エンファクトリーが提供する越境型研修サービス「複業留学」は、大手企業の従業員がベンチャー企業で実務を行う「越境研修」です。 今回は実際に研修に取り組んでいただいた大鵬薬品工業株式会社 阿部様に、複業留学についてインタビューいたしました。
──参加が決まった際の率直なお気持ちを教えてください。
まずは何をするのかという点については、少し不安があり、異なる会社で働くという新たな環境についても具体的なイメージが湧いていませんでした。しかし、それが逆に自分の知らない世界の人たちと話すという新鮮な経験を期待させ、非常にわくわくしていました。それが楽しみで、参加を決意しました。
──参加するにあたり、複業留学にどんなことを期待されていましたか?また、それは得られましたか?
私が一番期待していたのは、異なる組織や業界で働いている人たちとの意見交換でした。異業種の方々と話すことで、異なる視点や環境からの意見を聞くことができると考え、異文化交流とは少し異なりますが、異業種間のコミュニケーションとでも言えるでしょうか。それが一番の期待でした。
その期待は三ヶ月の間に実現したと思っています。予想していた形とは少し違ったかもしれませんが、期待していた意見交換はしっかりと行うことができました。
──本業での仕事内容を教えてください。
私の本業は、医薬品の有効成分である原薬と呼ばれる化合物を安定的に商用生産可能な製造方法を開発することです。また、本業から派生する形で、学術的な成果をアピールするための活動も行っています。具体的には、業績を上げたことを広く知らせるために論文を執筆したり、その論文が読まれることで業界から講演の依頼が来たりします。これらの活動は、私たちの研究成果を広く知らせるだけでなく、優秀な人材を引き寄せるためのアピールにもなるため、積極的に取り組んでいます。
──複業留学先での活動内容を教えてください。また、どんなスキル、能力、ノウハウが活かせたと思いますか?
複業留学先では、感情分析やアイトラッキングに関するAIソフトを開発及び販売している企業で活動しました。活動内容としては、展示会へ参加しての製品説明や、大阪万博の操作説明資料の英訳、そしてAIソフトの有用性の見える化などを行いました。
その中で特に活かせたと思うスキルは、一つ目に、長時間の会話を通じて情報を引き出す能力です。これは展示会での製品説明や、業界の境界についての理解を深めるために役立ちました。二つ目に、データ解析のスキルも活かすことができました。統計解析により製品の有用性を客観的に示すためのデータ可視化を行いました。これは、ソフトウェアを使うスキルと統計解析の知識が必要で、これらが私の強みとして活かせたと感じています。
──複業留学で困ったことは何ですか? またどのように乗り越えましたか?
複業留学で困ったことは二つあります。一つ目は、はじめに複業留学の概要を聞いた時は、異なる会社で直接対面で留学先の事業者と話し、活動するといったイメージを持っていましたが、実際にはオンラインでの活動が主で、イメージとは違ったため、最初は戸惑いました。
これに対しては、オンラインでのコミュニケーションツールを活用し、頻繁に連絡を取ることで乗り越えました。
二つ目は、本業と複業の両立に苦労しました。まずは本音で相談することが一番の解決策となりました。留学先の方に現状を説明し、できる範囲での活動にシフトしたことで双方の負担を軽減することができました。
──留学先で一番驚いたこと、違いを感じたことは何ですか?
一番驚いたことは、 仕事に対して明確な答えが存在しないことを改めて認識したことです。本業は有機化学を基にした新薬の研究開発であり、答えが明確でなく、本業に対しても難しいというイメージを持っていましたが、留学先での経験を通じて、どんな仕事でも簡単な仕事はほとんどなく、全ての仕事で苦労することを改めて感じました。
また、私の本業では、科学的な理論に基づいて問題解決を進めることが多いのですが、留学先では販売や顧客獲得といった業務に取り組む中で、相手が人間であることから 正解が存在しないということを痛感しました。事例を集めて予想を立てることは可能ですが、実際の場面ではその人の様子を伺いながら探りながら進めるしかないということを学びました。これらの経験から、留学先での仕事は私がこれまで見てきたものとは異なるものであることを実感しました。
──複業留学の前後で何が変わりましたか? もし、周りの人への影響があれば教えてください。
複業留学を経験したことで、 働くことに対する視点が大きく変わりました。今回の複業留学で、スタートアップ企業で働く機会をいただき、スタートアップ企業が集まる展示会やプレゼンを聞くことで、彼らが取り組んでいるリスクの大きさや情熱を直接感じることができました。これまでスタートアップ企業に対するイメージはテレビで見たものしかありませんでしたが、実際に関わってみると、 彼らは本当に楽しみながら仕事をしていると感じました。
この経験を通じて、自分自身が仕事に対して持っていたフラストレーションを再認識し、就職活動や転職活動をしていた時の気持ちを思い出しました。そして、自分が今、 本当にやりたい仕事ができていること、素晴らしい環境で働けていることを再認識することができました。
私が得た経験や感じたことを伝えることで、周りの人も自分自身の働くことに対する考え方を見直すきっかけを持つことができたのではないかと思います。特に、一部の部署で退職者が多く出たという問題が起きていた時期には、私の経験を共有したことで、一部の人々が退職を考え直すきっかけになったと思います。仕事が多忙であることや、厳しい業界環境など、フラストレーションを感じる要素は多々ありますが、それでも仕事があること自体が素晴らしいことであるということを、私自身も周りの人々も再認識することができました。
──同時期に複業留学に取組んでいた同期との関わりや互いの活動・レポートから学びや気づきはありましたか?
同期との関わりや互いの活動・レポートから多くの学びや気づきがありました。複業留学が始まる前の段階で、同期と一緒に飲み会を開く機会もあり、その時点ですでに同期の皆さんが非常に前向きで明るい方々であることを感じていました。
その経験が基にあり、同期の皆さんの活動を見ていく中で、どれだけ前向きに取り組んでいるかをより実感することができました。
また、同期の中にはまだ複業留学の受入先がなかなか決まらない方もいましたが、交流を持つことで、彼らの苦労や悩みを共有することができたと思います。
互いの活動・レポートから、同期の皆さんがどのように複業留学に取り組んでいるか、どのような思いを持っているかを知ることができ、一緒に頑張る仲間がいることを実感し、それが私自身のモチベーションにも繋がりました。
──第三者からの評価を受けて、どう感じましたか?
留学先から受けた評価や、温かい言葉、応援の声はとても嬉しかったです。私が恵まれた環境にいることを改めて感じ、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
前職では、乱暴な物言いの先輩や上司がほとんどでしたが、最近は前向きで明るく、ネガティブなことを言わない人たちに囲まれています。特に、留学先の代表は非常に前向きで温かい方で、彼らに支えられていることを実感していました。
──複業留学での経験を今後どのように活かしていきたいですか?
自分自身が働くことの目的を改めて見直すことができました。この経験を活かし、前向きに仕事に取り組むことが大切だと感じています。現在は課長という立場にあり、多くのプロジェクトメンバーと共に働いています。彼らが苦しい環境にあることを理解し、それぞれが働くことに対して自分自身を見直し、何をしたいのかを気づかせるきっかけを作ることが重要だと考えています。私自身が複業留学という経験を通じて得た気づきは、必ずしも全ての人に通じるわけではありませんが、それぞれが楽しく仕事を続け、成果を出せるように、自分が何をできるかを考え続けることが大切だと思います。私自身が動くことで、チーム全体が成長できるように努力していきたいと思います。
──ほかのメンバーに複業留学をおすすめするとしたら、どんな言葉をかけますか?
まず、複業留学は業界の違いを体感し、新たな視点を得る絶好のチャンスだと伝えたいと思います。初めての経験で不安もあるかもしれませんが、その一歩を踏み出すことが大切だと声をかけたいです。また、「やってみなよ」という軽い気持ちで始めてみるのも良いと思います。複業留学は自分次第でどうにでもなる経験です。前向きに取り組むことで、自分自身の成長や新たな可能性を見つけることができると伝えたいと思います。