【企業事例付き】知識やスキル、思考の成長から見る成人発達理論の概要と人材育成への活かし方を徹底解説

サクセッション・リーダー育成

「研修を実施しても、管理職が自分で考えて動けるようにならない」
「スキルは身についているはずなのに、判断力や視座が変わらない」

こうした課題をお持ちの人事担当者の方も多いのではないでしょうか。成人発達理論は、このような課題を解決する上で役立つ理論です。

本記事では「水平的成長」と「垂直的成長」という2つの軸を切り口に、成人発達理論の要点をわかりやすく解説します。企業での人材育成事例も紹介するので、ぜひ最後までお読みください。

ロバート・キーガンによる成人発達理論とは?

ビジネス環境が複雑化している昨今、成人発達理論は研修設計や人材育成施策の立案に大きく役立てられています。

成人発達理論とは、ハーバード大学教育大学院名誉教授のロバート・キーガンが提唱した、成人以降の人間の発達を体系化した理論のことです。

人間は社会人として働き、他者と関わり、困難な状況に直面することで、大人になった後も物事の捉え方や価値観の枠組みを更新し続けることができます。キーガンは、この成長を後述する2つの軸と5つの段階に体系化しました。

成人発達理論には2つの成長軸がある

成人発達理論では、人の成長を「水平的成長」と「垂直的成長」という2つの軸で捉えます。それぞれの特徴は次の通りです。

項目水平的成長垂直的成長
定義知識、スキル、コンピテンシーの量的な拡大思考の質、意識の深さ、認識の枠組みの質的変容
主な獲得物専門知識、業務処理能力など視座の高さ、受容力、複雑性への対応力
アプローチ研修、講義、読書、反復練習経験、修羅場、葛藤、批判的内省
解決できる課題技術的課題適応課題
測定の容易さ容易困難

なお、大人の成長には水平的成長と垂直的成長の両方が必要ですが、ビジネス環境の複雑性が増している近年では、垂直的成長の重要性が相対的に高まっています。

ここからは、2つの成長について具体的に見ていきましょう。

水平的成長|知識やスキルの成長

水平的成長とは、現在の思考の枠組みを保ったまま、知識やスキルを横に広げていく成長を指します。

例えば次のような内容が、水平的成長に該当します。

  • 英語力を高める
  • 財務の基礎知識を身につける
  • ITツールの使い方を習得する

eラーニングや座学研修、OJTなど、多くの一般的な育成施策が対象としているのはこの領域です。

水平的成長は進捗を可視化しやすく、到達度テストや資格取得などで成果を測定しやすいという特徴があります。成長する上で土台となる重要な軸であることは間違いありませんが、水平的成長で対応できるのは技術的な課題のみであり、実際には水平的成長だけで対応できない場面が多いのも事実です。

垂直的成長|思考の成長

垂直的成長とは、物事を捉える思考の枠組み自体を成熟させていく成長のことです。知識やスキルといった表面的な変化ではなく、視座の高さや受容力、複雑性への対応力といった人間的な成熟が重視されます。

例えば、部下が失敗した際に「自分のマネジメントの問題として捉える管理職」と「部下個人の問題として捉える管理職」がいます。両者の違いは、知識量ではなく思考の枠組みの差から生まれています。どれだけマネジメントの書籍を読んでも、この枠組み自体が変わらなければ両者の差は埋まりません。

垂直的成長は、知識やスキルの習得のように短期間で測定することが難しく、育成の設計も容易ではありません。実際、人材育成施策の中で、社員の垂直的成長まで踏み込めていない企業が多いのも事実です。

一方、ビジネスで直面する複雑な状況に対処するためには、垂直的成長が求められます。不確実性の高い現代において、重点的にアプローチするべき領域です。

成人発達理論における発達の5段階

成人発達理論では、人の発達を以下の5つの段階で説明しています。

  • 第1段階|具体的思考段階
  • 第2段階|道具主義的段階
  • 第3段階|環境順応型知性
  • 第4段階|自己主導型知性
  • 第5段階|自己変容型知性

先ほど解説した「垂直的成長」は、この5段階をより上位へと移行させることに対応します。段階が進むにつれ、より複雑な環境や関係性に対処できるようになるのです。

ここからは、それぞれの段階について詳しく解説します。

第1段階|具体的思考段階

具体的思考段階とは、目に見える具体的な事実や出来事のみをもとに判断する段階です。抽象的な概念や他者の視点を理解することは難しく、物事を見たまま捉えます。

例えば「売上が下がった」という事態に直面しても、表面のデータのみにとらわれてしまい、市場やニーズの変化といった背後の要因を考察することができません。「クレームが来た」という場合も、「担当者が悪い」といった直接的な原因しか思いつかず、業務フローや組織構造の問題まで踏み込むことはありません。

主に幼児や未成年が具体的思考段階とされますが、成人であっても状況次第でこの段階に陥ることがあります。

第2段階|道具主義的段階

道具主義的段階とは、自分の利益や目的を中心に物事を判断する段階です。

「自分にとって得か損か」「自分の目標を達成するために相手をどう使えるか」という視点が前面に出やすく、他者との関係を手段とみなしがちです。例えば、以下のような行動が現れます。

  • チームで取り組んでいるプロジェクトで、自分の評価につながる部分だけに力を注ぐ
  • 上司への報告で、自分が有利に見える情報だけを選んで伝える

この段階の人材が増えると、組織全体のパフォーマンスに悪影響が出やすくなります。

第3段階|環境順応型知性

環境順応型知性は、自分が属するコミュニティや職場の規範や期待を判断基準とする段階です。

この段階の人は、「上司や先輩がそう言っているから」「部署のやり方がそうだから」といった理由で判断や行動を決めます。環境への適応力は高い一方で、自律的な判断や独自の視点の発揮には課題があるのが特徴です。また、「正解のない問い」に直面した際に、どうしたらよいかわからなくなるという弱点があります。

行動の特徴は次の通りです。

  • チームの業務フローが明らかに非効率でも、改善提案をためらってしまう
  • 会議で同僚や上司の意見に押されてしまい、自分の本音を話せない

実は、成人人口のうち70%がこの段階にあるとされています。この段階の社員は組織運営の安定化には貢献しますが、変化や革新を起こす力は失われてしまうため注意が必要です。

第4段階|自己主導型知性

自己主導型知性の段階では、自分自身の価値観や信念を軸に行動できます。「組織がどう言っているか」よりも「自分はどう考えるか」を起点に動けるため、組織のリーダーに必要な力が育っている段階です。

この段階の社員は、前例のない課題に直面したときも、自分で仮説を立てて動き出すことができます。ただし、場面によっては「自分の正しさ」のみに固執してしまい、偏った判断をしてしまうリスクがある点が課題です。

最近では多くの企業が「自律型人材の育成」を掲げていますが、それはまさにこの段階への移行を目指す取り組みといえます。

第5段階|自己変容型知性

自己変容型知性の段階は、発達の中で最も成熟した段階です。

自分の価値観や信念を客観的に捉え、状況や対話を通じて更新し続けることができます。対立する意見や複雑な問いに対しても、一つの側面だけにとらわれず、多様な視点を統合しながら考え抜くことが得意です。

例えば異なる価値観を持つメンバーが協働する際には、リーダーに自己変容型知性が求められます。これまでの成功体験にとらわれずに部署の方針や事業のビジネスモデルを変革する際にも、自己変容型知性が必要です。

この段階に到達している成人は全人口の約1%とも言われており、間違いなく貴重な人材です。

これからの人材育成では垂直的成長が重視される

ビジネス環境の複雑化に伴い、近年の人材育成では垂直的成長の重要性が増しています。

かつての人材育成は、業務に必要な知識やスキルを習得させることを目指してきました。これは、成人発達理論でいうところの「水平的成長」に重点が置かれている状態です。

しかし、変化が激しく、予測が難しいVUCAの時代とも呼ばれる昨今のビジネス環境には、正解が一つに定まらない問いが溢れています。このような不確実性に対処するためには、視座の高さや受容力といった人間的な成熟、すなわち垂直的成長が欠かせません。

近年は「自律型人材」「リーダーシップ開発」「経営人材の育成」などが人材育成のトレンドワードになりつつありますが、これらはすべて垂直的成長の考え方を反映したものなのです。

垂直的成長を促すには自己の価値観を相対化する必要がある

垂直的成長を促すために重要なのが、自分自身の価値観を「当たり前」と捉えるのをやめ、それらを一度外から眺め直す「相対化」という体験です。

人間は誰しも、自分が育ってきた環境や経験をもとに「物事はこういうものだ」という思考の型を持っています。いわば、色眼鏡をかけていることに気が付かず、「世界は赤い」と思い込んでいるようなものです。

しかし、この枠組み自体に気づかない限り、思考の変容は起きません。

価値観の相対化とは、自分の持つ思考の枠組みを観察したり検討したりすることです。先ほどの例え話で言えば、色眼鏡を外して「自分は赤いレンズを持っていた」と気がつく状態がこれにあたります。

なお、多くの成人が自己主導型知性や自己変容型知性に到達していないことからもわかるように、この転換は自然と生まれるものではありません。自分の価値観を相対化するためには、異質な他者との対話や、自分の前提が通用しない環境に身を置くことが重要です。

社員の垂直的成長を目指す場合、人材育成でこうした場面を意図的に作る必要があります。

垂直的成長を実現するには越境学習がおすすめ

垂直的成長を促す手段として、越境学習が注目されています。特に、ベンチャー企業やスタートアップ企業で3ヶ月から6ヶ月の間、実際に業務を担いながら学ぶ手法が人気です。

越境学習の最大のメリットは、参加者が「自分の常識が通じない環境」に実際に身を置ける点です。従来のeラーニングや座学研修はどうしても知識やスキルの習得に終始しがちで、人間的な成熟を目指す垂直的成長を起こすのは難しいと言わざるを得ません。

しかし、普段と全く異なる組織文化や人間関係の中で働くと、自分の価値観や前提が揺さぶられ、内側から変容が起きやすくなります。大企業の社員がスタートアップに飛び込み、肩書きやこれまでの実績が通用しない環境でゼロから働く体験は、まさに価値観を相対化することにうってつけの状況です。

垂直的成長への関心が高まる中、越境学習を人材育成施策の一環として取り入れる企業も増えてきています。

ホームとアウェイを行き来できる

越境学習では、自分の「ホーム」と「アウェイ」を行き来することができます。

「ホーム」と「アウェイ」の定義や特徴は、次の通りです。

ホームアウェイ
定義所属組織越境先
特徴共通言語や暗黙の了解がある異質な他者、常識が逆転する
影響効率的だが思考停止や固定化を招く非効率で摩擦が多いが、強制的な客体化が起こる

ホームは普段自分が所属している組織のことです。共通言語や暗黙の了解があるため効率的に動くことができますが、前述した価値観の相対化はあまり起こりません。他方、越境先であるアウェイは普段と異質な環境です。

自社の常識が通用せず非効率な場面も多くなりますが、ここで生じる摩擦が自己の価値観の相対化を起こします。

内省を起点に価値観の転換を促せる

越境学習が垂直的成長に効果的なもう一つの理由は、内省を深める機会が生まれることです。

ただ異質な環境に飛び込むだけでは、経験が断片的なままで終わりやすくなってしまいます。ホームに戻る機会があることで、「自分はアウェイで何を感じ、何が揺らいだのか」を言語化し、次に向けた学びを深めることができます。この往復運動が、思考の枠組みの変容につながるのです。

弊社エンファクトリーの提供する越境学習プログラムでは、参加者の内省を深めるために、進行担当者が研修の全プロセスに渡って個別の課題整理やレビューといった支援を行います。

次世代経営幹部や次世代リーダーを対象とした越境学習プログラム「リーダー留学」の詳細は、下記のページからご確認ください。

越境学習で垂直的成長を実現した事例

ここからは、越境学習で垂直的成長を実現した企業事例を紹介します。垂直的成長を促す具体的な方法について知りたい方は、ぜひご参考にしてください。

精密機器メーカーA社の事例

精密機器メーカーA社では、50歳前後の次世代経営人材候補を対象に「リーダー留学」を導入しました。本事例では選抜された12名の経営人材候補に対し、約6ヶ月間のプログラムを実施しています。

プログラムは、以下の二部構成になっています。

期間前半後半
プログラム経営のスキルインプット越境社外研修「リーダー留学」
内容マネジメントイノベーションや創造性サステナブル経営組織開発など新規事業中期経営計画営業戦略M&Aリサーチ・投資社内DX・風土改革

300社を超える受け入れ企業の中から、個々の課題に応じて越境留学先を検討しました。留学した社員からは、「経営者の覚悟を肌で感じることができた」「自分の殻を破ることができた」といった声があがっています。

前半のスキルインプットで今後の土台となる水平的成長を促し、その後の越境学習で垂直的成長を実現した成功事例です。

製薬メーカーB社の事例

製薬メーカーB社では、35歳前後の次世代経営陣候補10名を対象に、自己変容型知性を育成するための越境学習を実施しています。

本研修は、以下の流れで実施しました。

第1期第2期第3期
リーダーシップ研修合同研修越境社外研修「リーダー留学」
eラーニング(英語など)コーチング
7つの習慣ワークショップ

越境学習中には、人材紹介会社でのブランディングの策定や実施、事業環境の分析や経営課題の整理といったさまざまな課題に取り組んでいただいています。ベンチャー企業の経営者と接する中で、「マネージャーとして外部情報や外部とのコネクションを常に獲得する姿勢の重要性を感じた」「綿密で大規模な企画よりも、まずは小規模で試験的に実施することの大切さを認識した」といった声が挙がるなど、仕事のスタンスに大きな変化が生まれました。

まとめ

成人発達理論は、現代の複雑な環境に対処できる人材の育成方法を教えてくれる理論です。水平的成長だけでなく、垂直的成長を促す重要性がお分かりいただけたでしょうか。

最近はVUCAと呼ばれる時代の中で、管理職やリーダー層が「正解のない問い」に向き合う場面が増えてきています。人材育成には、垂直的成長を促す仕掛けを作ることが欠かせません。越境学習をはじめとする「自分の常識を一歩引いて見直す体験」を意図的に組み込むことが、これからの人事担当者に求められる視点です。

ぜひこの記事の内容を参考に、成人発達理論を活かした効果的な人材育成を行いましょう。

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