1)目的を明確にする

越境学習を実施する前に、何を目的に導入・実施するのかを明確にすることが不可欠です。
さらに、選抜で実施する場合は、参加者が持つニーズと、企業が持つ期待や狙いをすり合わせることが重要です。

また近年、越境学習は、キャリア自律や組織風土改革といった従来の目的に加え、より経営戦略への連関を強め、ア
ウトカムへ繋げることを目的としたテーマ別課題(イノベーション、学習スキルの実践・定着、女性活躍)
といった
文脈でも活用されることが増えてきました。

例えば、「経営人材育成」「リーダー育成」をテーマとした場合、経営人材・リーダーとしての視座・視点の獲得やあらゆる事態に適応できるようになるためには、「経験/場数」が重要となります。
越境学習を「経験学習」の場として、座学の研修に、課題先進地域やスタートアップ企業における複雑かつ正解のない課題解決へのチャレンジ経験を組み合わせ、組織やチームマネジメントの実践で活きるマインド・スキル/自己変容知性を育成しています。

2)越境者への関わり方

越境体験ルーブリックでは、上司など越境体験者の周囲の人間がどのような行動を行うべきかが記載されています。その中でも特に「適度に関わる」ことが重要だとされています。「適度に関わる」とは、越境者に関心を持ちつつも極力踏み込まず、陰から見守る姿勢です。

越境学習の肝は本人の「葛藤」です。もがき悩む過程で、本人の考え方や人間性に影響を与えるような深い学びを得ることができます。上司としてはすぐに業務に生きるようなスキルの獲得や具体的な成果物を期待するのではなく、「葛藤」を乗り切れるような精神面のサポートやアドバイスを行えると良いでしょう。

また、人事としては研修生と周囲(ピア)との関係性を丁寧に保つようなフォローを行うことで、研修生はもちろん、周囲の人にも良い成長機会を与えることができます。エンファクトリーでは、複業留学実施時に「ピアサポーター」と呼ばれる研修生の伴走者を上司や同僚の方にお願いし、活動レポートへのコメントや報告会への同席、日々の声掛けを共に実施しています。その結果、ピアサポーター自身の刺激や成長、越境への関心にもつながっているということが明らかになりました。

3)継続的なサポートを提供する

越境学習は一度きりのイベントではなく、継続的なプロセスです。学習後もフォローアップを行い、参加者が学んだことを組織で実践できるようサポートすることが重要です。

組織の学びに変えていくためのポイントの1つが「身近な人の影響を受ける環境を作り出すこと」です。リクルート社が実施した「兼業・副業に関する動向調査2020」によると、「兼業・複業実施のきっかけ」の1位が「すでに兼業・副業している人が身近にいた」が3割となっており、身近な人の影響を受け態度変容が起こり「雪だるま式」で組織全体に広がっていくことが分かります。

具体的には、越境者へのインタビュー、活動レポートの作成や社内報への掲載、活動共有会の設定をおすすめします。

例:越境者へのインタビュー項目
  • 社外への越境に手を挙げた理由を教えてください
  • ほかのメンバーに越境をおすすめするとしたら、どんな言葉をかけますか?
  • 留学先での活動内容を教えてください。また、どんなスキル、能力、ノウハウが活かせたと思いますか?
  • 留学先で困ったことは何ですか?またどのように乗り越えましたか?
  • 留学先で一番驚いたこと、違いを感じたことは何ですか?
  • 複業留学の前後で何が変わりましたか? もし、周りの人への影響があれば教えてください。
  • 同時期に複業留学に取組んでいた同期との関わりや互いの活動・レポートから学びや気づきはありましたか?
  • 第三者からの評価を受けて、どう感じましたか?
  • 留学での経験を、今後どのように活かしていきたいですか?

これらの注意点を踏まえ、越境学習を実施することで、社員の成長を促し、企業全体の競争力を高めることができるでしょう。

>>さらに詳しい情報を知りたい方は、「はじめての越境学習ガイドブック」をぜひご覧ください
https://enfactory.co.jp/ekkyo-gakushu/report/1870/

5.最後に

越境学習とは、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を越え(“越境”して)学ぶことであり、「知の探索」によるイノベーションや、自己の価値観や想いを再確認する内省の効果が期待されています。
しかし、効果的に実施するためには、企業や個人の目的や関わり、導入手順等細やかな準備が必要です。

越境学習に特化してプログラム提供を行い累計270社7,000名以上の支援を行ってきた株式会社エンファクトリーでは、企業の目的に合わせた越境学習プログラムを展開しています。

はじめて越境学習を導入する企業にも効果を実感いただけるプログラム設計となっているので、ぜひ興味のある方はお気軽にお問い合わせください