タフアサインメントとは?リーダーを育成する実践機会の作り方と事例、失敗しないためのポイントを解説

サクセッション・リーダー育成

変化の激しいビジネス環境に適応できるリーダーを育てるためには、何が必要なのでしょうか。
「タフアサインメント」は、最近注目されている人材育成手法の一つです。

この記事では、タフアサインメントの定義や実施方法、失敗しないためのポイントを詳しく解説します。実際の企業事例も紹介するので、すぐに実践できる具体的なアプローチを知りたい人事担当者の方、経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。

タフアサインメントとは

タフアサインメントとは、社員に難易度の高い業務や役割を意図的に与えることで、通常の業務では得られない飛躍的な成長を促す人材育成手法です。例えば、若手社員にプロジェクトリーダーを任せる、難易度の高い新規事業立案プロジェクトにアサインするといった実施方法があります。

タフアサインメントは、次世代のリーダーを育成するうえで重要な施策の一つです。実際、経済産業省が発表した「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」報告書でも、優秀な社員の早期選抜とタフアサインメントの重要性が言及されています。

変化の激しいVUCA時代に適応したリーダーを育てるためにも、タフアサインメントによって早い段階から多くの成長機会を与えることが求められているのです。

参考:企業の戦略的人事機能の強化に関する調査 (経営力強化に向けた人材マネジメント に関する提言

なぜタフアサインメントが人を成長させるのか?

なぜ、タフアサインメントによって人は成長できるのでしょうか。

人間が仕事をする際の領域は、「コンフォートゾーン」「ストレッチゾーン」「パニックゾーン」の3つに分類できます。下表に示す通り、これらのうち最も成長できるのはストレッチゾーンです。

ゾーン特徴成長への影響
コンフォートゾーン実力以下のスキルで対処できる
快適だが成長は少ない
成長が停滞する
ストレッチゾーン実力から少し「背伸び」すれば対処できる適度に挑戦し、成長するスキルや知識の習得が最も効率よく進む
パニックゾーン努力しても対処が困難過度なストレスがかかる負担が大きすぎて成長しづらい

タフアサインメントは、社員を意図的にコンフォートゾーンから引き出し、ストレッチゾーンに置くことで学びを促す取り組みです。

もっとも、人間はいつもストレッチゾーンにいなければならないわけではありません。通常、人は「コンフォートゾーン」と「ストレッチゾーン」を行き来することによって成長します。

タフアサインメントによって難しい課題へ挑戦し、スキルが上達してきたら徐々にコンフォートゾーンへと落ち着き、再び難しい課題へ挑戦する、という反復を繰り返すことが、社員のスムーズな成長につながるでしょう。

タフアサインメントにおける注意点

タフアサインメントは効果的な取り組みですが、実施する際にはいくつかの注意点があります。タフアサインメントを実行する前に必ず意識すべき注意点を3つ解説します。

社員の心理的負担を考慮する

タフアサインメントは効果的な育成手法ですが、社員には一定の心理的負担がかかることを考慮する必要があります。

心理面でのケアを行わなければ、社員に必要以上の心理的負担がかかり、かえってパフォーマンスが低下したり、メンタル面での問題を引き起こしたりする可能性も否めません。タフアサインメントの対象となる社員には、人事面談の機会を設けて意図を説明するといったフォローを行いましょう。

なお、育児や出産、介護などプライベートでの変化があるタイミングでは、タフアサインメントを避けたほうが無難です。特に人事異動や出向を伴うタフアサインメントは、一方的な押し付けにならないよう注意してください。

パニックゾーンに陥らないようにする

タフアサインメントを行うときは、パニックゾーンへ陥らないように注意が必要です。

ストレッチゾーンを超えてパニックゾーンに入ると、学習効果は大きく低下します。ともすれば、タフアサインメント自体の失敗にもつながりかねません。

パニックゾーンに陥らないために、以下の点を意識しましょう。

  • 上司が日頃から社員をよく観察し、実力を見極める
  • 様子を見ながら徐々に難易度を上げていく
  • タフアサインメントの期間中も手厚くサポートする

なお、タフアサインメント後にモチベーションやパフォーマンスの低下が見られる場合は、社員がパニックゾーンに陥っている可能性があります。そのような場合は、業務量やスケジュールを調整するなどのサポートを行いましょう。

抜擢しなかった社員へのフォローを忘れない

タフアサインメントでは、選抜されなかった社員へのフォローも必要です。

人事異動や出向を伴うタフアサインメントは、同期全員に経験させることはできません。一部の社員だけに偏ったチャンスがあると、他の社員から「自分は出世ルートから外れたな」と思われるのも無理はないでしょう。

人事担当者としては、以下の配慮が必要です。

  • 選ばれなかった社員にも何らかのチャンスを与える
  • 公募型の研修など「手上げ式」の成長機会を増やす
  • 評価基準を明確化する

例えば出向を多くの社員へ経験させることは難しいですが、プロジェクトのアサインやリーダーの抜擢は比較的用意しやすい部類でしょう。抜擢しなかった社員にも小さなチャンスを与えたり、公募型の研修で成長意欲に応えたりすることがおすすめです。

タフアサインメント実施のポイント

タフアサインメントに失敗しないためのポイントは、以下の3点です。

  • タフアサインメントの目的を伝える
  • 社員の実力に見合った目標設定にする
  • メンターや上司が目標達成をフォローする

タフアサインメントを実施する際に意識すべきポイントを解説します。

タフアサインメントを行う目的を伝える

タフアサインメントの効果を高めるためには、「なぜその任務が与えられるのか?」という目的を明確に伝えることが重要です。単に「難しい仕事をやってみろ」というスタンスでは、社員の主体的な取り組みは期待できません。

タフアサインメントの目的を明確にすることで、次のような効果が生まれます。

  • 目標を踏まえた主体的な行動ができる
  • 困難に直面しても、粘り強く努力できる
  • 目標を達成した際の成長実感がより強くなる

目的の伝え方としては、「この経験を通じて〇〇の能力を高めてほしい」「将来の△△というポジションを見据えた準備段階だよ」といったように、ポジティブな表現を心がけましょう。

社員の実力に見合った目標設定にする

タフアサインメントでは、目標の難易度設定が成功の鍵を握っています。

あまりに高すぎる目標はパニックゾーンに陥らせますし、低すぎる目標では成長効果が限定的になりかねません。成功確率が70〜80%程度の難易度を目安に、社員の実力に見合った目標を設定してみてください。

また、単に目標の難易度を調整するだけでなく、以下の工夫もおすすめです。

  • 目標をいくつかの小目標に分割する
  • 定期的に目標の達成状況を振り返り、必要に応じて調整する

目標を記入するシートのフォーマットを工夫する、定期的な面談機会を必須にするなど、仕組み面での工夫を行うとよいでしょう。

メンターや上司が目標達成をフォローする

タフアサインメントは「放任」ではなく、「サポートがある挑戦」と捉えるべきです。上司が中心となったサポート体制を築き、目標達成に向けた支援を行いましょう。

具体的な施策としては、以下が考えられます。

  • 定期的な1on1ミーティングの実施
  • メンターの割り当て
  • 似たような立場の社員との交流機会を設ける

特に効果的なのは、似たような経験をした先輩社員をメンターとして割り当てる方法です。実体験に基づくアドバイスは、理論的な指導よりも実践的で受け入れられやすい傾向があります。同じ経験をしたメンターであれば、「あの仕事は本当に大変だよね」といったように、心理的な負担にも寄り添いやすいでしょう。

タフアサインメントの実施方法

タフアサインメントには、さまざまな実施方法があります。
各実施方法の特徴は、以下の通りです。

異動・配置転換子会社・出資先への出向フルタイム型の越境学習業務と並行して行う越境学習(複業留学)
実施のしやすさ
サポートのしやすさ
柔軟性

ここからは、タフアサインメントの具体的な実施方法について、それぞれのメリットやデメリットも交えながら解説します。

異動・配置転換

異動や配置転換は、ポピュラーな方法の一つです。これまで経験したことのない部署や職種に配置することで、新たな視点やスキルの獲得を促します。

特に以下のような異動によって、難易度の高い挑戦機会を与えることができます。

  • 赤字部門への異動
  • 新規事業部門への異動
  • 国内部門から海外部門への異動

異動や配置転換のメリットは、これまでと異なる角度から会社を知ることができる点です。社内での視野を広げたい場合には、おすすめの方法といえます。

ただし、ジョブ型雇用の拡大によって柔軟な配置転換が難しかったり、配置先の上司によって温度差が生じたりする点はデメリットです。また、本人に異動の意図が十分伝わらない場合、「会社のいいように使われているのではないか」と誤解されてしまうリスクもあります。

「なぜその異動が必要なのか」という理由を明確に伝えるとともに、定期的なフォローで社員に対する期待感を伝えることがポイントです。

子会社・出資先への出向

子会社や出資先企業への出向は、より広い視野と経営感覚を身につけてもらうのに効果的な方法です。親会社よりも小規模な組織に出向くことで、高い視座を養うことができます。

単に関連会社へ出向するだけでも効果的ですが、以下のような組織でポストを用意できれば、さらに効果的なタフアサインメントになります。

  • 新規事業立ち上げ段階の子会社
  • 異業種の提携先企業
  • 海外の子会社

子会社や出資先への出向は、経営の経験を積んでもらえるというメリットがあります。一方、出向先や帰任後のポジションはそう簡単に用意できるものではありません。また、実施中のサポートがしづらい点もデメリットです。

フルタイム型の越境学習

スタートアップや中小企業などへのフルタイム留学も、効果的なタフアサインメントの一つです。最近では、国内外の大学院やビジネススクールへの留学も増えています。

フルタイム留学に参加すると、普段とは全く異なる環境で「修羅場体験」を積むことができます。メリットは、以下の2点です。

  • 柔軟に行き先を選択しやすい
  • 留学中も伴走者によるサポートを実施しやすい

社内での異動や関連会社への出向よりも異質な環境に身を置くことになるため、必然的にコンフォートゾーンを飛び出した学びを体験できるでしょう。

一方、留学前や帰任後のポジション調整が難しい点はデメリットです。留学中は普段の業務から完全に離れることになるため、残ったメンバーの負担も考慮する必要があります。

業務と並行して行う越境学習(複業留学)

複業留学は、弊社エンファクトリーの実施している越境学習サービスです。ベンチャー企業やスタートアップ企業へ週に約1回のペースで3〜6ヶ月程度留学し、普段とは全く異なる業務へ挑戦します。

複業留学では、自社とは大きく異なる環境に身を置くことになるため、新たな視点や発想を効果的に身につけることが可能です。伴走者による面談といった留学中のサポートもしやすいため、パニックゾーンに陥らない効果的なタフアサインメントを実現できます。

また、複業留学は本業と並行しながら進めることもできるため、フルタイム型の留学ほど実施の負担も大きくありません。

越境学習によってタフアサインメントを実践した事例

越境学習によって、タフアサインメントを実践した事例をご紹介します。

精密機器メーカーのA社は、50歳前後の12名の社員を対象に、次世代幹部向けの選抜育成プログラムを実施していました。その一環として、6ヶ月間の複業留学へ取り組んで頂いています。

本プログラムは、以下の2部構成で実施しました。

  1. 経営スキルのインプット
  2. 複業留学による実践(アウトプット)

1段階目のインプットでは、マネジメントやサービス経営、サステナブル経営といった経営の基本について学んでいただいています。2段階目ではそれらの知識を実践に移すべく、複業留学で新規事業や中期経営計画の立案、社内風土改革といった経営の根幹となるテーマへ取り組んでいただきました。

ベンチャー企業や中小企業へのタフアサインメントを実施することで、実践的な経営スキルの修得に成功した事例といえます。この事例からも分かる通り、越境学習は学んだ知識をアウトプットするタフアサインメントの場として、非常に効果的です。

まとめ

タフアサインメントは、効果的な次世代リーダー育成の手法です。

コンフォートゾーンから抜け出した先にある「ストレッチゾーン」に身を置くことで、適度な挑戦による飛躍的な成長が期待できます。タフアサインメントには異動・配置転換、出向、留学など多様な実施方法がありますが、どの手法にもメリットとデメリットがあるため、複数の手法をうまく使い分けていきましょう。
その際には、越境学習もぜひ選択肢の一つに入れてみてください。

越境学習プログラムを専門に提供する株式会社エンファクトリーでは、これまで累計250社7,000名の人材育成を支援してまいりました。導入のしやすさ・効果の実感のしやすさから、はじめて越境学習を導入する企業に広く活用いただいています。

タフアサインメントの一環として越境学習にご興味がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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