【事例あり】エフェクチュエーションとは?イノベーションを生み出す企業風土に変えるための新しい行動変容アプローチについて解説

イノベーション・新規事業

 VUCA時代の昨今、「エフェクチュエーション」というアプローチが注目を集めています。
変化に強い組織を作るうえで、エフェクチュエーションはぜひ人事担当者の方に知っておいていただきたい概念です。

この記事では、エフェクチュエーションの基本となる5つの考え方や、企業での実践方法などをわかりやすく解説します。エフェクチュエーションが少しでも気になっている方、不確実な環境でも自律的に行動できる人材を育成したい方は、ぜひ最後までお読みください。

エフェクチュエーションとは

エフェクチュエーションとは、不確実性の高い環境で新規事業立案や市場創造を行うための新たなアプローチです。

エフェクチュエーションでは、以下の流れで物事に対処します。

  1. 資源……自分は何者か、何を知っているのか
  2. 手段……自分には何ができるか
  3. 目的……自分にできる新たな企業や製品、市場は何か

エフェクチュエーションの最大の特徴は、行動を起こすまでの流れが従来とは根本的に異なる点です。従来とは、以下のような違いがあります。

  • エフェクチュエーション……資源→手段→目的
  • 従来のアプローチ……目的→手段→資源

エフェクチュエーションが従来とは逆転した流れで行動する理由は、実行と学習のサイクルを重視するためです。不確実性に対処するため、綿密な計画を立てることよりも、失敗から学びながら進化することを目指しています。

なお、エフェクチュエーションはもともとインドのサラスバシー教授によって提唱されました。その後、起業家が限られたリソースの中で効果的に意思決定する方法として世界の経営層から注目を集め、現在では経営層以外にも広く知られるようになっています。

起業家や新規事業立案に関わる人材はもちろん、組織づくりに携わる人事や管理職など、多くの人材に有効な考え方です。

エフェクチュエーションが注目される背景

エフェクチュエーションが注目されている理由は、ビジネス環境の不確実性が高まりつつあるからです。

例えば、生成AIの進化を10年前に想像していた人はほとんどいないでしょう。新型コロナウィルスの流行も多くの人にとって予想外の出来事でしたし、2025年に入った後は国際政治の不安定さも増しつつあります。

最近ではこうした不確実性がますます増しているため、従来一般的だった計画重視型のアプローチだけだと対応しきれない状況が増えてきています。

特に日本企業では、長年にわたって「計画」→「実行」という直線的なアプローチが主流でした。しかし、市場環境の急速な変化や予測困難な事態の増加によって、今までよりも柔軟な視点が求められるようになっています。

エフェクチュエーションでは、目的ではなく手元にある資源から逆算してビジネスを創造します。これは、まさに現代のビジネス環境と相性が良い行動変容の方法なのです。

エフェクチュエーションとコーゼーションの違い

エフェクチュエーションの対義語は、コーゼーションです。コーゼーションとは、目標から出発するアプローチを意味します。

両者の違いは、以下の通りです。

エフェクチュエーションコーゼーション
出発点資源目的
流れ資源→手段→目的目的→手段→資源
リスクへの考え方許容可能な損失の範囲で実験する期待リターンを最大化する
不確実性への対応方法不確実性をチャンスと捉え、積極的に活用する綿密な計画と予測によって、不確実性を減らす
他者との関係性パートナーシップを通じて共創する競合分析を行い、差別化する

なお、これらはどちらかが優れた方法というわけではありません。人材育成や組織づくりでは、状況に応じて両方のアプローチをバランスよく活用することが重要です。

例えば、新規事業立案に関わる人材を育成したいときや、リーダーシップを育成したい場面では、エフェクチュエーションの考え方を身につけてもらうことが有効です。一方、安定して業務をこなしてもらうことを目指す基礎レベルの研修では、コーゼーションが適しています。

エフェクチュエーションの5つの原則

エフェクチュエーションには、以下の5つの原則があります。

  • 「手中の鳥」の原則
  • 「許容可能な損失」の原則
  • 「レモネード」の原則
  • 「クレイジーキルト」の原則
  • 「飛行機のパイロット」の原則

上記の5つの原則に沿ってビジネス立案や市場創造を行う点が、エフェクチュエーションの最大の特徴です。

ここからは、エフェクチュエーションにおける5つの原則について見ていきましょう。

「手中の鳥」の原則

「手中の鳥」の原則は、エフェクチュエーションの最も基本的な考え方です。この原則は、「今すでに持っているリソースから出発する」という考え方を表しています。

ここでいう「リソース」とは、例えば以下が該当します。

  • 自分は誰か(Who I am)
  • 何を知っているのか(What I know)
  • 誰を知っているのか(Who I know)

例えば、新規プロジェクトを立ち上げる際に「何が必要か」ではなく、「今持っているものは何か」から考えるのが「手中の鳥」の原則です。例えば、社内の既存の技術や知識、人的ネットワークなどを棚卸ししたうえで、それらを組み合わせて新たな価値を生み出すという発想が求められます。

「許容可能な損失」の原則

「許容可能な損失」の原則は、「失っても構わないもの」を基準に意思決定を行うアプローチです。

経営判断など、従来のビジネスシーンにおける意思決定では「期待リターンを最大化する」という原則が一般的でした。最もリターンが期待される選択肢を選ぶため、必然的にリスクを回避する意思決定になりがちな傾向があります。

これとは対象的に、エフェクチュエーションではリスクをいといません。より正確に説明すると、「最悪の場合でも受け入れられる損失」を設定し、その範囲内であれば積極的な実験を行います。「リスクを回避する」のではなく、「リスクをコントロールする」ことが特徴です。

例えば起業であれば、以下のような問いを立てながら最大の損失をコントロールします。

  • 「その選択をしたときに失う最大のものは何か?」
  • 「その損失は許容可能か?」
  • 「反対に、その選択をしなかった場合に失う最大のものは何か?」

「レモネード」の原則

「レモネード」の原則は、「予期せぬ出来事や障害をチャンスに変える」という考え方です。「レモンを渡されたらレモネードを作れ」ということわざに由来しており、困難な状況でも柔軟に対応する姿勢を表しています。

変化が激しい現在のビジネス環境では、予期せぬ変化を「問題」として捉えるのではなく、「機会」として捉える柔軟性が重要です。例えば、新しいAI技術の登場を業務変革のチャンスと捉えたり、市場変化を新規事業開発のきっかけとしたりする発想が求められます。

「クレイジーキルト」の原則

「クレイジーキルト」の原則は、さまざまな関係者とのパートナーシップを通じて、新たな価値を共創するという原則です。

「クレイジーキルト」とは、色や形、サイズの違う様々な布を継ぎ合わせた布を指します。起業や新規事業の立案でも、クレイジーキルトのように異なる専門性や視点を持つ人々が協働することで、予想外の成果が生まれる可能性があるというのがこの原則です。

クレイジーキルトの原則に沿った企業のアクションとしては、以下が挙げられます。

  • 部門間の壁を越えたプロジェクトの発足
  • 外部パートナーとの連携
  • オープンイノベーションの支援

また、越境学習でスタートアップ企業の多様な人材と協働する経験も、「クレイジーキルト」の原則を体感する貴重な機会です。

「飛行機のパイロット」の原則

「飛行機のパイロット」の原則は、「自分自身がコントロールできる範囲に集中する」という考え方です。不確実な環境では、外部環境を予測したりコントロールしようとしたりせず、自分の行動を通じて未来を形作っていくことが求められます。

例えば飲食店を営む一経営者が、キャッシュレスの普及という時代の流れを食い止めることは困難です。このとき、「キャッシュレス決済の問題点を社会に提起しよう」とするのではなく、「キャッシュレスを利用する人に向けた新商品やキャンペーンを発想できないか?」と考えるのが、「飛行機のパイロットの原則」の一例といえます。

企業におけるエフェクチュエーションの実践方法

エフェクチュエーションはもともと起業家の間で有名なアプローチでしたが、組織のイノベーションは一般社員の小さな取り組みから始まることも少なくありません。エフェクチュエーションを社員へ浸透させると、小さな業務改善やチャレンジといった、イノベーションの種が生まれやすい企業風土を作ることができます。社員にエフェクチュエーションを浸透させるためには、何ができるのでしょうか。

社員にエフェクチュエーションを浸透させる方法がいくつかありますが、中でもおすすめなのが越境学習です。越境学習では、ベンチャー企業やスタートアップ企業などへ3〜6ヶ月間留学し、普段とは異なる環境で経験を積んでもらいます。

越境学習では、以下のようにエフェクチュエーションの考え方を実践することが可能です。

越境学習の特徴実践できる原則
ベンチャー企業のリアルな課題に取り組む「手中の鳥」「許容可能な損失」
本業と離れた異質な環境に飛び込む「レモネード」「クレイジーキルト」
上流工程を含む多彩な業務に携わる「飛行機のパイロット」

ここからは、越境学習がエフェクチュエーションの考え方を実践するうえで有効な理由を解説します。

実務を通じて「手中の鳥」「許容可能な損失」を体得する

越境学習では、ベンチャー企業での実務を通じて「手中の鳥」「許容可能な素質」を体得できます。

例えばベンチャー企業では、限られたリソースで最大限の成果を出す必要があります。例えば普段大企業でマーケティングを担当している場合、越境学習先では予算が普段の10分の1しかないことも珍しくありません。

こうした状況では必然的に、「手元の資源で何ができるのだろうか?」と考える必要に迫られます。自然と、「手中の鳥」の考え方が身につくのです。

同様に、実務を通じて「許容可能な損失」の原則も体得できます。業務プロセスが確立していないベンチャー企業では、大企業よりも試行錯誤を重ねる傾向が強いです。

例えばITベンチャーの新機能開発では、「2週間で最小限の機能をリリースし、市場の反応を見る」といった場面も少なくありません。大企業にとってはリスクの高い実験的なアプローチも、ベンチャー企業では当たり前に行われていることが多いです。

こうした環境で実務経験を積むことで、リスクをコントロールしながら実験する「許容可能な損失」の考え方を身につけることができるのです。

異質な環境で「レモネード」と「クレイジーキルト」を実践する

越境学習におけるベンチャー企業での実務は、予測不能な変化の連続です。「レモネード」や「クレイジーキルト」の原則を実践する絶好の場となります。

例えばベンチャー企業では、3ヶ月もあれば資金調達状況や市場の反応、競合の状況などは目まぐるしく変化します。越境学習のプログラム中に、参加当初は想定していなかった事態が生まれることもあるでしょう。

こうした状況で、ベンチャー企業はビジネスモデルを抜本的に変化させたり、主力サービスの切り替えを行ったりします。こうした大胆な発想の転換に触れることで、「ピンチをチャンスに切り替える」というレモネードの原則を体得できるのです。

また、ベンチャー企業にはさまざまなバックグラウンドを持った人材が在籍しています。ときには、投資家や顧客、パートナー企業の社員と直接関わる場面もあるでしょう。

自然とクレイジーキルトの原則が身につきますし、当初は想定していなかった「偶然の出会い」が生まれるかもしれません。

「飛行機のパイロット」として自律的な行動を促進する

越境学習では、「飛行機のパイロット」の原則を体験できる場面も豊富です。

大企業からベンチャー企業へ留学した場合、事業開発や戦略策定などの上流工程へ携わる場面が増えるでしょう。このとき、以下のような経験をすることができます。

  • 事業の方向性を自分自身で決める
  • 上長に判断を仰がず、現場レベルで判断する

いつもよりも業務の裁量が大きくなる分、自分で決断する経験が増えるのです。その結果、普段から「何が自分にコントロールできて、何ができないのか」を意識するようになります。これは、まさに飛行機のパイロットの原則の考え方です。

まとめ

エフェクチュエーションについて、定義や5つの原則について解説しました。

エフェクチュエーションは、不確実性の高い環境で効果的に行動するために必要不可欠な行動変容の手法です。もともとは起業家に向けたフレームワークでしたが、昨今はVUCA時代を生きるすべての社員に必要な考え方として、企業の人事担当者からも注目を集めつつあります。

越境学習は、エフェクチュエーションを効果的に実践するためにおすすめの方法です。ぜひこの記事の内容を参考に、エフェクチュエーションを効果的に実践し、イノベーションを生み出す企業風土の醸成につなげてください。

越境学習プログラムについて詳しく知りたい方はこちらから資料をダウンロードいただけます。

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