【事例あり】研修転移とは?研修内容を現場で活かすための方法を解説

越境学習

「研修が『やりっぱなし』で終わってしまっている」
「せっかく研修で学んだ内容が、いまいち実務で活かされていない」

こうした悩みをお持ちの人事担当者の方も多いでしょう。「研修転移」は、現場での行動変容につながる効果的な研修を実施するためにぜひ知っておいていただきたい概念です。

この記事では、研修転移の定義や実現方法などを詳しく解説します。越境学習を活用した研修転移の促進方法もご紹介するので、実効性の高い人材育成を実現したい方はぜひ参考にしてください。

研修転移とは

研修転移とは、研修で得た知識やスキルを実際の業務に移行・応用することです。

人材開発に関する研究の第一人者として知られる立教大学の中原淳氏は、著書『「研修転移」の理論と実践』の中で、研修転移に必要な要素として以下の3つを挙げています。

  1. 研修で学んだことが一般化されている
  2. 現場で役立てられている
  3. その効果が持続される

(『「研修転移」の理論と実践』より要約)

研修での学習をその場限りのもので終わらせず、現場で応用することがポイントです。

例えば、以下のような行動が研修転移にあたります。

  • 研修で学んだトークスクリプトを実際の商談で利用し、成約率を向上させる
  • 研修でプログラミングを学び、簡単な社内ツールを開発して業務を効率化する
  • 営業研修で学んだ傾聴力を部下との面談に活かして、信頼関係を構築する

なお、研修転移には大きく分けて「近転移」と「遠転移」の2種類があります。近転移は研修内容と似た状況での活用、遠転移は研修と異なる状況での活用です。例えば先ほどお示しした3つの例だと、1番目と2番目は近転移、3番目は遠転移に該当します。

研修転移を促進するメリット

研修転移を促進することには、以下のようなメリットがあります。

  • 投資に見合った育成効果が得られる
  • 組織のパフォーマンスが向上する
  • 社員がやりがいや成長実感を得られる

第一に、研修転移を促進すれば人材育成の効果が向上します。研修で学んだ内容が業務の生産性改善につながれば、研修費用以上の育成効果を得やすくなるでしょう。

第二のメリットは、組織のパフォーマンス向上です。研修内容が現場で実践されるようになれば、業務の質が向上し、組織全体の業績向上につながります。例えばプログラミングについて学んだ社員が社内ツールを作るようになれば、予想以上の業務効率化が実現するかもしれません。

第三のメリットとして、研修転移によって社員にやりがいや成長実感を持ってもらうことができます。研修転移が起こる人材育成施策は、社員にも「業務に役立つ内容だな」と感じてもらいやすいです。社員が研修をポジティブなものとして捉えてくれるようになり、モチベーション向上につながります。

なぜ通常の研修内容は、現場で活かされないのか

研修転移は極めて重要ですが、残念ながらうまく研修転移が起こっていない企業も多いのが現状です。どうして通常の研修だと、研修転移を十分に引き起こせないのでしょうか。

研修転移が起こらない理由として、以下の「3つの壁」の存在があります。

  • 第一の壁:記憶の壁
  • 第二の壁:実践の壁
  • 第三の壁:継続の壁

研修内容が現場で活かされない原因を、3つの壁の観点から紐解いていきましょう。

第一の壁:記憶の壁

多くの研修参加者は、研修内容を十分に記憶できていません。これが、第一の壁である「記憶の壁」です。

一般的に、人間の脳は新しい情報を得ると、時間の経過とともに忘れていく特性があります。何も復習をしなければ、後から内容を思い出すことはどんどん難しくなっていくでしょう。

さらに、多くの企業で行われている講義型の研修は、特に記憶定着率が低いという問題があります。単に講義を聴くだけでは、内容の記憶定着率は5%程度にとどまるというデータもあります(※)

学習内容をただ伝えるだけでは、記憶の壁を越えることはできません。こまめな復習や実践的なワークを組み込むなど、記憶定着を促す工夫が必要です。

※ 参考:https://www.nucba.ac.jp/active-learning/entry-17091.html 

第二の壁:実践の壁

研修内容を覚えていても、それを実際の業務に使えるかどうかは別問題です。研修内容を実践できていない場合、第二の壁である「実践の壁」に直面しています。

実践の壁が生まれる理由は、主に以下の3点です。

  • 日々の業務に追われており、新しいことを試す余裕がない
  • 研修内容と現場の仕事内容にギャップがあり、実践機会がない
  • 周囲の理解や協力が得られない

これらの課題を乗り越えるためには、研修内容を実践できる環境を整える必要があります。

例えばせっかく研修を実施しても、上司が研修内容を理解していなかったり、そもそも研修に参加していることを知らなかったりすることもあるでしょう。しかし、このような状態では社員もなかなか実践に向けた一歩を踏み出しづらいです。

上司を巻き込んだ施策を展開するなど、環境の整備が「実践の壁」を乗り越える鍵となります。

第三の壁:継続の壁

一度や二度実践しただけでは、新しい行動は定着しません。一度実践しても継続できずに終わってしまうのが、第三の壁である「継続の壁」です。

一般的に、人間が新しい行動を定着させるためにはある程度のまとまった時間がかかります。何度も新しい行動を繰り返すうちに、自然とそれが習慣化し、業務に取り入れられるというのが自然な流れです。

しかし、通常の研修では長期間にわたる継続の支援がありません。何らかのフォローアップがある場合でも、研修後に簡単なアンケートを実施したり、1週間後に簡単な振り返り研修を実施したりするだけになりがちで、1〜2ヶ月単位での支援は不十分なのが現状です。

後ほど詳しく解説しますが、この「継続の壁」を乗り越えるためには、長期間のフォローアップやインターバル研修が有効です。

研修転移を促すには?

研修転移を促進するためには、以下のような工夫が必要です。

  • 現場での実践につながる研修内容にする
  • 上司を巻き込んだ育成施策を実施する
  • 研修後にフォローアップを実施する
  • eラーニングなどを活用して予習復習を行う

研修転移を促すために効果的な方法を4つ紹介します。

現場での実践につながる研修内容にする

研修を現場で活かしてもらうためには、実践を想定した内容にすることが重要です。実際の業務に近い事例紹介やケーススタディを取り入れることで、研修と現場のギャップを小さくすることができます。

例えば、以下のような施策がおすすめです。

  • 研修内容を現場で活かす方法をディスカッションしてもらう
  • 研修の最後に「明日から何をするか」を具体的に考えてもらう
  • 業務で実際に使えるツールやテンプレートを配布する
  • 参加者が自部署の課題を持ち込んで取り組む時間を確保する

ポイントは、「研修内容をどう業務に生かせるのか?」を研修参加者自身に考えてもらうことです。アメリカの教育心理学者のYelon氏は、転移の第一歩は「学んだ内容と仕事の関係性を見極めること」であるとしています。

単に「研修内容を現場で活かしてくださいね」と伝えるのではなく、研修内容の活かし方を自発的に考えてもらうことを意識してみてください。

Yelon, Stephen & Sheppard, Lorin & Sleight, Deborah & Ford, J.. (2008). Intention to Transfer: How Do Autonomous Professionals Become Motivated to Use New Ideas?. Performance Improvement Quarterly. 17. 82-103.

上司を巻き込んだ育成施策を実施する

研修転移を起こすためには、育成施策に上司を巻き込むことも重要です。部下が研修で学んだことを実践できるかどうかは、上司に大きく左右されます。

例えば、以下のような施策を検討してみましょう。

  • 1on1面談を導入し、上司と部下で研修後の実践計画を立てる
  • 上司が部下の実践状況を定期的にフォローアップする
  • 上司自身も同じ研修を受講し、共通言語を持つようにする

上司が適切な距離感で部下をサポートすることで、部下に「研修内容の実践が求められているな」と感じてもらうことができます。

なお、人事部門は管理職に対して直接アプローチすることも有効です。例えば、上司向けのコーチングスキル研修を実施して、「研修後の実践サポートが重要」というメッセージを繰り返し伝えてみてください。

研修後にフォローアップを実施する

研修転移を促進するためには、研修後のフォローアップが欠かせません。研修内容を思い出す機会を設けることで、行動変容の定着を促すことができます。

具体的なフォローアップの方法としては、以下のようなものがあります。

方法内容効果
フォローアップ研修研修から1〜3ヶ月後のタイミングで振り返りを実施する研修内容を思い出してもらう
インターバル研修研修をまとめて実施せず、あえて数カ月間のインターバルを挟む長期的な記憶の定着を促す
コーチング上司によるマンツーマンのサポートを行うそれぞれの状況に合わせた的確なサポートをする
成功事例の共有会現場での実践状況を互いに共有する本人の経験を棚卸しする他の研修受講者にロールモデルを伝える

なお、フォローアップのための予算と時間は、研修設計時から確保しておくことが重要です。

多くの企業では研修自体にリソースを使い切り、フォローアップまで手が回らないケースが少なくありません。「実践の壁」「継続の壁」の存在を意識しながら、研修をやりっぱなしで終わらせない工夫が大切です。

eラーニングなどを活用して予習復習を行う

記憶の定着と継続的な学習を促進するためには、eラーニングを活用した予習と復習が効果的です。集合研修の前後にeラーニングを導入することで、学習効果を高めることができます。

研修の各フェーズにおけるeラーニングの活用方法は、以下の通りです。

フェーズ活用例
研修前基礎的な内容を予習してもらう
研修中短尺の動画コンテンツで研修内容をフォローするゲーミフィケーションによって継続のモチベーションを高める
研修後ミニテストで知識の定着度を確認する研修内容を短い動画にまとめ、いつでも復習できるようにする

なお、eラーニングを導入する際には、積極的に活用してもらうための工夫も重要です。例えば研修中にeラーニングでの学習状況について触れたり、eラーニングの活用方法を説明したりするのがよいでしょう。管理職からの声かけも効果的です。

研修転移を促進させる「越境学習」とは?

越境学習は、普段の環境を離れ、新たな環境で学ぶ人材育成方法です。特にベンチャー企業やスタートアップ企業での経験は、従来の研修では得られない新鮮な学びを得ることができますし、効果的な研修転移にもつながります。

ここからは、越境学習が研修転移に有効な理由や、実際に越境学習を用いて研修転移を成功させた事例について解説します。

研修転移を起こす方法についてイメージを膨らませたい方は、ぜひ参考にしてください。

リアルな修羅場体験で転移を促進する

越境学習の最大の特徴は、リアルな「修羅場」を経験できることです。

ベンチャー企業やスタートアップ企業では、限られたリソースの中で成果を出す必要があります。普段とは異なる環境に置かれるため、「今まで学んできたことを活かせないか?」と必然的に考えざるを得ません。自然とこれまでの研修や実務経験を振り返る機会が生まれ、学習内容を「実務へ活かす」という経験ができるでしょう。

反対に、ベンチャー企業やスタートアップ企業で学んだことを、帰任後に活かすという方向の研修転移も期待できます。リアルなプレッシャーの中で得た経験は、普段の職場に戻った後も強く記憶に残るため、長期的な行動変容に活かされやすくなるのです。

3ヶ月以上のまとまった期間で行動を習慣化する

越境学習が研修転移に効果的な理由として、まとまった期間での学習ができる点も挙げられます。

記事の前半でも触れましたが、新しい行動を習慣化させるためには多くの時間が必要です。ベンチャー企業やスタートアップに3ヶ月以上かけて留学する越境学習は、習慣化に必要な期間を確保できる点で、研修転移に向いています。短期間の研修では難しい「行動の定着」が、越境学習では実現しやすくなるのです。

例えば大手企業のエンジニアがITのスタートアップ企業に留学すると、「機能を自分で考える」「既存機能の改善提案を自分で行う」といったように、普段よりも自分の頭で考える機会が多くなります。

こうした行動を3ヶ月〜6ヶ月程度にわたって続けると、帰任後も主体性を持った行動ができるようになります。会議や部下とのミーティングといったプログラミング以外の場面でも主体的に行動できるようになれば、研修転移は大成功です。

越境学習で研修転移を促進させた事例

ここまで越境学習が研修転移に有効な理由を解説しましたが、実際に越境学習によって研修転移を成功させた事例も多いです。ここでは、越境学習によって研修転移を成功させた株式会社オリエントコーポレーションの事例を紹介します。

株式会社オリエントコーポレーションの田尾様は、自社での経験が長くなるにつれて、「考え方が自社に染まっているな」と感じていました。そこで、エンファクトリーの提供する「複業留学」に参加して、あえて異業種のスタートアップへ挑戦する経験を積みました。

田尾様は、複業留学の期間を通じて、仕事への取り組み方が変わったそうです。具体的には、副業留学の効果について、インタビューで以下のようにお答え頂いています。

今までは自己啓発のため社外講座を受講しても、とても勉強になったと思うことで終わっていましたが、今回インプットしたばかりの情報を、複業留学期間中にアウトプットし、学びを活かすことができたという体験をしました。

まさに、普段の研修で学んだ内容を、複業留学によって効果的に研修転移させることに成功した事例です。留学後には、研修内容のアウトプットを日頃から意識するようになるなど、マインドにも前向きな変化が見られました。

この事例について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

複業留学体験レポート「インプット・アウトプット、ストーリー性、気づきと意識変化をもたらす貴重な体験」 

まとめ

研修転移について、定義や促進のための方法について解説しました。

研修転移は、研修効果を高めるうえで必要不可欠です。せっかく費用と時間をかけて研修を実施しても、研修転移が起こらなければ十分な育成効果は期待できません。研修プログラムの工夫や上司からの支援などを通じて、研修転移が起こる仕組みを作ることが大切です。

ぜひこの記事の内容を参考に、研修転移を効果的に促進し、現場で活かせる学びをデザインしてください。

越境学習についてさらに詳しく知りたい方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。

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