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【後編】山口周さんが唱える「ニュータイプのワーキングスタイル」とは? 「副業特区会議」特別講演『これからの時代における「個と企業の関係性」』

2019年12月11日に、「副業特区会議」の特別講演として『これからの時代における「個と企業の関係性」』をテーマとした講演が開催されました。イベントレポート後編では、独立研究者/著作家/パブリックスピーカーの山口周さんの特別講演の内容をご紹介いたします。当日は下記の10項目について盛りだくさんの内容でお話いただきましたが、本レポートでは一部を抜粋してお伝えします。

イベントレポート前編はこちら>>>

 

年功序列の終焉。若者や非・専門家が欠かせない時代に

まずは「若い人が組織・社会にとっても大事な時代」「相対的に年長者の価値が目減りしている時代」というトピックについてお話します。

独立研究者/著作家/パブリックスピーカー 山口周さん
1970年東京生まれ。独立研究科者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー等で企業戦略査定、文化政策立案、組織開発に従事した後、株式会社ライブニッツを設立。株式会社中川商店、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。一橋大学院経営管理研究科非常勤講師。著書の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は2018年度HRアワード最優秀賞、ビジネス書大賞準大賞を受賞。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。

日本企業では、年齢が高い人のほうが高価値で平均給与も高いとされる年功序列制度が一般的です。しかし、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)という現代の世界的プラットフォーム企業は、どれも当時20代の若者が立ち上げた企業です。現在ではそのGAFA企業に、年功序列制度を歩んできた日本の50代・60代の経営者は振り回されている。世界的には日本の年功序列構造は完全に時代遅れで、世代関係なく活躍できる時代になりつつあります。

心理学者のレイモンド・キャッテルによると、アイデアをひらめく「流動性知能」のピークは10代半ばだそうです。一方で年長者の知恵ともいえる「結晶性知能」は、世の中が変わらないという前提で初めて役に立ちます。どんどん物事が変わる世の中で、年功序列という構造は本当にベストといえるのか。単に年齢の高さのみで等級や役職が決まることは、果たして競争力につながるのか。年功序列のみを重んじる制度や文化は、改めて再検討する必要がありそうです。

続いて、「組織や社会の成長には『前任者の否定』が必要」というトピックについてお話します。科学史家トーマス・クーンが重大な指摘をしており、「本質的な発見によってパラダイムへの転換を成し遂げる人間のほとんどが、年齢が非常に若いか、或いはその分野に入って日が浅いかのどちらか」ということだそう。つまり、イノベーションを起こすためには門外漢や素人の知見が重要なのです。

進化論を提唱したチャールズ・ダーウィン、電話の発明者グラハム・ベル、DNA二重らせん構造を発見したフランシス・クリック、彼らはすべて非・専門家です。イノベーションを生む革新的なアイデアは、専門家よりもむしろ専門外の素人によって唱えられることが多いのです。

画一的な「正しさ」が不正解となりうる時代。頼るべきは自身の「センス」

次に「『正しさ』に価値が認められない時代に」という話をします。2007年の日本ではさまざまな種類の携帯電話が売られていましたが、現在の携帯電話市場ではiPhoneのシェアが大半を占め、日本の携帯電話産業はほぼ消滅しました。なぜ日本の携帯電話産業が弱いビジネスになったかというと、「正解」1本で戦ってしまったからです。

消費者調査をして統計どおりに精密にモノを作る場合、調査・統計が正しければ正しいほど、そのプロダクトはひとつの「正解」にたどり着きます。産業の世界では、みんなが正解のプロダクトを作ってしまうと周りと差別化できず、結果として正解は0点になってしまう。日本の携帯電話市場が0点の正解でコモディティ化していた中、消費者調査は行わず「僕たちはこれがかっこいいと思う」とiPhoneを世に出した西海岸の企業は、たった3年で日本の携帯電話産業を打ち負かしてしまいました。日本の優秀な人たちが誠実にモノづくりを行った必然的な結果として、日本の携帯電話は弱いビジネスになったのです。

このように「正解」が必ずしも価値を持たなくなりつつある昨今、マーケティング・統計の知識や実直な性格などの、これまで優秀とされてきた人の特徴が通用しない場面も増えています。“優秀さの定義”も書き換えないといけない時代が到来していると言えそうです。

「失敗するなら若いうち」という話もしたいと思います。副業の大きな利点のひとつは、失敗できる確率が増えること。特に日本の大企業は、若い時に失敗させてくれません。成功・失敗に関わらず、自分で考えて動いた結果こそが“経験”として意味を持ちますが、日本の大企業に勤めていると、決断経験を積めるフェーズはキャリアのかなり後半です。これは、日本の抱える大きな問題だと思います。

先日、「いいビジネスマンはセンスがすべてだ」という内容の本(『「仕事ができる」とはどういうことか?』楠木建・山口周著)を出しましたが、センスを鍛えるのは経験力だと考えています。経験力を得るためには、挑戦、そして失敗が欠かせない。失敗のコストとリターンを考えると、若い時は任されている仕事の責任は比較的小さいため、失敗してもそれほど大きなコストではない。それに、若いうちは学習能力が高いので失敗から得られる学びも大きく、その学びを生かせる時間も長いため、リターンはとても大きいです。一方で、出世を経て年長の社員となったのちの失敗は、仕事の責任も重くなるためコストは大きく、学習能力が低下する割には学習内容を生かせる期間が短いためリターンは小さい。そのため、若い時に失敗ができない現状は、経験力のある社員を育てることが出来ず、結果として日本企業の足腰を弱くしています。

たくさん失敗をすることは経験力を磨きセンスを鍛えることができるため、個人および企業の成長にとって大きな要素です。現状、社内で失敗することが難しいのであれば、副業は失敗する場を増やすために非常に有効であると思います。

前提として「提案はつぶされる」。イノベーションを形にするためには?

最後に「提案はつぶされる」。イノベーションのアイデアがないと言う経営者は多いですが、そもそも彼らはイノベーションのアイデアを目にした際、その真価を見抜くことができるのでしょうか。

過去の事例を調べてみると、グラハム・ベルが電話の特許を売ろうとしたとき、当時の電報会社は「価値がありません」と断った。絵から音声が出るトーキーが生まれたとき、映画会社のワーナーは「映画から声が出ることを望む人は世界で一人もいない」と見向きもしなかった。つまり、革新的なイノベーションのアイデアはなかなか見抜けないのです。

では価値あるアイデアを形にし、イノベーションを起こすにはどうすれば良いのか。重要なのは、いちど提案が却下されたとしても諦めず、自分のアイデアやコンセプトを買ってくれる人を粘り強く探し続けることです。

自分のアイデアを買ってくれる人、つまり「味方」を作るためにはネットワーク・人脈が非常に大切です。ひとつの企業・組織のみに属し、垂直的なネットワークしか持たない場合、上司に潰された時点でそのアイデアは潰れてしまいます。しかし、社内の他部署や社外にも水平的なネットワーク・人脈を広げていると、上司以外にもどんどん味方を見つけることができるでしょう。この「味方を見つける」という意味でも、社外で副業を行うことは、イノベーションを起こすために有効だと思います。

以上が私からのお話です、ご清聴ありがとうございました。

株式会社エンファクトリー代表加藤さん、フリーランス協会代表平田さん、そして山口周さんより、副業をとりまく状況やその意味合いについてそれぞれの観点からお話を伺うことができました。山口さんの講演では冗談や笑い声も飛び交う和やかな雰囲気の中、皆さん熱心にお話に聞き入り、新しい働き方への関心の高さと副業解禁の機運の高まりを感じました。

 

written by 三浦亜有子

フリーランスライター、エディター。月刊PC誌の編集記者として、オフィスソフトをはじめコンシューマー向け製品・サービスに関する記事執筆を担当。ウェブメディア関連企業にて新規事業立ち上げを経験したのち、2006年よりライターとして独立。現在はITを中心にライフスタイル、住宅、金融など幅広いテーマの取材・体験記事を執筆。

 

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