【事例あり】キャリア安全性とは?心理的安全性との関係性や、若手への支援方法についても徹底解説

キャリア自律

「キャリア安全性」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。キャリアの多様化が進みつつある昨今、職場のキャリア安全性を高めることは非常に重要です。

この記事では、キャリア安全性の定義や若手への支援方法、心理的安全性との関係をわかりやすく解説します。キャリア安全性の向上に成功した企業事例も紹介するので、ぜひ最後までお読みください。

キャリア安全性とは?

キャリア安全性とは、「今の環境で将来に渡って安泰なキャリアを築ける」と感じているかどうかを表す尺度のことです。もともと、米国ハーバード・ビジネススクールの教授であるエドモンドソン氏によって提唱されました。

最近は、主にZ世代をマネジメントする際に重要な概念として改めて注目を浴びています。例えばリクルートワークス研究所の古屋星斗氏は、2023年に著書『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』を発表し、人材育成におけるキャリア安全性の重要性を指摘しました。

人材育成を手掛けるMomentorで代表を務める酒井風太氏も、YouTube動画の中で「キャリア安全性の欠如が若手の見切りを生む」と指摘しています。同氏によると、キャリア安全性が低い組織では、若手の間に「いても無駄だ」という意識が生じるため、上司や組織に対する信頼感が低下するそうです。

キャリア安全性で重要な3つの視座

キャリア安全性は、以下の3つから構成されています。

  1. 時間視座
  2. 市場視座
  3. 比較視座

1つめの時間視座とは、「今の環境で今後も働き続けたときに、成長できるか?」という観点です。今の仕事が10年後や20年後にも価値があるものなのか、40代や50代になったときに役立つ経験なのかといった信頼感がここに含まれます。

2つめの市場視座とは、「他の企業でも通用するスキルを身につけられるのか?」という観点です。人材の流動性が高い昨今では、定年まで同じ企業に勤め続けるとは限りません。そうなったときに、次の転職先を自分で見つけやすいような環境はキャリア安全性が高いです。いわゆる「つぶしが効くか」という観点だと考えるとわかりやすいでしょう。

3つめの比較視座とは、「周囲の友人や知人と比較したときに、自分の環境は理想なのだろうか?」という観点です。他の人と比較したときに「他の人のキャリアは輝いてみえるな」「自分の企業の将来性は不安だな」と感じる職場は、キャリア安全性が低いと言わざるを得ません。

キャリア安全性が必要とされている背景

キャリア安全性は、2023年以降に改めて注目を浴びている人事トレンドの一つです。キャリア安全性が注目されている理由としては、以下が挙げられます。

  • Z世代の登場によるキャリア観の変化
  • 働き方改革による労働環境の変化
  • 終身雇用の崩壊

それぞれについて詳しく解説します。

Z世代の登場によるキャリア観の変化

キャリア安全性が注目されている最大の理由は、若手社員のキャリア観の変化です。Z世代と呼ばれる最近の若手社員は、他の世代と比べるとキャリアに対する不安感が強いと言われています。

また、インターネット上での口コミやSNSでのやり取りを通じて、自分の労働環境を他人と比較する機会も多いです。学生時代の友人と比較した結果、よりよいキャリアを築きたいと考え、離職を決断する人も少なくありません。

働き方改革による労働環境の変化

働き方改革によって、労働環境は大きく変化しました。

総務省が公表している『労働力調査』によると、2013年から2023年の10年間にかけて、男性の年間平均就業時間はすべての世代でおよそ400時間も減少しています。1日に換算すると、実に1時間30分以上短くなっている計算です。

こうした労働環境の変化は、良い方向ばかりに作用しているわけではありません。労働時間が短くなったことによって、「職場がゆるすぎて成長実感がない」「ぬるま湯のような組織はリスクがある」と感じる若手社員も増えました。

労働環境が短くなったことによって、「自分のキャリアを追求したい」という意識がかえって顕在化してきているのです。

参考:総務省 統計局ホームページ/労働力調査 

終身雇用の崩壊

言うまでもなく、終身雇用の崩壊もキャリア安全性の意識に影響を与えています。

従来の日本企業では、新卒一括採用で入社し、定年まで勤め上げるのが一般的でした。しかしながら、ビジネス環境のグローバル化や競争の激化に伴い、こうした雇用スキームは徐々に崩壊しつつあります。

人材の流動性が高い昨今では、自分のキャリアを自分で描く「キャリア自律」が必要です。キャリア自律が進むと、社員は「自分の市場価値を保ちたい」という思いから、キャリア安全性の高い組織を求めるようになります。転職が当たり前になった現代で組織に優秀な人材をつなぎとめておくためには、キャリア安全性の担保が欠かせないのです。

なお、キャリア自律に関しては以下の記事でも詳しく解説しています。

【事例あり】キャリア自律とは?定義や企業側がサポートする方法、施策のポイントを解説
先の見えないVUCAの時代では、社員一人ひとりが自分のキャリアを主体的に切り拓く「キャリア自律」が求められています。キャリア自律の定義や、企業側が社員のキャリア自律をサポートする方法を解説します。

心理的安全性とキャリア安全性の関係

組織開発のためには、「心理的安全性」と「キャリア安全性」の両方が重要だとされています。ここからは、心理的安全性とキャリア安全性の関係を紐解いていきましょう。

心理的安全性とは?

心理的安全性とは、組織の中でリスクを取る、率直に発言するといったことを、個人がおそれずに行えるかどうかを示す尺度です。心理的安全性の高い組織には、以下の特徴が見られます。

  • 疑問に思ったことを率直に質問できる
  • 失敗やミスが全体に共有され、次に活かされる
  • 役職にかかわらず意見を述べることができる

心理的安全性は高い組織は風通しがよく、パフォーマンスも概して高いことが知られています。キャリア安全性と同じく、米国ハーバード・ビジネススクール教授のエドモンドソン氏が提唱した概念です。

キャリア安全性と心理的安全性は密接な関係がある

キャリア安全性と心理的安全性には、深い関係があります。キャリア安全性と心理的安全性の高低で組織を分類すると、以下の通りです。

心理的安全性
キャリア安全性「安全」な職場ホワイト企業「しんどい」職場しんどいが成長できる企業
「ゆるい」職場「ゆるブラック」企業「危険」な職場ブラック企業

もちろん、心理的安全性とキャリア安全性の両方が高い「安全な職場」が理想ですが、この状態を実現するのはそう簡単ではありません。実際、リクルートワークス研究所の調査によると、キャリア安全性と心理的安全性は負の相関を持つため、「どちらかを上げるとどちらかが下がる」という関係にあることが明らかになっています。

心理的安全性とキャリア安全性の両立が難しいのは、両者がある意味で相反する性質を持つからです。キャリア安全性が高い組織を実現するためには、社員にさまざまな挑戦機会を与えるとともに、ストレッチな目標を課す必要があります。

一方、心理的安全性の高い組織を実現するためには、社員の自己効力感を高めることが必要です。未経験の業務ばかりでストレスを与えたり、実力に対して目標があまりにも高すぎたりすると、社員の心理的安全性は低下します。

キャリア安全性と心理的安全性を両立するためには、これらがバランスよく生まれる絶妙なポイントを探ることが重要です。前述した酒井風太氏は、ここ数年の日本企業は心理的安全性を高めるアプローチに偏重気味であったと指摘しています。優秀なZ世代をつなぎとめるためには、キャリア安全性という観点からマネジメントを見直す必要があるのです。

キャリア安全性を高めるには?

キャリア安全性を高めるためには、以下の施策がおすすめです。

  • セミナーやイベントに参加してもらう
  • ロールモデルを示す
  • これまで挑戦したことのない仕事に取り組んでもらう
  • 越境学習で新しい環境へ挑戦してもらう

施策はいくつかありますが、いずれも共通しているのは「新しい環境へ飛び込む後押しをする」という点で、ここがキャリア安全性を高める最大のポイントです。ここからは、キャリア安全性を高める具体的な施策を紹介します。

セミナーやイベントに参加してもらう

キャリア安全性を高めるうえで、外部のセミナーやイベントへ積極的に参加してもらうのは大変有効です。

例えば、営業力について学ぶ勉強会を紹介してみましょう。普段は関わらない人と交流できれば刺激になりますし、社内にはないノウハウを学べるため成長実感にもつながります。エンジニアや技術職の場合は展示会、研究職であれば学会などのイベントへ積極的に参加してもらうのもおすすめです。

ロールモデルを示す

社員に対してロールモデルを示すのも、キャリア安全性を高めるうえで効果的です。すでに自社でキャリアを実現した先輩社員の話を聞くことで、自分が将来活躍するイメージを膨らませることができるでしょう。

ロールモデルを示す方法としては、以下が挙げられます。

  • キャリア研修のコンテンツとして、先輩社員の講演を取り入れる
  • 先輩社員を囲む座談会を実施する
  • キャリア相談会や質問会を実施する
  • ランチや交流会で気さくな交流を促す

研修などで時間を取るのも大切ですが、ランチなどを企画して気軽な交流を促すのも効果があります。本音でコミュニケーションを取ってもらえるよう、多角的に施策を行いましょう。

これまで挑戦したことのない仕事に取り組んでもらう

管理職には、部下にとって新しい仕事を積極的に与えるよう意識してもらいましょう。

組織がある程度大きくなると、同じ人に同じ仕事を振るようになりがちです。しかし、これでは業務の属人化を招きますし、何より部下が「いつも同じ仕事ばかりしている」とマンネリ化を感じてしまいます。こうした状態が長く続けば、部下は「この会社ではこのまま同じ仕事が続くのだろう」と考え、キャリアに対する期待感は下がるでしょう。

定期的に新しい仕事を与えれば、部下は成長につながる業務経験を得やすくなります。定期的に新しい仕事へチャレンジできるよう、管理職に意識してもらいましょう。ジョブローテーションなどの施策と組み合わせて実施するのも効果的です。

越境学習で新しい環境へ挑戦してもらう

キャリアの可能性に気づいてもらうためには、越境学習の実施もおすすめです。

越境学習とは、普段とは異なる環境で業務へ取り組むことで、スキルやマインドの向上、価値観のアップデートなどを目指す人材育成手法のことです。越境学習によって、以下のような効果が期待できます。

  • 社外の環境を知り、自分を客観視できる
  • 社内だけでは得られない経験やノウハウを得ることができる
  • 一つの会社に閉じこもる不安感を解消できる

一度社外の環境に飛び込んでみることで、自分の強みや弱みを客観的に再認識できますし、社内にはないスキルや経験を得ることができます。その結果、新しい視点から自分のキャリアの可能性を見つけられるようになり、キャリア安全性の向上につながるのです。

先述したジョブローテーションと違い、人事異動を伴わないため社内の調整コストも削減できるでしょう。

ただ、これだけだとあまりピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。そこで、これ以降では越境学習によってキャリア安全性を高めた具体的な事例を紹介します。

社外での実践でキャリア安全性を高めた事例

弊社エンファクトリーでは、越境学習によってキャリア安全性を高める支援を行っています。ここからは、越境学習を用いてキャリア安全性の向上に成功した事例を3つ紹介するので、ぜひ参考にしてください。

社外にロールモデルを見つけることでキャリア不安を解消した事例

株式会社パルコでは、社外での経験を積んでもらうことを目的として、複業留学を導入しました。複業留学の導入の決め手となったのは、以下の2点です。

  • 個人の学びを組織へ浸透させる
  • 若手からベテランまで、どんな人にとっても新しい経験を提供できる

複業留学に参加した社員は、スタートアップ企業とパルコの文化の違いに試行錯誤しつつも、コミュニケーション能力や関係構築力をフル活用して業務へ取り組みました。複業留学の効果について、人事戦略部の松井様からは以下のようにお答えいただいています。

個人の成長の方向性は多様化していますし、会社が本人の望むキャリアを提供することには限界があります。ロールモデルを社外に見つけに行く、という機会にもなっていると思います。

まさに、キャリア安全性を高めるために越境学習を効果的に活用した事例です。本事例の詳細は、以下のインタビューからご覧ください。

「社外ロールモデル」を見つけ個人の”キャリア不安”を解消|株式会社パルコさま「複業留学」を活用事例

社外での挑戦によってキャリアへの迷いを払拭した事例

株式会社オリエントコーポレーションの森泉様は、自己成長したいという思いから複業留学への参加を決めました。複業留学へ参加したきっかけについて、インタビューでは以下のようにお答えいただいています。

応募時点での業務経験は2つの部署に限られており、今後のキャリアを考えたときに経験が少ないと感じていました。そこで、会社に在籍したまま社外の新しい環境で仕事をし、新たな経験を積むことができる複業留学に興味を持ちました。また、これまで培ってきたスキルや経験が異なる環境でも通用するのかを試し、今までのキャリアに自信を持ちたいという思いもありました。

複業留学先では、日本食を世界へ広めることをコンセプトとするスタートアップ企業で、以下の業務へ取り組んでいただきました。

  • 商品開発とマーケティング
  • 業務フローの整理

複業留学の結果、積極性や課題解決力が大きく向上し、自分の将来の方向性が鮮明になったそうです。スタートアップ企業で得た経験をもとに新しい業務へチャレンジしたいと考えるようになるなど、マインド面にも前向きな変化が生まれています。

本事例の詳細は、以下のページからご確認ください。

複業留学体験レポート「新たな挑戦により手放せたキャリアへの迷い」 | 株式会社エンファクトリー

3ヶ月間で新しいキャリアの扉を開いた事例 

大日本印刷株式会社の中山様は、ベンチャー企業で経験を積むと同時に、自分のスキルがどこまで通用するのか試してみたいという思いから、複業留学への参加を決めました。

留学先では、新規ビジネス立ち上げをサポートする業務へ取り組んでいただきました。中山様が担当している営業やマーケティングとは毛色の異なる業務でしたが、周りの人に相談しつつ業務を進めたそうです。

留学後には、以下の2つの変化が生まれています。

  • 働くモチベーションが大幅に向上した
  • 「私はこれができます」と言えるようなキャリアを積むようになった

特に後者は、キャリア安全性の向上に直結しているといえるでしょう。複業留学に参加することで、自分のキャリアの方向性が明確になり、新しいキャリアの扉を開くことに成功した事例です。

本事例の詳細について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

複業留学体験レポート「新たなキャリアの扉を開く3ヶ月の挑戦」 | 株式会社エンファクトリー

まとめ

キャリア安全性について、定義や若手への支援方法を幅広く解説しました。

この記事で解説した通り、心理的安全性とキャリア安全性は組織開発のうえで極めて重要な要素です。一方、昨今は心理的安全性を高めることのみに注力する企業が多く、成長やキャリア構築を求めるZ世代の心が離れてしまっているという現実があります。

キャリア安全性を高めるためには、セミナーへの参加や新しい業務のアサインなどを通じて、新しい経験を積極的に積んでもらうことが大切です。また、越境学習で社外の環境に触れることで、今まで見えてこなかった新しいキャリアの扉が開けることもあるでしょう。

越境学習にご興味のある方はお気軽に以下よりお問い合わせください。

タイトルとURLをコピーしました