ビジネス環境の変化が激しさを増す昨今、多くの企業に求められているのが「イノベーション人材」の存在です。
しかし、一部の企業では「イノベーション」という言葉ばかりが先行しているのも事実。組織の成長につながるイノベーション人材を育てるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
本記事では、イノベーション人材の定義や3つのタイプ、育て方を徹底解説します。イノベーション人材の育成に成功した企業事例も紹介するので、ぜひ自社の人材育成にお役立てください。
目次
企業に必須のイノベーション人材とは
イノベーション人材とは、わかりやすくいえば「新しい価値を創造し、企業の成長を牽引できる人材」のことです。
まずは、イノベーション人材の定義について確認していきましょう。
イノベーションとは
「イノベーション」とは、従来にない新しい価値を生み出すことを指します。新技術の開発やビジネスモデルの刷新などが、ビジネスにおける「イノベーション」の一例です。
最近のイノベーションには、以下が挙げられます。
- スマートフォンやパソコンの発明
- サブスクリプション型のビジネスモデル
- シェアリングエコノミー(メルカリなど)
イノベーションは、一度起こると世界中に影響を与えます。世界知的所有権機関(WIPO)が発表している各国の「イノベーション指数」は、2025年時点で次のようになりました。
| 国 | 順位(2025年) | 順位(2024年) |
| スイス | 1位 | 1位 |
| スウェーデン | 2位 | 2位 |
| 米国 | 3位 | 3位 |
| 韓国 | 4位 | 6位 |
| シンガポール | 5位 | 4位 |
| 日本 | 12位 | 13位 |
スイスやスウェーデンに加え、ITを牽引する米国が3位にランクインしています。日本は全139カ国中12位にランクインしていますが、労働生産性の低さやIT活用の遅れなどの課題も数多く指摘されています。
参考:WIPOグローバル・イノベーション・インデックス 2025年版: スイス、スウェーデン、米国、韓国、シンガポールが上位に; 中国がトップ10入り; イノベーション投資の伸びは鈍化
イノベーション人材の定義
イノベーション人材とは、新しいアイディアを着想し、それを形にできる人材のことです。
イノベーション人材には、次のような特徴があります。
- 新しいアイディアを生み出すのが得意
- 変化を恐れない
- 失敗を前向きに捉えることができる
- アイディアを具体化することが得意
これらの素質には生まれつきの要素も関わってきますが、発想力や前向きなマインドなどは後天的に身につけることも可能です。研修などの人材育成施策に力を入れることで、社内にイノベーション人材を増やすことができます。
イノベーション人材が必要とされている背景
昨今、イノベーション人材のニーズがますます高まっています。文部科学省が2024年に公表した資料によると、イノベーションが必要な背景は以下の5つです。
- 少子高齢化の進行
- 日本の成長停滞
- 社会変化の加速(生成AI・市場のグローバル化)
- 価値観の変化
- 研究力・技術力・起業力の課題
ご存じの通り、日本では少子高齢化が進行しています。1年間の大学進学者数は現在約65万人とされていますが、2040年には約51万人まで減少すると予想されています。多くの業界で働き手が不足しますし、国内市場の縮小も避けられません。こうした事情から、海外を含めた新たな市場を開拓できるイノベーション人材の価値が高まっているのです。
また、生成AIを始めとする技術革新も重要な背景の一つです。今後は、ルールに沿うだけの単純な定型業務はAIによって代替されると言われています。一方、発想力や複雑な思考力が求められるイノベーション創出は、人間にしかできない仕事です。
参考:文部科学省「2050年を見据えた 「シン・ニッポンイノベーション人材戦略」 (案) 」
イノベーション人材の3つのタイプ
ハーバードビジネススクール教授のクレイトン M. クリステンセン氏らの研究によると、イノベーション人材には次の3つのタイプが存在します。
- デザイナータイプ
- デベロッパータイプ
- プロデューサータイプ
3つのタイプはいずれもイノベーション創出に欠かせませんが、活躍する場面が異なります。それぞれ、以下のような場面で力を発揮するのが特徴です。
| デザイナータイプ | 上流 | 新しいアイディアを着想する |
| デベロッパータイプ | 中流 | アイディアを具体化する |
| プロデューサータイプ | 下流 | 周囲を巻き込みながら事業化する |
イノベーション人材の3タイプを解説します。
デザイナータイプ
デザイナータイプは、新しいアイディアや構想を生み出すことが得意な人材です。
日常生活でも些細な改善点に敏感で、「こうすればもっと良くなるのではないか」という発想を次々と思いつきます。こうしたタイプは、イノベーションの最初の起点を生み出す貴重な存在です。
一方、思いついたアイディアを形にするところまでは苦手な場合もあります。「面白いことを思いついたけれど、どうやって実現すればいいかわからない」という状態で止まってしまうときは、後述するデベロッパータイプやプロデューサータイプとの連携が重要です。
デベロッパータイプ
デベロッパータイプは、アイディアを具体的な形にする能力が高い人材です。高度な技術やノウハウを持っており、アイディアを具体的な形に落とし込むことができます。
自分でコーディングができるエンジニアや、設計ができる技術職などはこのタイプが多いです。高い専門性と粘り強さを武器に、試行錯誤を重ねながらサービスや製品の完成度を高めていきます。
プロデューサータイプ
プロデューサータイプは、プロジェクト全体を統括する人材です。
どれほど優れたアイディアや技術があっても、それを事業として成立させなければイノベーションにはつながりません。アイディアと技術を人々に届けることで、はじめてイノベーションは完結します。そのためには、高いコミュニケーション力や交渉力、リーダーシップを持った人材が必要です。
プロデューサータイプは、こうした推進力に長けています。社内外のステークホルダーとの調整や、必要な資源の確保、スケジュール管理などを行い、事業化を推進していくのが特徴です。
イノベーション人材を育成する方法
イノベーション人材を育成するには、以下の3つの取り組みが有効です。
- イノベーションを起こす社内風土を醸成する
- 長期的な育成計画を策定する
- 理論と実践を反復する
これらの取り組みを進める際には、ぜひ長期的な視点を意識してみてください。イノベーションには偶発的な要素が絡んでいるため、「特定の能力を磨けば必ずすぐにイノベーションが起こる」というわけではありません。時間をかけて組織風土を整えておくことが、イノベーションを起こすためのポイントです。
ここからは、イノベーション人材を育成するための具体的な方法を解説します。
挑戦を後押しする社内風土を醸成する
イノベーション人材を育てるには、挑戦を後押しする組織文化をつくることが大切です。社員が挑戦できる環境を整えておかないと、どんなにポテンシャルの高い社員でもイノベーションに向けた行動を起こしづらくなってしまいます。
具体的には、以下のような方法が有効です。
- 評価制度の整備
- 副業の解禁や部分的な容認
評価制度の整備では、失敗を許容するスタンスを伝えることがポイントです。減点方式ではなく加点方式の評価にする、目先の成果だけでなく過程も評価項目に加えるといった方法が考えられます。
また、副業を後押しすることも効果的な方法の一つです。社員が副業に取り組むと、社内にはないさまざまなノウハウを持ち帰ってきてくれます。いきなり全面的に副業を認めることが難しければ、部署や職種を限定してスタートするのもよいでしょう。
なお、副業解禁に向けたステップは、以下の「副業解禁ガイドブック」で詳しく解説しています。ご興味がある方は、ぜひ資料をダウンロードしてください。
長期的な育成計画を策定する
イノベーション人材を育成する場合は、粘り強く取り組むことが大切です。以下の手順に沿って、長期的な育成計画を練りましょう。
- 自社が求めるイノベーション人材の理想像を明確にする
- スキルを積み上げるためのロードマップを策定する
- 具体的な研修プログラムを設計する
まずは、自社の求める人物像を明確化します。先程解説した3タイプのうち、どのような人材が足りていないのかを把握しましょう。
スキルのロードマップを策定する際は、どの段階でどのようなスキルを身に着けておくべきなのかという目標を明確化しておくことが大切です。研修プログラムを設計する際は、育成対象者の上司や関連部署の上長とも連携しながら、全社的にイノベーション人材の育成に取り組んでいくよう意識してみてください。
理論と実践を反復する
イノベーション人材を育てるためには、学んだ知識を実際の業務で試し、その結果から学びを深めるというサイクルを回すことが大切です。
座学で理論を学ぶだけでは、実際の場面で応用する力が身につきません。例えばイノベーションが起こるまでの過程を丸暗記しても、実務でイノベーションは起こせません。
一方、経験だけに頼っていると、成功や失敗の要因を体系的に理解できなくなってしまいます。たまたまイノベーションにつながるような行動が起こせたとしても、「なんとなくうまくいった」となってしまい、再現性のある取り組みにはならないのです。
理論と実践を反復する方法として、以下が挙げられます。
| 社内 | 社外 | |
| 理論を学ぶ | 研修の実施 | 外部セミナー異業種交流会 異業種交流会 |
| 実践する | プロジェクトアサイン配置転換 配置転換 | 副業の実施越境学習 越境学習 |
理論を学ぶためには、研修の実施や外部セミナーなどへの参加が効果的です。。
実践する方法は多岐にわたります。社内で実践するのであれば、プロジェクトアサインや配置転換を通じて、新規事業の創出に関わってもらうといった方法があります。
また、社外で経験を積んでもらうのも非常におすすめです。異質な環境で働くことで、既存の価値観から脱却し、イノベーションにつながる発想を得ることができます。新規事業の創出といった大掛かりなイノベーションだけでなく、日常業務の改善につながる小さなイノベーションの種を見つけることができるかもしれません。
具体的な方法としては、先ほど触れた副業解禁のほか、今から解説する「越境学習」が挙げられます。
イノベーション人材の育成には越境学習もおすすめ
社外での実践は非常に効果的ですが、いきなり副業を解禁するのはハードルが高いと感じる方も多いでしょう。そこでおすすめなのが、越境学習という育成方法です。
越境学習とは、普段とは異なる環境に身を置いて学ぶことを指します。法政大学の石山教授による越境学習の定義は、次の通りです。
何かの境界を超えて学ぶことであり、自分の心の中のホームとアウェイの境界を行き来することで学びが得られるもの
大企業における人材育成では、社員がベンチャー企業やスタートアップ企業へ留学し、3ヶ月から6ヶ月程度の期間で実際に働きながら経験を積む方法が注目を浴びています。
越境学習中は、自分がこれまで当たり前だと思っていた仕事の進め方や価値観が全く通用しません。例えば大企業ではこれまで何重にも承認を得て進めていた業務を、留学先の企業では自分で判断しないといけないかもしれません。普段は潤沢な予算で進めていた業務を、限られたリソースで実行する必要も出てきます。
普段と異なる仕事の進め方を経験することで、既存の発想から脱却できるのです。イノベーション人材の育成に力を入れたい人事担当者の方は、ぜひ越境学習の導入を検討してみてください。
弊社エンファクトリーでは、はじめて越境学習に取り組む方に向けたガイドブックをご用意しております。越境学習の進め方を丁寧に解説しているので、ぜひ以下から資料をダウンロードしてください。
越境学習に成功した企業事例3選
ここからは、越境学習に成功した企業事例を3つご紹介します。イノベーション人材の育成に越境学習を活用したい方は、ぜひ参考にしてください。
自分の価値観や既存の方法に囚われず、俯瞰的に考えて発言するようになった事例
普段からスタートアップ企業との接点が多かった中部電力株式会社の内藤様。スタートアップ企業の課題解決に取り組むという越境学習のプログラムに強い興味を持ち、越境学習への参加を決めました。
越境学習の期間中には、スタートアップの一員になりきって、何もない状態から価値を生み出す経験を積んでいただきました。スタートアップならではのスピード感はもちろんのこと、限られたリソースの中で各参加者が協力しながら課題を解決していく様子が印象に残ったそうです。
越境学習の効果について、参加後のインタビューでは次のようにお答えいただいています。
研修後、 「自分がオープンマインドでないと何も生まれない」と実感し、行動が大きく変わりました。 この経験は社内外で共有し、スタートアップ関係者からは驚きの声が、社内では部下や同僚に「めちゃくちゃ良かった」と勧め、応募を促しています。
イノベーションを起こすためには、外部を巻き込みながら行動する姿勢が欠かせません。特に、本記事で解説した「プロデューサータイプ」として活躍するためには、周囲とのコミュニケーションがイノベーション人材としての鍵を握っています。
本事例は、異業種の人材と交流することでコミュニケーション能力を磨き、普段のスタンスにも変化が生まれた、イノベーション人材育成の成功事例と言えるでしょう。
本事例の詳細は、次のインタビュー記事からご覧いただけます。
異質な環境が引き出した新たなリーダーシップ
新規事業開発のプロジェクトリーダーを務めている、大日本印刷株式会社の秦様。普段から新規事業開発に携わる中で、ゼロイチを生み出すベンチャー企業の活動に強い興味を持ち、越境学習の参加を決めました。
秦様が参加したのは、地域への移住を促進する「みんなのまちづくり」プロジェクトです。プロジェクト期間中は、宿泊施設の手配や体験者の受け入れ、市の指定管理の仕事への応募といったさまざまな業務に携わりました。
越境学習を経て、自分の思いを堂々と表現できるようになったそうです。インタビューでは、次のようにお答えいただいています。
今は自分の中にミッションやビジョンをしっかりと持ち、それを堂々と表現することができるようになったと思います。唐突にアイデアを出すことも増え、そうしたアプローチが許されることに気づきました。
イノベーションを起こすうえでは、新しいアイディアを着想し、それを周囲の人に伝えることが必要不可欠です。こちらも、異質な環境に飛び込むことで、イノベーション人材としてのポテンシャルを一段と高めることに成功した成功事例といえます。
本事例の詳細は、次のページからご覧ください。
異なる視点が生むアイデアの宝庫
最後にご紹介するのは、越境学習の受け入れ企業の担当者様からの声です。
株式会社Spomeeの代表取締役である松尾様は、大手企業との関係構築を進めていきたいと考えていました。一方、同社には大手企業での実務経験者が少なく、大手企業の課題感の把握が難しいという課題がありました。
そこで、越境学習の受け入れを通じて、大手企業の社員との交流を進めています。参加者にはチームビルディングに関する課題を提示し、異業種の交流を通じて新しい価値を共創していくことを目指しました。
越境学習の手応えについて、インタビューでは次のようにお答えいただいています。
課題提示の際に細かいディテールに落とし込まないよう心掛けたことで、多少枠から外れたアイデアが出ました。私たちは既存のサービスを拡張するアイデアに加え、枠に捕らわれないまったく異なるアイデアを得ることができたことは、大きな発見となりました。
現在は、越境学習のプレゼンで出たアイディアをもとにした新サービスの開発に着手しているそうです。越境学習は参加者のみならず、課題を提示した企業もイノベーションにつながる新しい発想を得るチャンスと言えます。
本事例の詳細は、次のページからご覧ください。
まとめ
イノベーション人材について、定義や育て方、育成の成功事例を紹介しました。
イノベーション人材とは、これまでにない新しい発想で価値を創造できる人材のことです。先の見通しづらい現在において、その価値はますます高まっています。
イノベーション人材を育成するためには、イノベーション人材の定義や3タイプを理解したうえで、自社に合った長期的な育成プランを立てることがポイントです。その際には、理論と実践を繰り返す仕組みづくりにも力を入れましょう。社外で実践してもらう際には、越境学習に取り組んでもらうのがおすすめです。
ぜひ本記事の内容を参考に、イノベーションを担う人材を計画的に育てていきましょう。






