副業解禁が進む昨今、新たに注目を浴びているのが「社内副業」という制度です。社内副業によって、さまざまなメリットが期待できることをご存知でしょうか。本記事では、社内副業の定義や導入するメリット、企業事例など、人事担当者が押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
社内副業とは?
社内副業は、従業員が本来の仕事を継続しながら、社内の別部門や異なるプロジェクトへ参加する制度です。通常の副業とは異なり、あくまでも社内で別の仕事に挑戦します。
例えば、営業部の社員がマーケティング部のプロジェクトに参加したり、開発部のエンジニアが新規事業企画に携わったりするのが、社内副業の一例です。企業によって運営ルールはかなり異なりますが、社内副業の主な特徴として、次の4点を押さえておきましょう。
時間配分 | 就業時間内で実施することが一般的 |
自発的な参加 | 参加は基本的に任意 |
評価システム | 細かな評価対象ではなく、あくまでも自主性に任せた取り組み |
運営主体 | 人事部が実施する |
なお、最近では副業解禁が進んでいますが、実際に副業するハードルは依然として高いのが現状です。実際、副業を行っている正社員の割合はわずか7.0%にとどまっています(パーソル総合研究所調べ)。
社内副業は、手軽に副業のメリットを得られる新たな「副業の形」として注目されているのです。
弊社エンファクトリーでは、社内副業制度の導入に向けたガイドブックをご用意しております。本記事の内容をより詳しく知りたい方は、ぜひ以下のページをご確認ください。
資料参考:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/sidejob3.html
社内副業を解禁する3つのメリット
社内副業制度を導入すると、企業にとって次のメリットがあります。
- 組織の活性化と部門間連携の強化につながる
- イノベーションの創出が期待できる
- 従業員エンゲージメントが向上する
それぞれのメリットを詳しく確認しましょう。
組織の活性化と部門間連携の強化につながる
社内副業制度を導入すると、組織の活性化を促すことができます。社員が部門の垣根を超えて協働するため、組織全体の風通しが良くなるでしょう。
例えば、エンジニアが営業部門のプロジェクトに参加すれば、顧客のニーズを今までよりも直接理解できるようになります。逆に、営業が開発プロジェクトへ参加すれば、開発期間や難易度を踏まえた提案ができるようになるでしょう。部門同士の相互理解が進むため、スムーズに連携しやすくなるのです。
この点は、従来の副業ではなく、社内副業だからこそ得られるメリットと言えます。
イノベーションの創出が期待できる
イノベーションの創出が期待できる点も、社内副業のメリットです。異なる職種の社員同士がコミュニケーションを取ることで、前例にとらわれない発想や解決策が生まれやすくなります。
例えば、「似たような業務を他部署はAIで効率化している」といった気づきを得たり、「〇〇部署の仕事と〇〇部署の仕事は一元化できないか?」といったアイディアが出てくるでしょう。
同様のメリットは通常の副業でも期待できますが、社内副業は通常の副業よりもハードルが低いため、複数のプロジェクトから幅広い発想を得やすいです。
従業員エンゲージメントが向上する
社内副業は、従業員エンゲージメントの向上というメリットも見逃せません。
記事の冒頭でも解説しましたが、社内副業は基本的に社員が自発的に参加するものです。人事命令で行われる出向とは異なり、社員は自らが「挑戦したい」と思った部門やプロジェクトへ主体的に参加します。
こうした「挑戦したいことに挑戦できる環境」は、従業員エンゲージメントを向上させる上で非常に重要です。自由に成長できる環境を整えて、社員の離脱やモチベーション低下を防ぎましょう。
社内副業制度のデメリット・注意点
社内副業には多くのメリットがありますが、ただ「制度を作るだけ」で効果を得ることは難しいでしょう。社内副業にはいくつかの注意点があるため、導入前にこれらをあらかじめ把握しておくことが重要です。
社内副業のデメリットや注意点を解説します。
従業員の負担が増大する
社内副業を実施する際に最も意識すべきなのは、従業員の負担です。十分にケアしなければ、かえって本業の効率が悪化するといったデメリットにもなりかねません。
社員の負担を抑えるためのポイントは、以下の通りです。
業務量 | 上司が定期的に業務量を確認する各プロジェクトでの稼働時間の上限を決める |
責任・プレッシャー | 副業先でのパフォーマンスを評価対象としない細かなルールを定めすぎない |
本業に悪影響を与えないよう、本来の上司、副業先のプロジェクトのリーダー、人事部門が連携しながら上記の対策を行いましょう。
はじめは参加者や案件が集まりづらいことも
社内副業を実施するためには、副業を受け入れるプロジェクトや部署が必要です。しかし、社内副業制度の導入直後は、なかなか参加できる案件が集まりづらい場合があります。同様に、社内副業への参加者も集まりづらいかもしれません。
対策としては、社内副業の意図を社員へ丁寧に説明することが大切です。説明会や案件説明の場を設けるなど、社内副業に対する理解を促進しましょう。場合によっては、経営陣が旗振り役となることも有効です。
さらに、ある程度社内副業のプロジェクトが実施できたら、事例を社内で共有しましょう。例えば弊社エンファクトリーでは、「en Terminal」というイベントを半年に一度のペースで開催し、社員がそれぞれの活動をシェアする機会を設けています。
社内副業制度を導入する際の流れ
社内副業制度を導入する際には、以下の4ステップが必要です。
- 目的を明確化する
- 制度設計を行う
- 参加者を募る
- 組織全体に活動・学びを横展開する
社内副業制度を導入する際の手順について解説します。
なお、各ステップの詳細は以下の資料で詳しく解説しています。具体的な事例も豊富に紹介しているので、詳細が知りたい方はぜひ以下のページをから資料をご確認ください。
<「はじめての社内複業ガイドブック」への導線設置>
【STEP1】目的を明確化する
社内副業はさまざまな目的に活用できますが、その反面、目的を明確化しなければ形骸化してしまう可能性があります。社内副業制度を導入する際には、まず「なんのために社内副業を実施するのか?」を明確にしましょう。
例えば三井住友海上火災保険株式会社は、2022年1月から以下の2つのリモート型社内副業を開始しました。
プロジェクトチャレンジ | 新しい業務に挑戦する1〜6ヶ月程度のプロジェクト |
Meetup | 部署を超えてオンライン上で集まる1〜2時間程度の交流会 |
これらの目的は、イノベーションを生み出す活気ある職場を実現すること。イノベーションには組織の枠を超えた社内のコラボレーションが必要だと考え、中長期・短期の観点から上記の2つの制度をスタートさせました。
このように、まずは「組織や社員に求める理想像」を定義したうえで、それを具体的な制度へと落とし込むことが大切です。
【STEP2】制度設計を行う
目的が決まったら、次に制度設計を行います。制度設計で意識すべきポイントは、以下の5点です。
- 既存の制度とどうすみ分けるのか?
- 社員に受け入れてもらうための工夫はどうするか?
- 時間管理はどのようにするか?
- 報酬はつけるべきか?
- 評価に反映するべきか?
2点目の「受け入れてもらうための工夫」に関しては、制度のネーミングが重要です。社員にとって親しみを感じてもらうためには、あえて「社内副業」という言葉を入れない方が良いケースもあります。
参考までに、実際の例をいくつかピックアップしました。
富士フイルムシステムサービス株式会社 | スラッシュキャリア制度 |
株式会社サイバーエージェント | Cycle |
株式会社ディー・エヌ・エー | クロスジョブ制度 |
なお、社内副業の評価には工数がかかるため、副業先での仕事内容を評価すべきかどうかはケースバイケースです。評価対象となる案件の基準を設けたり、評価対象の期間とそうでない期間を分けたりするといった運用も考えられます。
【STEP3】参加者を募る
次に、社内副業制度への参加者を募りましょう。
参加者を募る際には、エントリーのハードルを下げるとともに、参加しやすい導線を整えることが大切です。具体的には、以下の3点を踏まえながら募集文を作成してみてください。
- 何をやるのか(What)
- なぜやるのか(Why)
- どうやるのか(How)
また、参加する社員が集まったら、随時サポートを行いましょう。例えばNTTテクノクロス株式会社では、企業内コミュニティ「First Penguin Lab」を運営しており、社内外の有識者や専門家と社員をつなぐサポートを行っています。
【STEP4】組織全体に活動・学びを横展開する
社内副業のプロジェクトが動き始めたら、組織全体に活動や学びを展開していきます。
リクルート社が実施した「兼業・副業に関する動向調査2020」によると、副業や兼業を実施するきっかけとして最も多かったのは「すでに兼業・副業をしている人が身近にいた」という回答です。これは、実に全体の30%を占めています。
社内副業でも、社員に成功体験をシェアすることがポイント。具体的な手段としては、以下の3つが考えられます。
- 本人へのインタビューを社内掲示板などで掲載する
- 本人による波及(周囲への口コミなど)を促す
- 活動共有解を開催し、経験を周囲へ共有する
これらを複数組み合わせながら、徐々に制度を社内へと浸透させていきましょう。
社内副業の解禁に成功した企業事例3選
ここからは、実際に社内副業制度を導入し、成果を上げている企業事例を3つ紹介します。社内副業制度の導入に向けた具体的なイメージを膨らませたい方は、ぜひ参考にしてください。
コクヨ株式会社
社内複業制度として「20%チャレンジ」を導入している、オフィス家具・文具大手のコクヨ株式会社。普段の業務時間のうち20%を活用し、本来とは異なる部署での仕事に取り組んでもらっています。
本制度の一番の目的は、「社員一人ひとりの『こうしたい!』という気持ち(WILL)を大切にして、主体的なキャリア形成や能力向上を後押しすること」です。参加者からは、「新しい仕事の進め方や考え方を身につけられた」といった声のほか、「自分の強みや成長テーマが具体的に見えてきた」などキャリア自律につながる意見も。取り組みは徐々に社内で話題になり、これまでにのべ400名以上の社員が20%チャレンジに参加しました。
本事例がここまで社内へ浸透したのは、参加者を集めるためにさまざまな工夫を凝らしたからです。例えば募集要項では、「副業へ参加することで得られる社員側のメリット」を徹底的に具体化した上で、一人ひとりの「WILL」に語りかけるよう意識した文章作成を心がけました。ときには社長が自ら発信するなど、経営層レベルでの取り組みも多いです。
コクヨ株式会社の20%チャレンジの詳細が知りたい方はぜひ以下のページから資料をご確認ください。
三井住友海上火災保険株式会社
2021年7月から社内副業制度を運用している三井住友海上火災保険株式会社。「プロジェクトチャレンジ」や「Meetup」といった複数の取り組みを実施して、社内副業の浸透を実現しています。
中でもプロジェクトチャレンジは、部署や地域の垣根を超えた社員が協働しながら、プロジェクト形式で1〜6ヶ月程度の活動を行うことが特徴です。これまで、弊社エンファクトリーが提供する公募システム「Temalancerエンタープライズ」には2,000名以上が登録し、のべ400名以上の社員が実際に社内副業へ参加しました。
こうした成果の背景には、導入初期から社員を巻き込むなどの地道な努力があります。普及期には「情報をオープンにすること」「人事が自らサポートすること」の2点を心がけ、組織の枠を超えてコラボレーションする組織文化の醸成につなげました。
静岡ガス株式会社
静岡ガス株式会社では、「挑戦する文化」を形成するとともに、社員のスキルアップや部門間の相互理解を促進するため、2024年2月から社内副業を試行運用しています。
本事例では、社内副業を浸透させるために以下の3ステップを意識しました。
「自律的学び」への興味喚起 | キャリア自律に関するレクチャーなど |
社内副業の実践支援 | ワークショップの実施、社内副業案件の説明会開催など |
社内副業の浸透・波及 | インタビュー記事の作成やセミナーの開催など |
静岡ガス株式会社では2030年のビジョン実現に向けた必要なアクションの一つとして「社内副業」が選ばれるなど、全社的に社内副業へ取り組んでいます。今後も、ますます魅力的な案件が出るよう、人事部と現場が連携しながら取り組みを拡大する予定です。
エンファクトリーでは、上記ステップの設計や、副業管理システムの「Teamlancerエンタープライズ」の提供を通じて支援させていただきました。
まとめ
社内副業制度は、近年さまざまな企業で注目されている、いわば「新しい形の副業」です。制度をうまく運用することで、通常の副業とは異なる多くのメリットを得ることができるでしょう。
エンファクトリーでは、社内副業を幅広く支援しています。社内副業制度の導入に向けた、一気通貫のサポートを実施することが可能です。少しでもご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。