終身雇用が崩壊しつつある昨今、多くの企業から注目されているのが副業解禁です。厚生労働省や経済産業省など、政府も積極的に副業解禁を推進しています。
しかし、「なぜこれほど副業の解禁が注目されているのかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際、副業解禁にはメリットとデメリットの両方が存在するため、昨今の副業解禁の流れに疑問を抱く方が多いことも事実です。
本記事では、副業解禁が注目されている理由を徹底的に解説します。導入に成功した企業の事例や、実施しておくべき対策も紹介しますので、社内制度の変更にお悩みの方はぜひ最後までお読みください。
目次
副業とは?
副業とは、本業と並行しながら行う別の仕事のことです。本業で身につけたスキルを活かした別の仕事を行うケースもあれば、開発やデザイン、SNS運用などの本業とは全く関係ない仕事を行うケースもあります。
これまでの日本企業では「副業は本業をおろそかにしてしまう」という考えが根強く、こうした副業を禁止することが一般的でした。しかし昨今は、このような価値観が大幅に転換しつつあります。
なお、副業と似た言葉に「兼業」があります。一般的に、「副業」は本業の傍らで補助的に行う仕事を指すのに対し、「兼業」は本業と同等にエネルギーを注ぐ仕事や、自ら事業を営むケースを指すことが多いです。しかし、どちらも「複数の仕事を持つ」という意味では共通しており、政府のガイドライン等でも「副業・兼業」として一括りで推進されています。
副業を容認する企業の割合は、次のように推移しています。
| 年度 | 副業の容認率※ |
| 2018年 | 50.9% |
| 2021年 | 55.0% |
| 2023年 | 60.9% |
| 2025年 | 64.3% |
※社員数10人以上の企業のうち、社員の副業を認める割合
参考:パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」
最近では、副業先を探す際のアドバイスや本業の業務調整を行う企業も増えてきており、副業推進がますます一般的な取り組みになりつつあります。
副業解禁が注目されている背景
副業解禁の流れが加速していることがわかりましたが、どうしてこれほどまでに副業解禁が注目されているのでしょうか。
結論から申し上げると、副業解禁が注目されている背景は次の3つです。
- 終身雇用の崩壊
- 政府の方針
- 副業に対する関心の増加
3つのポイントについて、順に詳しく解説します。
終身雇用が崩壊しつつある
ビジネス環境の複雑化が進んだ現代では、高度経済成長期に普及した日本型の終身雇用制度を維持することが難しくなりつつあります。
これまでの日本では、新卒一括採用で優秀な学生を囲い込み、「自社で通用する人材に育て上げる」という価値観が一般的でした。
一方、グローバル化やIT化によって変化の激しさが増した現在、長い時間をかけて自社に最適化された知識を身につけさせるという発想は通用しなくなりつつあります。一度身につけたスキルや知識が、10年後や20年後も有効かどうかはもはやわからないからです。
このような状況では、社員が主体的に自分のスキルや知識を磨き続けることが求められます。そのための手段として注目されているのが、まさに副業なのです。副業で多様な環境に触れることが社員の成長につながり、ひいては自社の競争力向上につながると考える企業が増えてきています。
政府も副業解禁を推進している
政府のさまざまな取り組みも、副業容認が進んだ背景の一つです。
副業に関する近年の政府の動向は、次のようになっています。
| 2017年 | 厚生労働省が「働き方改革実行計画」を公表。多様な働き方を実現する手段として副業に言及。経済産業省も「兼業・副業を通じた創業・新企業創出に関する研究会」の報告書を公表した。 |
| 2018年 | 厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表。副業解禁に際して必要な企業の対応などを示した。 |
| 2023年 | 厚生労働省が「副業・兼業の促進に関する取組について」を公表。副業や兼業の事例集を公表し、解禁の現状や労働時間の計算方法などを示した。 |
| 2025年 | 厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定。透明性の高いルール運用を行うためのモデル就業規則等を整備した。 |
これまでの経緯からも分かる通り、政府は「働き方改革」の一環として副業促進を明確に打ち出しています。
ここまで政府が副業を推進している理由は、副業を通じて柔軟な働き方を実現することが、日本の労働生産性の向上につながるという考え方があるためです。また、少子高齢化による労働人口の不足を補うという狙いもあります。
参考:厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン, 副業・兼業の促進に関する取組について
副業に興味を持つ社員が増えている
社員の副業に対する関心が年々高まっていることも、副業解禁が叫ばれる背景の一つです。
株式会社みらいワークスが2025年に公表した調査によると、副業経験がない人のうち、「副業に興味がある」と答えた人の割合は28.1%に及びます。また、実際に副業経験がある人の割合は、次のような結果となりました。
| 30代 | 24.7% |
| 40代 | 17.8% |
| 50代 | 8.8% |
| 60代 | 7.9% |
出典元:株式会社みらいワークス「大企業の1,000名への『副業経験に関する実態』を調査」
この調査からも分かる通り、若い世代ほど副業に高い関心を持っていることがわかります。新入社員の中には、「副業ができるかどうか」を会社選びの基準の一つにする人もいるほどです。
副業に興味を持つ社員の心をつかむうえでも、副業解禁は重要な取り組みといえます。
企業視点:人的資本経営と「越境学習」への注目
さらに近年では、企業側が副業を「収入を得る手段」としてだけでなく、「社員育成の機会」として能動的に位置づける動きも活発化しています。
人的資本経営が重視される現在、注目を集めているのが、異業種や異なる環境での経験を通じて主体性やリーダーシップ、課題解決力を磨く「越境学習につながる副業」です。社外での経験やネットワークを本業へ生かすことが期待されており、副業は単なる福利厚生の枠を超え、人材育成や組織変革を支える重要な経営施策の一つとして位置づけられるようになっています。
従業員が副業に興味を持つのはなぜ?
先ほど副業に興味を持つ従業員が増えていると述べましたが、どうして副業に興味を持つ従業員が増えつつあるのでしょうか。
これにはさまざまな理由が指摘されていますが、大きく次の3点に集約されます。
- 自由な時間が増えたから
- 待遇を改善したいから
- 仕事を気軽に探せるようになったから
従業員が副業に興味を持つ理由をさらに掘り下げていきましょう。
自由な時間が増えたから
働き方改革によって、社員が自由に使える時間が大幅に増えました。
例えばリモートワークの普及によって、これまで通勤に費やしていた時間が有効活用できるようになりました。この時間を使って、自宅でも始められる気軽な副業に挑戦してみたいと考える従業員が増加しています。
また、残業時間の削減も重要な背景の一つです。長時間労働の是正によって過度な残業が減り、その分の時間を自宅での副業に活用する従業員が増えてきています。
待遇を改善したいから
現在の待遇を改善したいという考えから、副業を始める社員もいます。
企業によって差がありますが、日本企業ではまだまだ年功序列の評価制度が根強く残っています。こうした環境では、「本業でなかなか昇進や昇給ができそうにない」と考えるのも無理はありません。
実際、2026年に実施された調査では、副業を始める理由として「自由に使えるお金を増やしたい」が48.7%で1位となりました。自身のキャリアやライフスタイルを理由に副業へ取り組む方もいますが、多くの方は収入面が副業を始める主な動機になっています。
参考:パーソルイノベーション「副業に関する定点調査(2026春)」
仕事を気軽に探せるようになったから
IT化の進展によって、副業の機会を見つけることが格段に容易になりました。副業探しに特化したサイトやサービスも多数登場しており、誰でも簡単に副業を探すことができるようになってきています。
こうした副業をマッチングするプラットフォームはオンライン上で誰でも気軽に利用できるため、利用時の心理的なハードルが低い点も特徴。「気軽な気持ちでやっていたのに、気がついたら本業の収入に匹敵していた」というケースも決して珍しくありません。
副業を解禁した企業事例3選
ここからは、副業解禁に成功した企業事例を3つ紹介します。実際に副業解禁に踏み切った企業の事例を通じて、副業解禁の効果を確認していきましょう。各事例における申請項目や制度設計についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
なお、これらの事例は弊社エンファクトリーのご用意する「副業解禁ガイドブック」でさらに詳しく解説しています。本格的に副業解禁を検討している方は、ぜひこちらのガイドブックをご覧ください。
東京海上日動火災保険株式会社
東京海上日動火災保険は、イノベーションの創出や社員の成長促進などを目的として、2021年に副業解禁を発表しました。16,296名の社員全員を対象に、人事部による許可制で副業解禁を実現しています。
本事例では、副業申請時に社員が以下の内容を申告するように定めています。
- 副業の形態(雇用・非雇用)
- 業務内容
- 副業の内容が1ヶ月30時間以内か
副業先には大きな制約を設けていませんが、保険業に抵触しないことを前提としつつ、いくつかの承認基準を設けています。
制度の導入から4ヶ月足らずで副業実施者数は81名に達し、社内全体で「挑戦」に対する機運が高まるなどの効果が出ました。
コニカミノルタ株式会社
コニカミノルタ株式会社では、2018年に副業を解禁。オープンイノベーションの創出や新しい価値創造、優秀な人材の確保などを期待して、人事部による許可制で副業解禁を行いました。
副業申請時には、以下の項目を提出する必要があります。
- 副業の内容(会社名など)
- 副業に取り組もうと思った動機
- 副業を通じてコニカミノルタにどのような貢献ができるか
解禁後、副業を実施する社員の数は2019年時点でおよそ60名に到達しました。主体性の向上やネットワーキング、社内交流の促進など、さまざまな効果が見られたそうです。
カゴメ株式会社
カゴメ株式会社では、多様性や主体性の促進などを目的として、2019年に副業解禁を実施しました。本事例でも、人事部による許可制で副業を認めています。
副業申請時の申請内容は、主に次の通りです。
- 副業の形態
- 内容
- 1ヶ月あたりの実施予定時間数
副業先に関しては、大きな制限はありません。「同業での副業が社員の成長につながることもある」という考え方から、同業他社での副業も場合によっては可能です。
制度の導入後には、生産性向上や労働時間の削減といった多くの効果が見られました。制度の導入時から80件程度(2023年10月時点)の副業申請がされているそうです。
副業を解禁する企業が必ず行うべき対策
副業解禁には多くのメリットがありますが、同時にいくつか注意点が存在することも事実です。
ここからは、副業を解禁する企業が必ず行っておきたい対策を3つ解説します。副業解禁のメリットを最大限に引き出すため、ぜひ意識しておきましょう。
下記の対策方法は、弁護士監修の「副業解禁ガイドブック」でも詳しく説明しています。ぜひ、下記のリンクから資料をダウンロードしてください。
就業規則を整備する
副業を解禁する際は、就業規則を整備しましょう。
まず、現在の就業規則に「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」といった記載がある場合には修正が必要です。例えば、「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事できる」といった記述に変更するか、より詳しく許可の手続きや条件を明記する必要があります。
副業を許可しないケースを設ける場合には、どのような条件を満たせば許可するのかを明確にしておくことも大切です。
ルールを明確化する
副業を解禁する際は、次のようなルールを明確化する必要があります。
- 事前申請の内容と手順
- 許可制の場合は、承認基準と承認フロー
事前申請の内容としては、副業の内容や勤務時間、副業へ取り組もうと思った動機などが一般的です。先ほどご紹介した事例の内容も、ぜひ参考にしてください。
承認基準としては、以下のような項目が設けられることが一般的です。
- 利益相反の回避
- 会社ポリシーの遵守
- 健康と安全の確保
- 守秘義務の遵守
必要に応じて、これらに関する誓約書の提出を求めることもできます。なお、副業の状況を把握するため、定期的に副業状況を報告してもらう体制を作ることもおすすめです。
社員の健康確保を徹底する
副業解禁のデメリットとして、社員の労働時間の長期化が指摘されています。社員の健康を維持するためにも、労働時間の管理の徹底を心がけましょう。
副業に関連する労働時間の計算方法は、現在も議論が進んでいます。2026年時点では、主に以下の方向で検討されています(ただし、法的に時間管理の義務が生じるのは「雇用」による副業のみ)。
| 労働時間の通算ルール | 日・週単位ではなく、月単位のみでの把握を求める方向で検討中 |
| 割増賃金の計算方法 | 労働時間は通算せず、各事業所で個別に計算する方向で検討中 |
| 健康確保の考え方 | 賃金計算のための労働時間と健康確保のための労働時間を分けて考えることを検討中 |
まとめ
2026年に入り、副業解禁の流れはますます加速しています。先行きが見通しにくい現代において欠かせない取り組みとして、今後も副業への社会的な関心は高まっていくでしょう。
しかし、副業解禁にはなかなか手間がかかるのも事実です。この記事で解説したように、就業規則から運用ルールの策定、社員の健康確保など、考えるべきことは多岐にわたります。
副業を導入したい一方で、情報漏えい、労務管理、利益相反を懸念する企業も少なくありません。こうした課題への第一歩として注目されているのが「社内副業」です。
そこで、いきなり全面的な外部での副業解禁に取り組むのではなく、まずは社内で別の業務に取り組む「社内副業」から始めてみるのはいかがでしょうか。社内副業であれば、副業のメリットである社員の成長やイノベーションはそのままに、自社に合った形で効果を実感することができます。社員としても、外部で雇用されるよりハードルが低いため、気軽に取り組みやすいです。
弊社エンファクトリーでは、社内副業を支援するサービスを実施しています。社内副業にご興味をお持ちの方は、ぜひ下記のリンクから詳細をご覧ください。
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