良かれと思って「完璧なリーダー」を目指すあまり、メンバーが指示待ちになってしまう、チームが疲弊している……。そんな管理職やチームリーダーの姿、組織のあり方に頭を悩ませている人事担当者の方は多いのではないでしょうか。
ビジネス書『完璧なリーダーをやめたら、人と組織が動き出した』は、成人発達理論をもとに、これからの時代に必要な「自分らしいリーダーシップ」の見つけ方を紐解いた一冊です。
本書は、プレイングマネジャーたちのリアルな葛藤に寄り添いつつ、人と組織を動かすための実践的な手がかりを示してくれます。今回は、人事の視点から本書の見どころと、実務への活かし方を分かりやすくご紹介します。
目次
『完璧なリーダーをやめたら、人と組織が動き出した』とは?
本書は、ビジネス小説と成人発達理論に基づく理論解説を組み合わせた一冊です。
主人公の大石慧は、IT企業でマネージャーを務めて10年目を迎えた36歳の会社員です。チームのために力を尽くし、知識や経験を積み重ねてきたにもかかわらず、どこかで歯車がかみ合わず空回りし、いつしか「一人で抱え込む」完璧なリーダーを演じ続けてしまっていました。
本書では、そんな大石が葛藤や対話を重ねながら、自分らしいリーダーシップのあり方に気づいていく様子が描かれており、小説形式でわかりやすく理論を学べる点が特徴です。
書籍情報:本書の詳細や目次などは、日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)の公式ページからもご確認いただけます。
著者・瀬田千恵子氏について
本書の著者である瀬田千恵子氏は、株式会社チームボックスの代表取締役COOを務めており、国内外の企業で人事や人材開発を牽引してきた人材育成の専門家です。
現場に立ちながら数多くのリーダー育成に携わり、大手企業の経営層育成や大学の部活動のチームづくりまで、幅広く組織変革やリーダーシップ開発を支援。立教大学大学院にて経営学修士(専門:リーダーシップ開発)を取得し、実務と探究の両面から研究と実践を重ねています。
また、国際コーチング連盟(ICF)認定プロフェッショナルコーチの資格も所持しており、営業戦略から組織運営、コンサルティングまで多角的な視点から人と組織の可能性を拡げ続けています。
「完璧なリーダー」は正しいのか?
これまで多くの企業では、「迷わず正解を示せる人こそが優れたリーダーだ」と考えられてきました。
しかし、変化が激しく先を見通しにくい今の時代は、唯一の正解を示すことよりも、自分なりの問いを持ち続ける姿勢のほうが重要です。
なぜ今、リーダー像の転換が必要とされているのでしょうか。本書の主人公である大石の葛藤も交えながら、私たちが陥りがちな「罠」を紐解いていきましょう。
模倣のリーダーシップの罠
大石は、情報通信会社でチームリーダーを務めていました。後輩の指導や経営層との調整に真摯に向き合い、次のマネージャー候補と目されるまでに成長を遂げています。
しかし、その内側には、正体のわからない空虚さが広がっていました。いつの間にか自身が目指すリーダー像は、どこかで聞いたことのある模範解答をなぞっただけのようになっていたのです。
この葛藤こそが、本書における成長の出発点になっています。
「正しさ」は安全地帯だった
大石は、学生時代のバスケットボール部で監督から受けた「キャプテンが感情的になるな」という教えを、社会人になってからも守り続けていました。
感情を抑えて客観的な数字と論理を積み上げれば、失敗を恐れる自分を守れると信じていたのです。その姿勢は一見うまくいくように見えましたが、実は副作用も生んでいました。
会議で出てくるのは、自身が期待する結論に沿った「チームの総意」ばかりになり、徐々にメンバー個々の意志は感じられなくなっていきます。そして、新しいプロジェクトの立ち上げ会議で若手から率直な疑問を投げかけられたことで、ついに築いてきた「正しさ」という安全地帯の限界を思い知らされるのです。
組織には余白が必要
ある月曜のチームミーティングで、大石はいつもの進捗確認から始まる流れを変え、「自分の言葉がメンバーに届いていない気がする」という思いを率直に打ち明けました。
会議室には一瞬の沈黙が流れますが、ベテランのメンバーが「大石さんでも、そんなふうに迷うことがあるんですね」と答え、場の空気がほどけていきます。そこから他のメンバーも次々と自分の迷いを言葉にし始め、「迷いのあるところにこそ、学びが生まれる」ということを実感したのです。
リーダーが自らの隙を見せることは、弱さの表れではなく、メンバーが安心して本音を言い合うことができる余白を組織につくる行為です。このような余白が組織に新しい発想をもたらし、変化への対応力を高めることにつながります。
フィッシャーの「ダイナミックスキル理論」とは?
本書は、発達心理学者カート・フィッシャー氏が提唱した「ダイナミックスキル理論」を理論的な土台としています。
この理論では、同じ人であっても、場面や相手が変われば発揮できるスキルの水準は変わると捉えています。人のスキルは一直線に伸びるのではなく、置かれた状況との相互作用のなかで一進一退を繰り返しながら、複雑さを増して成熟していくという考え方です。
本書では、主にこの理論を用いて、大石のリーダーシップの変容が読み解かれています。
4つの能力階層と実務への活かし方
ダイナミックスキル理論では、人の能力を下記の4つの階層に分けて捉えます。
- 感覚運動スキル
- 表象スキル
- 抽象スキル
- 原理原則スキル
感覚運動スキルから原理原則スキルへ推移するにしたがって、経験を抽象化し、状況に応じて柔軟に組み替えられる力が育っていきます。
どの階層も、経験を積めば自然に次の階層へ進むわけではないため、振り返りや対話を通じて意識的に育てることが重要です。
ここからは各階層の詳細について、自社の研修や育成計画への活かし方なども交えながら解説します。
感覚運動スキル
目の前の状況に対して、理屈より先に身体が反応するような、最も基礎的な段階です。
新任リーダーが現場でとっさに下す判断の多くは、この力によって支えられています。言葉で説明する前に「まず動ける」という意味で、あらゆる成長の土台となる力です。大石が学生時代のバスケットボール部で身につけた「とっさの判断力」も、この段階の力にあたります。
企業における人材育成では、数多くの実務経験を積ませ、体で覚える機会を意図的に用意するとこのスキルを身につけやすいです。いきなり理論だけを教えるのではなく、積極的に現場に立ってもらうような計画を整えましょう。
表象スキル
物事を言葉やイメージ(表象)として捉え、後からその経験を思い返して再現できる段階です。単に「体が動く」状態から一歩進み、自分の行動や周囲の状況を少し客観的に捉えられるようになります。
大石は物語の中で「自分が大切にしたいリーダー像」のノートを作成していますが、これも経験を言語化しようとした表象スキルの表れといえます。
自分の行動は、あとからそれを振り返り、言葉にできて初めて、他者と共有できる知識に変わります。裏を返せば、経験したからといって、それが本当に知見として確立されるとは限らない点には注意が必要です。
研修では、経験を振り返るシートや対話の時間を設けると、この段階の力を伸ばしやすくなります。上司との面談やコーチングを導入するのも効果的です。
抽象スキル
複数の表象を組み合わせて、目に見えない共通の概念やパターンを見出す力です。さらに一段階進むと、具体的な出来事の背景にある「本質」を捉え、他の場面にも応用できる「自分なりの持論」が形成されていきます。
さまざまなチーム運営の経験から、「こういう場面ではこう動くとうまくいく」という自分なりの型を見出せるようになる段階ともいえます。個別の出来事を超えて全体を見渡す視点が育つため、判断のぶれが少なくなるのが特徴です。
一方、型に頼りすぎると、新しい状況にうまく対応できなくなる恐れもあります。
管理職の育成においては、普段と異なる環境へ積極的に挑戦してもらうことが効果的です。例えば複数のプロジェクト経験を横断して自身の行動を客観的に振り返る機会を設ける、後述する越境学習を活用するなど、未知の状況へ飛び込む機会を設けましょう。
原理原則スキル
複数の抽象的な概念をさらに統合し、時代や環境が変わっても揺るがない「普遍的な軸」を持つ段階です。まさに、これからの不確実な時代を牽引するトップリーダーに求められる最高峰の力と言えます。
大石が物語の終盤で見せている「状況に応じて態度を変えながらも軸がぶれないリーダーシップ」は、この段階の力によるものです。一つの正解にこだわらず、その場に合った最善の形を選び取れるようになる段階ともいえます。
管理職研修の最終ゴールとして、この段階を意識した設計を行うと、育成の狙いが定まりやすくなります。すぐに到達できる段階ではないため、長期的な視点で育成計画に組み込むことが大切です。
各階層の成長サイクル
本書では、能力が育つ流れを下記の4つに分けて解説しています。
- 点
- 線
- 面
- 立体
各階層に点から立体の4つのフェーズがあり、立体まで発展すると次の階層の「点」へと遷移するという流れです。例えば、感覚運動スキルの「点」が「線」「面」へと積み重なり、最終的に「立体」へと統合されていくことで、次のステップである表象スキルの「点」が生まれます。
「点」とは、その日その場で得た小さな気づきです。この気づきが何度も繰り返されて安定した行動パターンになると「線」に変わります。さらに、複数の行動パターンを同時に扱えるようになることで「面」が生まれ、それがチームや組織の共通文化として共有されたとき、はじめて「立体」として定着します。
本書には、各階層でこうした成長段階を照らし合わせられるスキルレベルの表も収録されています。ここですべてを解説することは難しいため、気になる方はぜひ本書をお手にとってみてください。
育成で意識すべき5つの変容規則
本書では、人が成長する際に働く変化のパターンも整理されています。
その変化のパターンとは、次に示す5つの規則です。
- 置換
- 複合化
- 焦点の転換
- 相互連結
- 差異化
理論として覚えるよりも、大石の変化に当てはめながら読み進めると、自社の育成計画にも応用しやすくなるでしょう。大石の成長を追うことで、自社のどの段階の育成に力を入れるべきかも見えてきます。
ここでは、5つの変容規則について簡単に解説します。
置換
古い行動の枠組みを新しいものに切り替える変化です。
長年慣れ親しんだやり方を手放すには勇気が要るため、置換は変容規則のなかでも特に負荷の大きい変化といえます。古いやり方を頭ごなしに否定されると、人は変化そのものに抵抗を感じかねません。
管理職の育成においては、これまでのやり方を否定せず、新しい行動を安全に試せる機会を用意することで、置換による成長を後押しできます。
複合化
複数のスキルを組み合わせ、より高度な行動を可能にする変化です。
大石は「聴く力」と「語る力」をそれぞれ発揮できるようになりました。今後の成長のためにはこの2つを組み合わせ、聴きながら場を調整するという高度な力を身につけることが求められます。これは、複合化の一例です。
それまで単独で発揮していたスキルが有機的に結びつくことで、より複雑な課題にも対応できるようになります。一つずつ丁寧に積み上げてきたスキルほど、掛け合わせたときの効果は大きいです。
管理職の育成においては、単一のスキルの習得で研修を終わらせず、複数のスキルを同時に使う実践の場を設けることが複合化を促します。
焦点の転換
関心の対象や意識の向け方を変えることで、新たな視点を獲得する変化。
同じ人であっても、場面が変われば求められる振る舞いはまったく違うものになります。大石がさらに成長するためには、自分の考えをはっきり示すべき場面と、あえて沈黙し相手の話を聴くべき場面を見極める必要があり、これは「焦点の転換」の一例です。
管理職の育成においては、意思決定の場や対話の場などを複数用意したうえで、それぞれに求められる姿勢の違いを伝えると効果的です。また、焦点の転換には価値観の変化が求められます。いつも同じような環境で仕事を進めるのではなく、普段と異なる環境に飛び込むことも重要です。
相互連結
異なる場面で培ったスキルや視点が結びつき、相乗効果を生み出す変化です。
物語のなかで大石がこの連結の力を大きく実感したのが、過去の苦い経験と現在の課題がつながり、自分らしいリーダーシップの軸を見出す場面です。自分だけの言葉でチームに語りかけられるようになりました。
バラバラに見えていた経験がつながると、リーダーシップに厚みが生まれます。学生時代の経験と社会人になってからの経験が結びついたことも、大石にとって大きな転機になりました。
一見無関係に思える経験が、成長の強力な原動力になります。
人材育成では、現在の業務だけでなく、過去の経験を棚卸しして現在の課題と結びつけるリフレクション(振り返り)の機会を設けることが、相互連結を促すうえで有効です。
差異化
これまで同じものとして扱ってきた物事を分けて捉え直し、より精緻な理解につなげる変化です。
例えば同じ「沈黙」でも、「信頼を深める沈黙」と「責任から逃げる沈黙」では質が全く異なります。リーダーが効果的に信頼関係を構築するためには、これらを分けて考える「差異化」が必要です。
大まかにひとくくりにしてきた物事ほど、実は細かく分けて考える余地が残されているものです。一見すると同様の状況であっても、その細かな違いに気づけるようになると、リーダーとしての対応の引き出しは増えていきます。
同じ行動の中に存在する違いに、自分だけで気がつくのは容易ではありません。差異化を進めるためには、コーチングや1on1を通じて他者からのフィードバックを得ることが有効です。
リーダーシップ開発に効果的な「越境学習」
社内の日常業務だけで5つの変容規則を促進することは、なかなか難しいものです。
そこで、社員を成長させるために「越境学習」を検討してみてはいかがでしょうか。越境学習は、元の企業に所属したまま、ベンチャー企業などの普段と異なる環境に身を置く育成手法です。状況ごとに姿勢を切り替える焦点の転換や、別々の知識や経験をつなぎ合わせる相互連結など、5つの変容規則を短期間で効果的に引き起こすことができます。
本書で大石が経験した成長を多くの社員に促すためには、組織としてそのための機会を設けることが大切です。エンファクトリーでは、ベンチャー企業の経営陣と協働し経営課題に取り組む「リーダー留学」や、異業種混合チームで課題解決に挑む「越境サーキット」といったプログラムをご用意しています。
リーダーシップの育成にお悩みの方は、ぜひ越境学習の導入をご検討ください。
著者・瀬田千恵子氏とエンファクトリーが語る無料ウェビナーのご案内
本書のテーマである自分らしいリーダーシップの見つけ方について、著者の瀬田氏とエンファクトリーが語る無料ウェビナーが予定されています。
これまで数多くのリーダーや組織の成長に向き合ってきた瀬田氏の視点と、越境学習を通じて組織づくりを支援してきたエンファクトリーの知見がコラボレーションする、非常に貴重な機会です。
自社の育成計画に本書の内容を効果的に活かしたい方、本書の内容についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ下記のページから詳細をご確認ください。
まとめ
完璧な答えを示し続けるリーダー像は、変化の激しい現代においてすでに限界を迎えつつあります。
本記事で紹介した『完璧なリーダーをやめたら、人と組織が動き出した』は、正しさを手放すことこそが、人と組織を動かす力になることを教えてくれる一冊です。次世代リーダーの育成方法を見直したい人事担当者は、ぜひ上述したウェビナーへの参加もご検討ください。
本記事の内容が、貴社のリーダー育成や人材育成のヒントになれば幸いです。


