新型コロナウイルスの流行が一段落した今、ブレンディッドラーニングが改めて注目を浴びています。リモートワークから出社への回帰が進む中で、ブレンディッドラーニングの効果や進め方が気になる人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ブレンディッドラーニングの概要やメリット、効果を高めるコツについて解説します。ブレンディッドラーニングで人材育成の質を高めたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
ブレンディッドラーニングとは?
ブレンディッドラーニングは、オンライン研修や対面研修、eラーニングなど、複数の学習形態を組み合わせる教育手法です。もともとは2000年代に「オンライン学習と対面学習の組み合わせ」として生まれ、徐々にeラーニングや越境学習など多種多様な学習形態を組み合わせる手法へと発展していきました。
ブレンディッドラーニングの主な狙いは、学習効果の最大化です。例えば対面研修とオンライン研修には、それぞれメリットとデメリットがあります。しかし、これらを上手く組み合わせることで、互いのデメリットを解消することが可能です。複数の学習手法の「いいとこ取り」をすることが、ブレンディッドラーニングの肝といえます。
ブレンドする5つの要素
ブレンディッドラーニングというと、どうしても「オンライン研修と対面研修の組み合わせ」というイメージが先行しがちです。しかし実際のブレンディッドラーニングでは、以下のようにさまざまな要素を「ブレンド」することができます。
要素 | 例 |
メディア | スライド、動画、本、LMS |
学習活動 | 講義、ディスカッション、テスト、OJT、越境学習 |
学習方法 | 対面、オンライン |
学習者 | 年次、役職、部署、職種、スキル |
学習理論 | 認知科学、脳神経科学、行動科学 |
例えば「学習活動」を混ぜた「講義とOJTを交えた研修プログラム」もブレンディッドラーニングの一例ですし、「学習者」を混ぜた「年次や役職が異なる社員を混ぜたグループでワークに取り組んでもらう」こともブレンディッドラーニングの一例です。単に対面とオンラインを混ぜるだけでなく、さまざまな切り口から学びを「ブレンド」できることを理解しておきましょう。
ブレンディッドラーニングの主なパターン
ブレンディッドラーニングには無数の方法が考えられますが、まずはいくつかの典型的な組み合わせ方について知っておきましょう。企業研修でよく用いられる組み合わせは、以下の通りです。
- 集合研修×eラーニング
- 集合研修×オンライン研修
- 集合研修×eラーニング×オンライン研修
- OJT×eラーニング
- eラーニング×越境学習
例えば集合研修は、参加者同士が直接ディスカッションしたり、参加者同士のコミュニティを形成したりするのに役立ちます。そのため、eラーニングやオンライン研修で一通り知識をインプットしたあとで、集合研修のグループワークに取り組んでもらうという進め方が典型的です。
OJTや越境学習とeラーニングなどを組み合わせる進め方も近年増加しています。
これらもインプットとアウトプットをバランスよく取り入れられるため、大変効果的です。
ブレンディッドラーニングが注目を浴びている背景
ブレンディッドラーニングが注目を浴びている理由は、主に以下の3つです。
- インターネットの発達
- オンライン教育コンテンツの充実
- リモートワークから出社への回帰
まず、大きな背景としてインターネットの発達が挙げられます。そもそもブレンディッドラーニングは、2000年代のインターネットの普及を受けて生まれた手法です。
加えて、昨今では英語やプログラミングについて学べるオンラインのサービスも充実しました。こうしたコンテンツはeラーニングとして取り入れやすいので、ブレンディッドラーニングにおけるインプットでよく活用されています。
最後に、リモートワークから出社への回帰も重要な背景です。例えばAmazonは2024年に「RTO (Return to Office)」という出社命令を発表しましたし、メルカリやLINEヤフーも2025年以降に一定の出社を要請する方針を固めています。オフィス勤務へ戻りつつある潮流を受けて、新型コロナウイルス流行時は難しかった「対面研修とオンライン研修の組み合わせ」が改めて浸透しつつあるのです。
ブレンディッドラーニングのメリットと効果
ブレンディッドラーニングのメリットは、主に以下の4つです。
- 学習者ごとにカスタマイズした学びを提供できる
- 学習者のモチベーションを維持しやすい
- 実践的な学びをデザインできる
- 研修コストを削減できる
それぞれについて詳しく解説します。
学習者ごとにカスタマイズした学びを提供できる
ブレンディッドラーニングの最大のメリットは、学習者ごとに最適化した学びを実現できる点です。
例えばeラーニングを取り入れれば、それぞれの社員の経験や習熟度にぴったりな学びを実現できます。経験者と未経験者でクラス分けして、「経験者は1回の集合研修で簡単にインプット、未経験者はeラーニングで丁寧にフォロー」といった進め方も可能です。
もちろん研修の企画に多少手間がかかりますが、学習者のレベルに合わせた学びを提供できるのは大きな魅力といえます。
学習者のモチベーションを維持しやすい
学習者のモチベーションを維持しやすいのも、ブレンディッドラーニングのメリットです。
教育工学者の宮地功氏は、ブレンディッドラーニングによって以下の2つの効果が期待できると指摘しています(※)。
- 学習習慣が是正される
- 他者とコミュニケーションを取ることで学習意欲が向上する
単なるオンライン学習やeラーニングは、学習者のモチベーションが低いと効果が落ちがちです。「いつでも受講できるからと先延ばしにしていたら、講座が溜まってしまっていた」というケースも珍しくありません。
しかし、対面研修と組み合わせれば「決まった時間に決まった場所でやる」という良い意味での強制力が生まれるので、モチベーションの強化につながります。また、グループワークやディスカッションでは、他の社員とコミュニケーションが発生します。「しっかり次回に向けてインプットしなくては」という程よいプレッシャーが生まれるため、インプットのモチベーションとなるのです。
※藤代昇丈, 宮地功(2009)「ブレンド型授業による英語の音読力と自由発話力に及ぼす効果」, 日本教育工学会論文誌, 321(4), 395-404
実践的な学びをデザインできる
実践の場を確保できるのも、ブレンディッドラーニングの大きなメリットです。
人の学習には、「70:20:10」と呼ばれる法則があります。これは、人の学習は以下の比率で行われるという法則です。
比率 | 内容 | 具体例 |
70% | 他者と関わり、直接の経験で学ぶ | OJT、越境学習 |
20% | 他者と関わり、相互に学ぶ | グループワーク、ディスカッション |
10% | 公式な教育で学ぶ | 講義 |
社内教育ではどうしても講義などのインプットが中心となりがちですが、実は人間の学びの大部分を占めているのは実践的な経験です。
ブレンディッドラーニングを用いれば、この法則に沿った学びを実現できます。例えば、以下のようなプログラムを実施してみましょう。
- 1時間×2回の講義でインプットする
- それぞれの講義後に1時間のグループワークを行う
- 実践期間を2日間設ける
- それぞれ実践期間後に、1時間の振り返りをワークショップ形式で行う
このようにバランスよくインプットとアウトプットを組み合わせることで、確実な知識の定着を促すことができるのです。
研修コストを削減できる
ブレンディッドラーニングのメリットとして、研修コストを削減できる点も挙げられます。
例えば対面研修を実施する場合、研修会場の確保やセッティングにコストがかかります。外部講師を依頼する場合は、講師への交通費や宿泊費なども必要です。
一方、ブレンディッドラーニングでは対面研修の回数を最小限に抑えることができます。時間的・金銭的なコストが削減されるので、研修内容のブラッシュアップなどにリソースを集中させることが可能です。
ブレンディッドラーニングの学びを最大化するポイント
ブレンディッドラーニングを効果的に行うためのポイントは、以下の3つです。
- 研修の目的を明確化する
- PDCAサイクルを回す
- 実践の場を確保する
ブレンディッドラーニングを成功させるコツを解説します。
研修の目的を明確化する
ブレンディッドラーニングの実施に限った話ではありませんが、研修目的を明確化させることは非常に重要です。
特にブレンディッドラーニングは、研修内容が煩雑になりがちです。企画を進めていると、いつの間にか一貫性のないプログラムになってしまうこともあります。
こうした事態を防ぐためには、研修目的の明確化が必要です。特に、以下の点に関しては、研修企画段階で関係者の合意を取っておきましょう。
- どうしてこの研修を行うのか
- 受講者に身につけてほしいスキル・マインドは何か
- 受講後に何ができていれば研修は成功なのか
また、「ブレンディッドラーニングを行う」こと自体が目的化しないように注意してください。複数の学習方法を組み合わせるのは、あくまでも学習効果を最大化するための手段に過ぎません。テーマによっては「実は一つの研修方式の方が効率的だった」ということもあるため、研修本来の目的を見失わないようにしましょう。
PDCAサイクルを回す
PDCAサイクルを回すのも、ブレンディッドラーニングを成功させるポイントです。
ブレンディッドラーニングは、自由度が極めて高い研修手法です。そのため、初めから「完璧なプログラム」が完成することはほとんどありません。
そこで大切なのが、受講者からのフィードバックです。受講者からのフィードバックは、次回以降のプログラムを改善するのに役立ちます。フィードバックは、以下のような手段で得るとよいでしょう。
- 満足度アンケート
- 定着度テスト
- 講師へのヒアリング
- 受講者の上司からのヒアリング
ブレンディッドラーニングの実施方法に「正解」はないので、常によりよい方法がないか模索し続けてみてください。
実践の場を確保する
ブレンディッドラーニングを成功させるためには、実践の場を確保することが必要不可欠です。
前述した通り、人の学びはおよそ70%が実践的な経験によって生まれます。もちろん講義による体系的なインプットも大切ですが、講義だけだと知識が経験と結びつきません。インプットとアウトプットを上手く取り入れながら、知識と経験をリンクさせるのが成功の秘訣です。
ブレンディッドラーニングにおけるアウトプットの方法としては、以下が考えられます。
- グループワーク
- OJT
- 越境学習
このうち2つめのOJTは、社内で実践的な学びを提供する方法です。一方、3つめの越境学習は社外で実践的な学びを実現します。どちらも効果的ですが、越境学習のほうがより幅広くリアルな経験を積むことが可能です。越境学習とブレンディッドラーニングの関係は、このあと詳しく見ていきましょう。
ブレンディッドラーニングと越境学習
ブレンディッドラーニングにおける手法の1つとして注目されているのが、越境学習です。
企業で行う場合の越境学習は、社員を他の企業へ3ヶ月〜1年程度の期間で送り出して、実践的な経験を積んでもらう教育手法です。グループワークやワークショップと異なり、実在する企業が直面するリアルな課題解決に挑戦できるというメリットがあります。
ブレンディッドラーニングに越境学習を取り入れることで、以下の2つの効果が得られます。
- マインドの醸成
- 総合的な課題発見能力・課題解決能力の向上
まず、越境学習はマインドの醸成に効果的です。例えば、ベンチャー企業に社員を送り出した時、ベンチャー企業ならではの「自発的な風土」「自由闊達でフラットな風土」に触れることで、主体性やモチベーションが向上するケースが多いです。eラーニングや対面研修だとどうしてもマインド面の育成には限界があるので、これらを越境学習と組み合わせるのがおすすめです。
加えて、総合的な課題発見能力や課題解決能力の向上にも役立ちます。越境学習では、普段とは異なる業務に取り組む場面が多いです。いつもと違う視点から物事を考える機会が多いため、視野が広がり、今までとは異なる観点から課題発見・解決ができるようになります。
ブレンディッドラーニングの実践事例
エンファクトリーでは、既存の座学研修に加えて越境学習を取り入れたブレンディッドラーニングの施策を数多くサポートしてまいりました。ここからは、それらの中から特に参考になる事例を3つ厳選して紹介します。
経営塾×越境学習の実践事例
精密機器メーカーのA社では、50歳前後の次世代の経営幹部人材12名を対象に、経営について学んでもらう複業留学に取り組んでもらいました。
本事例では、主に以下の2つのフェーズを設けることで、ブレンディッドラーニングを効果的に実践しています。
- 経営スキルインプット
- 複業留学
1つめのフェーズでは、マネジメントや組織開発、経営に関する基礎的な知識のインプットを行っています。その後、2つめのフェーズにおいて中小企業における経営領域にタフアサインを行い、実践的な経営の経験を積んでもらいました。研修期間中にはリベラルアーツやグループコーチングも並行させ、学習効果の最大化を狙っています。
DX人材育成×越境学習の実践事例
株式会社オリエントコーポレーションの笠松様は、幅広い考え方を習得したり、他社の風土を体感したいという思いから、エンファクトリーの実施する複業留学への参加を決めました。
本事例では、留学先でDX戦略の策定やビジョンの具体化、DX人材育成に関する市場調査などに取り組んでいただいています。もともと笠松様はDXについて座学で得た知識が多少あったようですが、現場でリアルなDXの課題に取り組むことで、さらに理解が深まったそうです。
さらに、インタビューでは「継続的なリスキリングに取り組もうという意識が高まりました」とお答えいただくなど、マインド面にも前向きな変化が生まれています。本事例の詳細は、以下のページからご覧ください。
複業留学体験レポート「自分のスキルを試す3ヶ月間:新たな視点からの学び」 | 株式会社エンファクトリー

インプットとアウトプットを意識した越境学習
株式会社オリエントコーポレーションの田尾様は、「社歴が長くなるにつれ、考え方が自社に染まっている」と感じ、エンファクトリーの実施する複業留学への参加を決めました。
本事例では、以下の3つの活動に取り組んでいただいています。
- 農家と働き手のマッチング拡大
- マッチング率向上のための課題解決
- フランチャイズの活性化
普段とは全く異なる業務内容でしたが、実践的な経験によって仕事への取り組み方が変わったそうです。実際、インタビューでは以下のようにお答えいただいています。
今までは自己啓発のため社外講座を受講しても、とても勉強になったと思うことで終わっていましたが、今回インプットしたばかりの情報を、複業留学期間中にアウトプットし、学びを活かすことができたという体験をしました。
ブレンディッドラーニングを行う上で、越境学習をアウトプットの手段としてうまく活用した成功事例です。本事例の詳細は、以下のページからご覧いただけます。
複業留学体験レポート「インプット・アウトプット、ストーリー性、気づきと意識変化をもたらす貴重な体験」

まとめ
ブレンディッドラーニングの定義や方法、ポイントなどについて解説しました。「学びのニューノーマル」とも言われるブレンディッドラーニングは、昨今改めて注目されている教育手法です。ぜひこの記事を参考に、質の高い実践的な学びを実現いただければと思います。
越境学習にご興味のある方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。