エンファクトリーが提供する越境型研修サービス「複業留学」は、大手企業の従業員がベンチャー企業で実務を行う「越境研修」です。 今回は実際に研修に取り組んでいただいた株式会社オリエントコーポレーション 笠松様に、複業留学についてインタビューいたしました。
──本業での仕事内容を改めて教えてください。
現在は内部監査グループに所属しており、主に内部監査の企画業務を行っています。
内部監査の目的は、各部門でどのように業務が行われているのかを検証し、当社およびグループ会社の経営の健全性の維持持続的な企業価値向上に貢献することです。
そのため、各業務のガバナンス体制やリスクマネジメント、コントロールの各プロセスの有効性を評価し、問題点があれば改善の提言をするといった活動を行っています。さらに、内部監査の高度化に向け、社内の監査スキルや体制の改善にも取り組んでいます。具体的には、リスク評価、規程の見直しや業務方法の改善、他部門との連携方法の検討など、より良い監査態勢を整備するための企画を行っています。
──複業留学に手を挙げた理由を教えてください。
理由は主に二つあります。一つ目は、幅広い考え方や視野の習得です。当社での社歴が長いため、自分の考え方や行動が会社の常識やルール、過去の経験に囚われすぎているおそれがあると感じており、自分の考え方や業務の進め方に偏りがないか、他社でも通用するのかなどを、当社とは異なる環境で見つめ直したいと考えました。近年の目まぐるしい環境変化に対応するためには、変革が求められており、社内だけでなく、社外でも通用するスキルや視点の向上が必要だと思い、新たな経験を積むために応募しました。
二つ目の理由は、他社の風土や文化の体感です。内部監査においても、近年、企業風土・文化の監査が注目されており、会社の組織風土やガバナンス体制の改善について考える機会を得たかったからです。他社の組織風土に触れることで、オリコの良さや課題を再認識できるのではないかと考えました。
──複業留学先での活動内容を教えてください。
複業留学先で取り組んだ活動は、情報セキュリティ、DX推進およびCX戦略推進の3つです。
情報セキュリティでは、個人情報の委託先管理に伴う情報セキュリティチェックシートの効率化を提案しました。これは留学先の課題である、業務負荷を軽減するためのもので、個人情報保護法の要件を満たすように整理しつつ、サービス契約条項の見直しなど、業務実態に即した具体的な対応手順の提案を行いました。
また、セキュリティ部門の位置づけや役割などを整理し、セキュリティ部門の本来業務とは何か、どのように業務を進めるのが正しいのかという観点で業務内容や体制の見直しを検討しました。その結果をもとに、3ラインモデルを参考にしたガバナンス態勢の構築や、セキュリティ部門では、リスク監視機能・セキュリティ統括機能をメイン業務とすることを提案しました。
DX推進では、留学先でのDX認定取得に向けてのDX戦略とDXビジョンの具体化方法の調査を行いました。当社が認定を取得した経験をもとに、DX認定取得のプロセスや認定基準への対応方法などの要点を調査・整理して報告書にとりまとめ、具体的にどのような手続きを踏んだのか、どのような考え方で進めたのかを説明し、留学先においてどのようなプロセスを踏んで戦略を設定すれば良いかを提案しました。
また、DX人材育成の事例についての市場調査・分析も行い、報告書を作成しました。
留学先がDX人材育成に課題を感じておられたため、DX認定を取得した企業を対象に、DX人材育成の方向性や水準、具体的な育成方法の取組事例について市場調査し、分析しました。その結果をもとに、取組事例を5つに類型化し、どのような育成方法があるのか、それぞれの育成方法の特徴やメリット・デメリットは何かなどを取りまとめ、報告しました。
CX戦略では、新事業の導入推進策やプレスリリース、セールスプロセスなどについての戦略会議に参加し、私の業務経験を活かし、留学先の提案相手として想定される、情報セキュリティ担当者やサービス利用者として、ユーザー目線からの意見や提案を行いました。
──どんなスキル、能力、ノウハウが活かせたと思いますか?
私は以前情報セキュリティおよび個人情報管理に関わる業務を担当していたため、その経験やスキル、個人情報保護法やリスクマネジメントなどの専門知識などが活かせました。
また、内部監査での経験も活かせました。特に組織全体で取り組むガバナンス体制の構築や機能実現などを検討する業務を通じて得たガバナンスモデルなどの知識が、セキュリティ部門の役割やガバナンス態勢構築の提案につながりました。
DX推進に関しては、市場調査や分析のスキル、改善策の提案に向けた課題整理や情報収集のためのコミュニケーションのスキルも活かせたと思います。
CX戦略に関しては、BtoBの商品開発や営業の経験が、どのように伝えれば相手に響くのか、プレゼン資料の構成はどうするべきかなどの意見に活かせました。また、情報セキュリティ担当者としての経験を活かして、ユーザー目線での意見や見解を提供でき、現実的な提案やリアリティのある意見につながったと思います。
──複業留学で困ったことは何ですか? どのように乗り越えましたか?
困ったことは、留学先の業務実態や全体像を把握するのが難しかった点です。
私は提案や課題解決を行う上で、事業の実態に応じたものを提供することが重要だと考えています。しかし、数か月間では、留学先の全体像を把握するのは難しいです。特に、セキュリティ部門の役割やの在り方を整理するという課題については、会社のポリシー、業務内容、組織の仕組みなどを深く理解しなければ、適切な提案ができないため、苦労を感じました。
この点に対しては、留学先の方との緊密な対話を通じて、組織の話や業務内容などを把握することで対応しました。また、完全な正解にこだわるのではなく、あくまでも仮定として、「もし組織や業務がこのような状態だったとしたら」という視点で、一つのアイデアとして提案を行うことを試みました。
そうして、どのようなものをアウトプットするかを十分に話し合い、成果物のイメージを煮詰めていきました。また、正解が不確かなことでも避けずに、仮説を立てることで、ディスカッションが進むようになりました。これにより、「ここは仮説とは違う」という新たな発見や理解を得ることができ、困難を乗り越えることができました。
──留学先で一番驚いたこと、違いを感じたことは何ですか?
特に驚いたことは、 自由に意見する風土が根付いていて、実際に自由闊達な意見交換が行われていることです。誰もが 積極的に自分の思ったことを発言していて、当社に比べて、留学先はより発言しやすい環境にあると感じました。
例えば、プロジェクトのスケジュール遅延が判明した際、遅延部門以外のメンバーも積極的にリカバリー対策や他の工程への影響などについて意見しており、全員が自分事としてプロジェクトに臨んでいて、自律性の高さを感じました。特に、遅延自体を責めるような発言は無く、どうすればリカバリーできるか、どうやって問題を解決するかという建設的な意見が多い点に感心するとともに、 マイナス情報でもはっきりと報告しやすい環境が整っていると感じました。
また、より良いものを追求する拘りの強さに感銘を受けました。潜在的なニーズを顕在化し、新しくてより良いものを作っていく風土があり、そのために各自が意見を出し、合意形成してく点も印象的でした。
戦略やプロジェクトにおいて、トップダウンは、ほとんどなく、ボトムアップで進められている点も留学先と当社とのプロセスの違いを感じました。このようなボトムアップでの組織横断的な合意形成により、一体感の強さにつながっていると感じました。
──複業留学の前後で何が変わりましたか? もし、周りの人への影響があれば教えてください。
DX推進やCX戦略などの未経験分野について、座学で得た知識は多少ありましたが、実際に業務の中で、その知識を実践されているところを体感し、理解が深まるとともに、経験不足も実感し、ますます 継続的なリスキリングに取り組もうという意識が高まりました。
また、留学先では、顧客の目線でニーズを顕在化させ、課題解決につながる新たな市場や商品を生むという視点や使命感、より良いものを目指すという意識が非常に高いことに触れ、私もそのような視点や意識を更に高めていかなくてはいけないと感じるようになりました。
周りの人への影響という点では、影響と言えるか分かりませんが、私の留学参加を知った先輩や同僚、後輩達から、どんなことに取り組んでいるのか、何が学べるのか、面白いか、といった質問を受けるようになりました。私の経験を伝えることで、留学という自己成長の機会への興味を深めるきっかけになったのではないかと感じています。
──同時期に複業留学に取組んでいた同期との関わりや互いの活動・レポートから学びや気づきはありましたか?
私もそうでしたが、同期のレポートを読んで、やはり、全く別の組織に行くと、その組織の業務実態や経営状況を理解するのに苦労すると感じました。自分の実力を発揮し、留学先に求められていることを実行するには、留学先の使命や業務の目的、何を達成したいかなどをよく知ることが重要だと思いました。そんな環境でも、コミュニケーションを通じて、同期それぞれが培ってきた業務経験やスキルが他社で貢献できる部分は大いにあると感じました。
また、提案営業の事前準備の大切さを再認識した同期や、SNS発信という全く初めての業務に取り組んだ同期の活動を知り、これらの取り組みで、新しいことに挑戦する面白さや、事前準備、企画提案、コミュニケーションの方法など、当社と異なる環境で経験したことが、皆のスキル向上につながっていると感じました。
──第三者からの評価を受けて、どう感じましたか?
高い評価をもらえたことに感謝するとともに、留学先に貢献できて良かったと安心しました。
また、 自分自身のスキルや業務経験、ノウハウなどが社外でどのように評価されるかを知ることができ、この留学は有意義だったと感じました。
中でも、プレゼン資料や報告書が、精緻で質が高く、分かりやすいと評価いただいたのは、自分でも心がけていた点なので、うれしく感じました。
パッションや持っているエネルギーを外に出さない点がもったいないと評価を受けた点については、もっとコミュニケーションを取らないといけなかったなと思いました。
さらに、自分がポジティブ思考であるという評価を受けたのは新たな発見でした。自分では意識していなかったのですが、他者から見てポジティブに映るということは、自分の行動や考え方が良い方向に培われているのかなと感じました。
──複業留学での経験を今後どのように活かしていきたいですか?
皆が自由闊達に意見を交わせる環境の大切さを再認識しましたので、それを自分の所属組織でも引き継ぎ、自らもより積極的に意見するとともに、ボトムアップや自由に意見しやすい環境づくりを意識していきたいと思います。また、自分が一般的だと思っていることが、他社目線ならではの意見としてプラスになり得ることも実感し、やはり、 躊躇しすぎず意見することは大切で、自律性の向上につながると感じています。
この経験を周りに伝播し、相手の意見も尊重し、皆で考えて目標に向かってアイデアを出していくような、変革を目指すことが当たり前になるような風土作りに活かしていければと思います。
また、潜在的なニーズを顕在化し市場を作っていくという視点や、いかに課題解決し体験価値を提供するか、ということがビジネスの成功の鍵になるという考え方も体感したので、今後、内部監査業務などを通じて、全社の各業務部門と関わる中で、今回学んだ考え方や視点の大切さを各部門に伝え、意識の醸成に活かしていければと思っています。
──ほかのメンバーに複業留学をおすすめするとしたら、どんな言葉をかけますか?
もし、留学への参加に悩んでいる人がいるのであれば、迷う必要は全然ないですし、複業留学に取り組んだとして、デメリットはないと伝えたいと思います。もちろん、自分の業務に影響が出るかもしれませんが、それを含めて、複業留学に取り組むことで、タイムマネジメント能力も身につくのではないかと思います。
全く知らない組織において、どのように業務を進めていくかという経験は、自社内では得られない貴重なものです。もし仮に留学先での課題が達成できなかったとしても、そこから多くを学べると思います。
また、自分の何が良くて、何を向上させていくと良いかといった評価を社外の人からいただく機会は、なかなか得られないので、その点でも複業留学は価値があると思います。ぜひ、迷わずにチャレンジしてほしいと思います。
──複業留学を終えてみて、どうでしたか?
幅広い考え方や視野の習得や、他社の風土や文化の体感を目指して、参加した留学でしたが、未知の分野であったDXやCXなどの業務を体験し、多くのことを学ぶことができ、とても充実した、楽しい経験になりました。
これまでに培った自分の経験やスキルなどが他社でも通じる部分があり、貢献できることもあるということを知ることもできました。また、他社との風土の違いも良く理解でき、自分が想像していたよりも、各社によって風土が違うということを実感しました。
留学を通じて学んだ多様な知識や考え方は、今後の業務に活用できる財産となったと思います。
──改めて自社の良さを感じたところはありましたか?
自社の良さとして、人員の多さや業歴の長さに基づく、知見やノウハウなどの情報資産が豊富であることや、システム化の充実度、組織の体制などがしっかりと整っていて、恵まれた環境である感じました。