生成AIの業務利用は、すでに一部の企業だけの取り組みではなくなりました。
その一方で、「ツールは導入したものの、社員が使いこなせていない」「AIを前提に業務を作り変えられる人材がいない」という声も多く挙がっています。
本記事では、AI時代の人材育成に越境学習が有効である理由と、ベンチャー企業への越境で得られる体験、導入を成功させるポイントを解説します。ぜひ最後までお読みください。
目次
AI時代に求められる人材育成のあり方とは?
生成AIの普及によって、企業が社員に求める能力の中身は数年前と大きく変わりました。
ここでは、ビジネス環境に起きている変化を確認したうえで、人材戦略をどう組み立て直すべきかを整理します。
生成AIの進化がもたらすビジネス環境の変化
生成AIは、すでに多くの企業で日常業務に組み込まれつつあります。
帝国データバンクの2026年3月調査によると、社員数1,000人超の企業では活用率が63.6%に達し、
活用企業の86.7%が業務への効果を実感しています。
ただし、使われ方には偏りがあります。主な活用業務は次のようになりました。
| 活用内容 | 割合 |
| 文章の作成・要約・校正 | 45.1% |
| 情報収集 | 21.8% |
| 企画立案時のアイデア出し | 11.0% |
上記からも分かる通り、AIは作業時間を縮める道具として定着した一方で、事業の中身を作り変える段階には届いていません。
参考:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」
AIに代替されやすい業務と、代替されにくい能力
AIは問いが決まっている作業を高速で片づけることを得意としています。同時に、人に残る業務もはっきりとしてきました。整理すると、次の通りです。
| AIに代替されやすい業務 | AIに代替されにくい能力 |
| ・議事録の要約・資料の下書き ・定型的な情報収集・翻訳 ・決まった手順に沿ったデータ集計 | ・何を解くべきかを決める「課題設定力」 ・立場の異なる相手を巻き込む「交渉力」 ・不確実な状況で仮説を立てて検証する力 |
左側は急速にAIへ移りつつあり、右側は人が担い続ける領域として重みを増しています。
上述した帝国データバンクの調査でも、生成AI活用の懸念として「情報の正確性」を挙げた企業が50.4%と
最多でした。出力が正しいかを見極め、責任を持って決める役割は今後も人に残ります。
参考:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」
人的資本経営とAI時代の人材戦略の接続
AI時代の人材育成は、経営戦略の一部として設計する必要があります。
経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営を実現する共通要素として以下の5つを挙げています。
- 動的な人材ポートフォリオ
- 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
- リスキル・学び直し
- 従業員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方の推進
AIによって必要な人材像が変われば、人材ポートフォリオの見直しは避けられません。
社外の知見を取り込む知・経験のダイバーシティの重要性も増加します。
参考:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
AI時代の人材育成で越境学習が注目される理由
越境学習とは、慣れ親しんだ環境(ホーム)を離れ、異なる環境(アウェイ)で経験を積むことで学びを得る人材育成手法です。法政大学の石山恒貴教授は、ホームを居心地は良いものの刺激の少ない環境、アウェイを居心地は悪いものの刺激の多い環境と定義しています。
ここからは、越境学習がいま支持されている理由を、5つの角度から解説します。
なお、越境学習の基本的な考え方や企業事例は、下記の記事からご確認ください。
座学の「AI研修」と「越境学習」の違い|単なる知識習得から実践・マインド変容へ
プロンプトの書き方を学ぶ講義だけでは、AIを事業に活かせる人材は育ちません。
越境学習は、実践やマインド面の変容を実現できる点が最大の特徴です。従来の研修との違いを整理すると
次のようになります。
| 比較項目 | 単なる「AI研修(座学・eラーニング)」 | 「AI ✕ 越境学習」 |
| 主な目的 | プロンプト知識やAIツールの操作方法の習得 | AIを活用した課題解決・意思決定・マインド変容 |
| 学習の場 | 社内・個人のデスク(受動的なインプット) | AI活用を推進している異種環境・スタートアップ(能動的実践) |
| 得られる成果 | 「AIを知っている」状態 | 「AIを使って事業や業務を変革できる」状態 |
| 直面する課題 | 社内の業務フローが変わらず活用が進まない | 既存のやり方を捨てる(アンラーニング)が必要 |
座学では、ツールの機能や入力の型など、知っていれば使える知識までしか扱えません。ところが現場でつまずく場面は、どの業務にAIを組み込めば成果が出るのか、出力をどこまで信じてよいのかという判断です。
こうした判断力は、実際に成果を求められる状況に置かれて初めて鍛えられます。越境学習は、社外の現場で結果に責任を負う経験を通じて、知識の量ではなく仕事の進め方そのものを変えます。この点が座学との決定的な違いです。
「越境的な思考力」や課題設定力は異質な環境での経験でしか育たない
課題設定力は、答えの決まっていない状況に身を置く経験からしか育ちません。
企業の中で任される仕事の多くは、解くべき問いが上司や前例によってあらかじめ与えられています。「議事録の作成時間を半分にする」という指示は受けても、「この定例会議自体が要るのか」といった本質を問い直す機会は巡ってきません。
しかし越境学習で業界も規模も異なる組織に入ると、前提が共有されていないため、何が問題なのかを自分で定義するところから始まります。AIが答えを出す速度を高めた現在において、この定義する力の価値は一段と高まっています。
AIを実際にビジネスで使う経験は社内では得にくい
大企業の中では、AIを事業判断に結びつけて使う経験を積む機会が限られています。
前述した帝国データバンクの調査では、生成AIを「コード生成などのプログラミング支援」に使う企業は5.9%、「データの集計・分析」は7.4%にとどまりました。文章作成の補助が中心という実態は、社員数の多い企業ほど顕著です。
さらに、情報漏洩や責任の所在を懸念し、利用範囲を限定する運用も広がっています。安全性を重んじることは大切ですが、社員が試行錯誤できる幅が必要以上に狭まる可能性も否めません。
AIを意思決定に組み込む経験を積むなら、日常的にそれを実践している組織へ出ていく方が近道です。
参考:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」
価値観の転換とアンラーニングが同時に求められる
AI時代の育成では、新しい知識を足すだけでなく、これまでの仕事の型を手放す作業が同時に必要になります。
長く同じ環境で成果を出してきた社員ほど、資料を丁寧に作り込む、根回しを重ねて合意を取るといった手順を成功体験として蓄えています。「自分の手で書かなければ質は担保できない」という信念が、「AIに初稿を任せる」という判断を遠ざけるのです。
過去の型を捨てるアンラーニングは、知識を追加しても起こりません。自分のやり方が通用しない場に身を置き、うまくいかない経験を重ねることで初めて実現できます。
「知と経験のダイバーシティ」が組織の適応力を高める
AI活用力に差がつく局面では、社外の知見を取り込める組織ほど有利に立てます。
同じ会社の中で解決策を探しても、答えを持つ人がいない事態は珍しくありません。似たような人材が集まる組織では、必然的に皆が同じような考え方をしてしまうためです。
社外の実践例を持ち帰る社員が増えれば、組織の中に多様な考え方が蓄積されます。このように知識や体験のダイバーシティが増加することで、組織全体の適応力が育つのです。
参考:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」
AI活用が進むベンチャー・スタートアップへの越境という選択肢
AI時代の越境先として、ベンチャー企業やスタートアップは有力な候補です。
規模が小さく意思決定の速い組織では、AIの導入判断から実装までを短い周期で回しているためです。そのような環境が大企業の社員に何をもたらすのかを4つの観点から整理し、最後に体験の具体例を紹介します。
スタートアップに集積するAI活用の最前線ノウハウ
開発力や機動力を武器にするベンチャーやスタートアップほど、AIを業務の中核に組み込んでいます。リソースが限られる小規模な組織では、業務の省力化や意思決定の高速化に向けてAI活用が不可欠となるためです。
このような組織へ留学することで、多様な角度からのAI活用の切り口や、現場に即した柔軟なノウハウを効果的に取り込むことができます。
大企業では得られない意思決定スピードと実装経験
ベンチャーの現場では、思いついた施策が数日で形になります。
大企業では、AIツールの導入ひとつをとっても、情報セキュリティの審査や関係部署との調整に数か月を要することが珍しくありません。慎重さはリスク管理のうえで重要ですが、社員が試行錯誤して学ぶ回数が減ることも事実です。
意思決定者との距離が近い組織なら、その場で方針を決めて翌日から試す動き方が日常です。決めて試して直すという回転を体で覚えた社員は、帰任後の社内調整でも段取りの組み方が変わります。
AIを前提とした新規事業開発への当事者関与
越境先で新規事業に関わると、AIを使う側から事業を設計する側へ視点が移ります。
生成AIを組み込んだサービスの立ち上げでは、どの機能を人が担い、どこをAIに任せるかという設計判断が事業性を左右します。問い合わせ対応をAIに任せる範囲を広げれば人件費は下がる一方、解約率が上がる恐れもあります。
こうした損得の綱引きに答えを出す場面は、既存事業の効率化だけを担当していては巡ってきません。
事業の当事者として収益や顧客の反応に向き合った経験は、自社に戻ってから新規事業を任される際の土台になります。
小さな組織で「AIと共に働く」文化を体感する意義
AI活用の差は、ツールの性能よりも日々の使い方の文化から生まれます。
社内チャットに質問する前にAIへ聞いてみる、企画の初稿はAIに書かせて人が磨き上げるといった振る舞いが当たり前の組織では、社員一人あたりの検討回数が桁違いに増えるものです。
例えば新しいツールを試すかどうかも、稟議を回さずに社内チャット(SlackやMicrosoft Teamsなど)上のひと言で決まります。議論の土台となる案が常に用意されているため、会議がしっかりと意思決定の場として機能するのです。
このような空気感は、資料や研修では伝わりません。同じ場で数か月働き、周囲の手つきを間近で見ることによって、自社へ持ち帰れる感覚として身につきます。
【具体例】AI越境学習で体験するプロジェクト・業務のイメージ
越境先で任される仕事には、次のようなものがあります。
- AIを活用した新規事業やプロダクトの試作
- AIを前提とした業務の作り替え
- 日常の壁打ち相手がAIという文化の体感
1つめは、生成AIによる顧客リサーチやペルソナ設定から、ノーコードツールでの試作品づくりまでを1週間〜2週間程度の周期で回す経験です。大企業なら企画書の合意形成に数か月かける場面でも、越境先では動くものを見せるところから議論が始まります。
2つめは、カスタマーサポートの一次回答や記事制作、マーケティングデータの分析といった既存業務に、生成AIを使った手順を組み込む取り組みです。どの工程を機械に任せ、どこに人の判断を残すかを線引きする経験が得られます。
3つめは、SlackやNotionにAIが組み込まれた環境で働く日常です。会議の前に論点をAIと整理し、議事録は自動で要約されるため、社員は決めるべきことに時間を使えます。この速度に数か月身を置いた社員は、自社の会議の進め方に違和感を覚えて戻ってきます。
AI時代の越境学習で得られる効果
越境学習の効果は、参加した社員本人だけでなく、送り出した組織にも広がります。
ここでは個人と組織に分け、AI時代ならではの成果を4つ解説します。自社にどのような変化が期待できるのか、具体的に思い描いてみましょう。
個人への効果|AIリテラシーと課題設定力の向上
社員は、AIを使う技能と、AIに何をさせるかを決める力を同時に獲得します。
越境先では限られた時間で成果を求められるため、AIと人間がどう役割分担するかという判断を日常的に迫られます。例えば提案資料の構成案はAIの初稿で十分でも、価格の根拠だけは自分で検算する必要があります。こうした線引きが、小さな失敗を挟みながら体に染み込んでいきます。
さらに、正解の用意されていない課題に向き合う中で、そもそも何を解くべきかを自分で定める習慣も育ちます。
個人への効果|アンラーニングと自律的キャリア観の形成
自社の外で実力を測った社員は、キャリアを自分で選ぶ姿勢が身につきます。
越境先では、社名や役職ではなく、目の前の課題にどれだけ貢献できるかで評価されます。この経験は、自分の市場価値を冷静に見つめ直す機会になるのです。
これまでの仕事の型が通用しない場面に直面することで、過去のやり方を手放すアンラーニングも進みます。会社に依存しない基準で自分の実力を捉え直した社員は、帰任後も自らのキャリアを真剣に考えるようになります。
組織への効果|AI時代の変革を担う次世代人材の輩出
越境を経験した社員は、AI活用を推し進める中心的な人材へと育ちます。
AIを前提に業務を作り替えるには、技術の知識だけでなく、抵抗のある現場を巻き込む力が欠かせません。会議で正論を並べるよりも、自分の担当業務で試して実際に工数を削減する方が話は早く進みます。このような肌感覚は、社外で結果を出した経験から生まれるのです。
また、越境先で修羅場を乗り越えた経験は、次世代リーダーの育成という観点でも価値があります。
経営視座の獲得まで狙うなら、経営参画型のプログラムがおすすめです。次世代リーダーの育成に役立つ越境学習プログラムは、以下のページから詳しくご覧ください。
リーダー留学|社内で培えないリーダー経験を越境学習で|株式会社エンファクトリー
組織への効果|社内へのAI活用ノウハウの還元と新規事業開発の加速
一人の越境者が持ち帰る知見は、組織全体のAI活用も前へ進めます。
越境先で有効だったツールの組み合わせや、うまくいかなかった使い方を持ち帰ると、自社が同じ状況に直面した際に大いに役立ちます。机上の議論より、実際に動かした人の知見は何倍も有益です。
越境者の報告を社内の勉強会やコミュニティで共有すれば、知見は一人の財産から組織の資産へと移ります。
新規事業の面でも効果があります。AIを軸にした事業の作り方を当事者として見た社員は、自社の資産と組み合わせた企画を具体的に描けるようになります。
AI時代の越境学習を成功させるためのポイント
制度を導入するだけでは、期待した変化は起こりません。
AI時代の越境学習を成果に結びつけるために、人事が押さえるべき要点を4つ解説します。
「AI活用」を目的化せず、本質的な越境体験を設計する
越境学習の目的を単なる「AIスキルの習得」に絞り込んでしまうと、その効果は大きく削がれてしまいます。
本質的な価値はツールの操作習得ではなく、「未知の環境でAIを用いて課題を設定し、周囲を巻き込んで解決したか」という行動や思考プロセスの変化にあります。
単なるツールの習熟であれば、外部の講座や社内研修でも一定の水準までは到達できます。わざわざ社員を社外の現場へ送り出す価値は、価値観が揺さぶられる経験にあります。
派遣先を選ぶ際も、AIを扱っているかどうかだけで判断すべきではありません。意思決定の速さや役割の裁量など、自社との違いが大きい環境かどうかを軸に見極めてください。
またプログラムの企画時・評価時においては、「AIツールの使用頻度」といった表面的な数値のみを指標にするのではなく、「未知の環境において、AIを用いてどのように課題を設定し、周囲を巻き込んで解決したか」という行動変容や思考プロセスの変化を捉える視点が欠かせません。
中長期の期間を確保し実装経験まで踏み込む
数日の視察や単発のワークショップでは、行動が変わるところまで到達しません。
最初の数週間は、新しい環境の進め方に慣れるだけで過ぎていきます。企画を出し、反対され、作り直して世に出すという一連の流れを一度でも経験するには、まとまった期間が必要です。
エンファクトリーの「複業留学」は、本業と並行しながら3か月、週1日程度(月10時間から30時間)の参加を基本としています。より深く没入したい企業に向けて、本業を離れるフルタイム型の運用も2026年1月から始まりました。
参考:株式会社エンファクトリー「越境型研修『複業留学』のサービスアップデートを実施いたしました」
内省と学びの言語化を促す伴走支援を組み込む
経験を成果に変える鍵は、振り返りを仕組みとして埋め込むことです。
慣れない環境では、目の前の業務に追われ、自分の変化に気づかないまま期間が終わってしまいます。定期的に立ち止まり、何につまずき、どう乗り越えたのかを言葉にする時間が必要です。
1on1やリフレクションの場は、送り出しの段階であらかじめ日程に組み込んでおきましょう。
帰任後にAI関連プロジェクトで活躍できる場を用意する
帰任後の配置を決めずに送り出すと、せっかくの学びが埋もれてしまいます。
送り出す前の段階で、AI活用の推進役や新規事業の担当など、帰任後に担ってほしい役割を上司と決めておいてください。エンファクトリーでは2026年春から越境経験者のコミュニティを立ち上げ、帰任後も学びを続けられる場を設けています。
AI時代の越境学習ならエンファクトリーにお任せください
AI時代の人材育成は、ツールの使い方を教える研修だけでは完結しません。AIを前提に事業を組み立て直せる人材を育てるには、社外の現場で成果を求められる経験が不可欠です。
エンファクトリーは、越境学習によって累計400社12,000名以上の社員の成長を支援してきました。ベンチャー企業で実務に取り組む「複業留学」、経営参画を通じて視座を高める「リーダー留学」、異業種混合チームが3か月・合計20時間でスタートアップの課題に挑む「越境サーキット」など、育成目的に応じたプログラムを揃えています。
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