企業内大学の事例一覧|メリットやデメリット、越境学習との関わりを解説

組織風土変革

VUCA時代と言われて久しい昨今、自社の従業員を対象に育成を目的とした「企業内大学」を運営するケースが増えてきています。企業内大学の設置に向けて、他社の成功事例を知りたいと考えている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、企業内大学の事例一覧やメリット、デメリットを解説します。越境学習との関係も深堀りするので、企業内大学について理解を深めたい方はぜひ最後までお読みください。

企業内大学とは?

企業内大学とは、企業が自社の従業員を対象に運営する教育機関のことです。必修と選択科目が用意されていたり、所定のコースを終えると修了証が発行されたりと、通常の大学と似たような仕組みが多く用意されています。

企業内大学の最大の特徴は、体系化されたカリキュラムが用意されている点です。単発の研修とは異なり、年単位に及ぶ長期での育成を前提としています。

企業内大学で学べる内容はさまざまですが、例えば以下のようなテーマが人気です。

  • グローバル人材の育成
  • ITやAIなどの知識習得
  • 従業員のキャリア形成

昨今はオンライン研修やeラーニングなどを企業内大学へ活用するケースも増えてきており、企業内大学の運営方法は多様化しています。

日本国内における主な企業内大学の事例一覧

企業内大学はもともと米国の大企業で始まった取り組みですが、2000年代に入ると日本国内でもさまざまな企業が企業内大学を運営するようになりました。

日本国内における代表的な企業内大学の事例一覧は、次の通りです。

企業名企業内大学
トヨタ自動車トヨタインスティテュート
資生堂エコール資生堂
コカ・コーラボトラーズジャパンCCUJ
SGMOものづくり総合大学
三菱UFJ銀行MUFG University

ここからは、それぞれの事例の特徴やポイントを解説します。

トヨタインスティテュート|トヨタ自動車株式会社

トヨタインスティテュートは、トヨタ自動車が設立した企業内大学です。
トヨタ自動車では、事業を海外へ展開していくうえで、次の課題を感じていました。

  • 企業理念がうまく海外拠点に伝わらない
  • 次世代のリーダー育成が不十分である

上記を解決するために設置されたのが、「トヨタインスティテュート」です。トヨタインスティテュートは、次のような使命を持っています。

  • 「トヨタウェイ」の共有を通じて、グローバル化を推進する
  • グローバルトヨタの人材育成の牽引役として教育体制を整備する

主なカリキュラムは、「グローバルリーダー育成スクール」と「ミドルマネジメント育成スクール」の2つです。それぞれ、以下のような教育を実施しています。

グローバルリーダー育成スクールミドルマネジメント育成スクール
内容指導力の向上経営知識・スキルの強化グローバル人脈形成トヨタウェイの理解マーケティング手法の理解
受講対象全世界のグローバルリーダー候補全世界のミドルマネジメント
受講人数180名 / 年300名 / 年

トヨタインスティテュートの特徴は、海外拠点で働く人材の育成を見据えている点です。世界への事業拡大に向けて、体系的なグローバル人材育成を実現しています。

参考:https://global.toyota/jp/detail/1707924, 大嶋淳俊,「日本型『企業内大学』の発展」 

エコール資生堂|株式会社資生堂

美容業界のリーディングカンパニーとして知られる資生堂。社内研修へ取り組む中で、「研修プログラムをより体系的に整備したい」という課題がありました。

これを解決するために設置されたのが、「エコール資生堂」という企業内大学です。資生堂の目指す人材像である「美意識」「自律性」「変革力」の3つを兼ね備えた人材を養成することを目的として、以下の7つの学部を用意しています。

学部名主な内容
美容学部スキルアップ研修
営業・マーケティング学部ブランドマネージャー研修
宣伝制作学部デザイン研修
研究開発学部化粧品技術基礎研修、コア技術セミナー
生産学部モノづくり基礎講座
財務・経理学部会計専門研修
スタッフ学部マネジメント研修

このほか、「教養課程」「国際課程」という2つの学部横断研修が用意されています。通常の階層別研修やスキルアップ研修などを、企業内大学という形で網羅的に体系化している事例です。

参考:https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000000752/752_m2c74_jp.pdf?_fsi=a0rEe2EB 

CCUJ|コカ・コーラボトラーズジャパン

コカ・コーラボトラーズジャパンのCCUJは、2020年に発足した比較的新しい企業内大学です。

CCUJは、主に選抜メンバーのさらなるスキル向上を目的としています。数ある企業内大学の中でも、ここまで次世代リーダー育成に注力している事例は珍しいかもしれません。

CCUJでは、コカ・コーラの成長軸である以下の5点について学びます。

  • イノベーション
  • 戦略的指向
  • ピープルマネジメント
  • エフェクティブコミュニケーション
  • グロースマインドセット

参加する社員は、部長層、課長層、一般職層のそれぞれから選抜されたメンバーです。選抜研修のような役割を担っていますが、通常の研修よりもカリキュラムが体系化されており、育成も6ヶ月と長期にわたります。異なる部門のメンバーとの交流を重視している点も特徴です。

参考:https://www.ccbji.co.jp/csv/inclusion/?_fsi=a0rEe2EB 

ものづくり総合大学|SGMO

ものづくり総合大学は、ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(SGMO)が運営する企業内大学です。

SGMOでは、これまで以下のような課題がありました。

  • 社員一人ひとりの主体的な学習を後押ししきれていない
  • 技術やスキルが暗黙知となっており、十分に社内共有されていない

そこで、SGMOは2018年に「ものづくり総合大学」を設置。社員の能動的な学習を後押しするとともに、これまで暗黙知だったノウハウを形式知へと深化させることで、上記の課題の解決を狙いました。

ものづくり総合大学では、のべ75講座が展開されています。カリキュラムの構成は、以下の通りです。

人間力強化階層別育成(選抜・若手)
キャリア形成(キャリア面談・キャリア研修)
グローバル人材養成(語学・海外赴任など)
ダイバーシティ(女性活躍・多様性理解)
専門性強化エンジニアリング
ものづくりオペレーション

本事例の特徴は、講座内容の9割を内製化している点です。これによって、これまで暗黙知だった現場のノウハウを社内で伝承する仕組みを構築し、「学び続ける組織」の実現につなげています。

2021年には、その仕組みや運営が高く評価され、厚生労働省後援「第10回 日本HRチャレンジ大賞」の大賞を受賞しました。

参考:https://www.sony-global-mo.co.jp/recruit/hrd.html?_fsi=a0rEe2EB, https://www.sony-global-mo.co.jp/news/20210618.html 

MUFG University|三菱UFJ銀行

MUFGは、次世代の経営人材育成に課題を感じていました。そこで2018年に設置したのが、ライン管理職以上を対象とした企業内大学「MUFG University」です。

MUFG Universityのコースは、次の2つに分かれています。

  • 次世代リーダーコース
  • マネジメントコース

1つめの次世代リーダーコースは、主に部店長クラスを対象としたコースです。経営を担うために必要な知識を習得するため、外部の経営者や学識経験者を招き、双方向型の講義を行っています。

2つめのマネジメントコースは、副部店長や次長クラスなど、次世代リーダーコースよりも一歩手前の社員を対象としたコースです。こちらでは、経営人材に必要なマインドや高い視座を養うことを目的とした、リベラルアーツ研修などを実施しています。

参考:https://www.mufg.jp/csr/social/hr/02/index.html 

企業内大学を導入する3つのメリット

企業内大学を設置すると、従来の研修とは異なるさまざまなメリットが期待できます。主なメリットは、次の3点です。

  • 従業員の成長機会を確保できる
  • キャリア自律を後押しできる
  • 社内のコミュニケーション活性化につながる

企業内大学を導入する3つのメリットについて詳しく解説します。

従業員の成長機会を確保できる

企業内大学の最大のメリットは、従業員の成長機会を提供できることです。

例えば先ほど解説したCCUJやMUFG Universityでは、次世代リーダー育成のために企業内大学を活用しています。エコール資生堂やものづくり大学では、専門スキルと人間力の両面を企業内大学で身につけることが可能です。

企業内大学を活用すれば、次世代のリーダーや専門職の育成がスムーズに進むでしょう。通常の研修よりも体系化された育成プログラムを長期で展開しやすいため、本格的な人材育成にはうってつけの手法です。

キャリア自律を後押しできる

キャリア自律を後押しできる点も、企業内大学によって得られるメリットの一つです。

昨今、キャリアを自分自身で主導する「キャリア自律」の考えが注目を浴びています。中には、「Z世代の社員はキャリア自律の関心が高い」と耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

企業内大学では、選択式の学習プログラムを用意することが多いです。通常の研修のように「決められたカリキュラムだけに取り組む」というわけではありません。個々の成長ニーズに対応しやすいため、社員の主体的なキャリア構築を後押しできるでしょう。

社内のコミュニケーション活性化につながる

企業内大学の重要なメリットの一つが、社内のコミュニケーションの活性化。日常業務ではなかなか顔を合わせない社員が同じ講義を受講することで、部署や部門の組織の垣根を越えたネットワークが構築されます。

例えばCCUJでは、異部門メンバーとの交流を目的としたプロジェクトやディスカッションを積極的に取り入れています。トヨタインスティテュートのように、普段関わることのない海外拠点の社員との交流機会として活用することも可能です。

企業内大学のデメリットと注意点

企業内大学を導入する前に、デメリットも知っておきましょう。知っておくべきポイントは、主に以下の2点です。

  • 設立にはノウハウと時間が必要
  • 運用コストが高くなる場合がある

設立と運用、どちらもコストがかかりがちな点に注意してください。

設立にはノウハウと時間が必要

企業内大学を設立する場合、以下のような多くのノウハウが必要です。

  • カリキュラムの設計
  • 運営体制
  • 講師の確保

カリキュラムに関しては、企業戦略と整合性を保つことが大切です。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の研究によると、日本では企業内大学に対する経営層の積極性に差が見られることが指摘されています。

企業戦略と一貫したカリキュラムを作成するためには、経営層を巻き込んだ取り組みが重要です。社長を企業内大学の学長に据えるなど、経営層に重要なポジションに就いてもらうのもよいでしょう。

また、カリキュラム設計や運営体制の構築、講師の確保には2〜3年程度の時間がかかることも少なくありません。企業内大学の構想から実現までには年単位の時間を想定しておきましょう。

大嶋 淳俊, “日本型「企業内大学」の発展” (2007)

運用コストが高くなる場合がある

企業内大学の運営には、想像以上に多額のコストがかかることがあります。企業内大学の運営に必要な主なコストは、次の通りです。

  • 人件費(外部講師への謝礼など)
  • 施設費(会場代など)
  • 教材開発費(テキストや動画教材など)

企業内大学では、社外の経営層や大学教授などを招いて講義を行ってもらうことも多いです。通常の研修よりも、人件費が高くなりがちな点に注意しましょう。

また、教材やカリキュラムの開発を外部委託する場合には、さらに費用が膨らみます。先ほど紹介したSGMOの「ものづくり大学」のように、カリキュラムのほとんどを内製化するのも一つの手です。

企業内大学と越境学習の関係

越境学習とは、普段の職場を離れることで新しい知識やスキルの獲得を目指す人材育成手法です。ビジネス環境が複雑化するVUCA時代において、社内に多様な視点を取り入れるための手段として注目されています。

例えば、以下は越境学習の一例です。

  • 他部門やグループ企業へ出向する
  • 社会人大学院やビジネススクールへ通う
  • 社外の勉強会や交流会へ参加する
  • ベンチャー企業やスタートアップのプロジェクトに参加する

実はこの記事で解説した「企業内大学」も、越境学習を実現する手段の一つです。

企業内大学では他部門の社員と協働しながら課題解決に挑戦する機会が多いため、自然と普段とは異なる環境で学びを深めることができます。また、外部講師を招いた講義を行うことで、社内にはない発想を取り入れることができるでしょう。

まとめ

企業内大学は、通常の研修よりも本格的な人材育成手法の一つです。ここ10年〜20年の間にも多くの国内企業が企業内大学を設立しており、その効果は徐々に認識されつつあります。越境学習を実現するための手段としても効果的です。

ただし、デメリットの項目でも解説したように、企業内大学の設置にはさまざまなノウハウが必要です。運営にも、多くのコストがかかります。すぐに企業内大学を設置することが難しそうであれば、まずは社外の越境学習を通じて学びを得るというのも一つの手段です。また、社内大学の一つのプログラムとして、越境学習を取り入れることもおすすめです。

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