「新しい事業のアイデアが社内で立ち上がらない」
「現場のメンバーがいつまでも指示待ちのままだ」
こうした悩みを抱える人事や事業責任者は少なくありません。このような停滞の背景には、社員の小さな「逸脱」を組織が無意識のうちに排除してしまう構図が存在します。
2026年8月に刊行された『逸脱させるマネジメント』(石山恒貴・伊達洋駆著)は、この構図を解き明かし、社員の違和感や才能を組織の成長エネルギーへと転換する「STGモデル」を提示する一冊です。
本記事では、書籍の要点を整理しながら、自社のマネジメントに落とし込むための具体的なヒントを解説します。さらに、この記事や書籍だけでは解決しきれない「現場での実践の壁」を乗り越える手だてとして、著者の石山恒貴氏が登壇する無料ウェビナーもあわせてご案内します。自社の組織課題を打開するヒントとして、ぜひ最後までご覧ください。
目次
『逸脱させるマネジメント』とは?
社員一人の小さな違和感を、組織の成長エネルギーに転換する手法をまとめた一冊です。
多くの組織では、新しい発想を持つ社員ほど「扱いにくい存在」として扱われがちです。しかし本書は、そうした「はみ出し」を排除するのではなく、育てる側に回ることこそがマネジャーの役割だと説きます。
具体的には、メンバーの強みを感知し(センス)、逸脱への挑戦を後押しし(トライ)、才能を開花させる(グロウ)というSTGモデルを軸に、現場で使える手法を体系化しています。
「新規事業が育たない」「優秀な社員が無難な仕事に収まってしまう」といった悩みを抱える組織ほど、自社の課題と重なる点が次々と見つかるはずです。日々の評価や1on1で感じている行き詰まりは、まさに組織が無意識に「逸脱」を抑え込んでいるサインと言えます。
なぜ今、逸脱させるマネジメントが必要なのか
優秀な社員ほど、無意識のうちに可能性を閉ざされてしまう組織が、今も少なくありません。
多くの組織は、業務を安定的に回すために、標準から外れた言動を「リスク」として抑え込む仕組みを積み上げてきました。この仕組みは平常時には強力に機能する一方、新しい価値を生み出す場面ではむしろ大きな足かせに変わります。
ここでは、組織に染みついた「逸脱させない力学」の正体と、それでも逸脱が価値を生んだ日本企業の実例、そして本書のマネジメント論が生まれた研究の背景を順に見ていきましょう。
組織の免疫が新しい試みを排除する
「その提案、前例がないよね」
多くの現場で、新しい挑戦はこの一言で押し戻されてしまいます。
書籍では、標準的な業務を安定的に遂行するために張り巡らされた仕組みを「逸脱させないマネジメント」と呼んでいます。「失敗したら誰が責任を取るのか」「他部署との調整はどうするのか」というマネジャーの懸念は、組織の秩序を守るために正しく機能している反応でもあります。
しかし、この抑制の力が働きすぎると、異質なアイデアはすべて排除の対象になってしまいます。本書はこの抑制を緩め、異質なアイデアを組織カルチャーに取り込むための新しい作法が必要だと指摘しています。
逸脱が価値を生んだ実例
社員の逸脱は、うまく育てれば組織の大きな価値に変わります。
経営組織の研究では、公認された自律的な少人数チームや、社員が非公式に進める研究活動、反対を押し切ってアイデアを追求する「創造的逸脱」が代表的な型とされています。
象徴的な実例が、富士通で日本初の商用コンピュータ開発を主導した池田敏雄氏です。池田氏は型破りな人物として知られ、アイデアに没頭すると出社を忘れて自宅にこもったり、逆に何日も会社に泊まり込んだりしていたといいます。
歴代の経営陣は池田氏の才能に惚れ込み、給与制度まで見直して支えました。池田氏の逸脱は、富士通をコンピュータ企業へ転換させる決断を後押しし、会社の方向性を変えました。
出発点は越境学習の「伴走者」研究
なぜSTGモデルは机上の空論で終わらないのか。その答えは、経済産業省が行ったある調査にあります。
著者らは、経済産業省が2025年3月に著者らも参画し発行した「越境学習を支える伴走者のための実践ガイドライン」の知見をもとに、逸脱させるマネジメントとSTGモデルを構想しました。ここでいう伴走者とは、越境学習者に寄り添い強みを感知する存在を指します。
調査では、越境学習事業者の伴走者に熟達したスキルが蓄積されていることが分かりました。このスキルを転用し体系化したのがSTGモデルです。
越境学習の詳細は、下記のサービスページをご覧ください。
逸脱を育てるフレームワーク「STGモデル」とは
社員の小さな違和感を、才能が開花するまでの道筋に変えるのが「STGモデル」です。
センスの段階では、社員自身も気づいていない違和感や強みに光を当てます。トライの段階では、その違和感を安全な範囲で試します。グロウの段階では、試行の成果を組織の言葉に翻訳し、社員の才能を開花させます。この3段階を支える基盤として、逸脱者のエネルギーを枯渇させない共通スキルも位置づけられています。
理論の理解と、自社の評価制度や組織カルチャーでの運用の間には、大きな距離があります。「部下の違和感をどう拾うか」という現場の悩みは、書籍だけでは解決しきれません。この壁を越える工夫は、後述するウェビナーで詳しく解説します。
逸脱を育てる10の技術
STGモデルという地図を手にしても、最初の一歩をどう踏み出すかが分からなければ意味がありません。書籍では、その一歩を具体的な行動に変える技術が10個、体系立てて示されています。
- 【センス】兆候察知
- 小さな違和感を面白がり、隠れた芽を見出す
- 【センス】強み抽出
- 本人も無自覚な強みや関心を言語化する
- 【センス】問いかけ
- 標準へ引き戻すのではなく、思考を深める問いを投げる
- 【トライ】意味づけ
- 社員の逸脱行動を組織の目標や言葉へ翻訳する
- 【トライ】仮説検証
- 失敗しても安全な範囲(safe-to-fail)で試行させる
- 【トライ】伴走後押し
- 逸脱に伴う隔離感や不安に寄り添う
- 【グロウ】賛同獲得
- ネットワークを生かして周囲の仲間を増やす
- 【グロウ】巻き込み
- 反対層を論破せず、巻き込む順序を設計する
- 【グロウ】評価架け橋
- 既存の評価制度と逸脱者の成果を紐づける
- 【ベース】カルチャー醸成
- 逸脱を支援する関わりを組織全体へ広げる
いずれも、部下の違和感を拾い、周囲の抵抗を乗り越えるための、日々のコミュニケーションの中で実践できる技術です。
ここでは、特に多くのマネジャーの壁になりやすい「兆候察知」と「賛同獲得」の2つの技術を取り上げて具体的に見ていきます。
【兆候察知】小さな違和感を面白がる
兆候察知とは、社員の中に芽生えた逸脱の兆しを見つけ出し、面白がりながら引き出す技術です。
社員が抱く小さな違和感は、放っておけば消えてしまいます。日本企業の現場でも、若手社員がふと漏らした「これ、必要なんですかね」という一言が業務改善につながる例は少なくありません。マネジャーの役割は、そのサインを見逃さないことです。
そのためには、観察や傾聴の質を変えることが欠かせません。通常のマネジメントは、社員が標準からズレていないかを監視し正解へ引き戻そうとしますが、逸脱させるマネジメントでは、その先の鉱脈をともに探索します。
評価者の視点を脇に置き、「何が気になるのか」と問いかけることが、好奇心を解き放つきっかけになるのです。
【賛同獲得】仲間づくりで抵抗を乗り越える
賛同獲得とは、マネジャー自身のネットワークを使い、反対者を説得するのではなく仲間を増やしていく技術です。
組織の中で新しいことを始めようとすれば、必ず反対や抵抗に遭遇します。日本企業の会議でも、反対意見を論破しようとして話がこじれた経験は多いはずです。説得に力を注ぐほど、社員は消耗し熱意が冷めます。
そこでマネジャーは、自分のネットワークから、そのアイデアを面白がってくれそうな人を紹介し、外堀を埋めるように賛同者を増やしていきます。技術的な粗探しをされる前に、まずは「いいね」と言ってくれる仲間を増やし、社員の熱量を守る。この順序の逆転こそが、逸脱を挑戦の途中で潰さないための鍵になります。
マネジメントは「管理」ではない
1on1で部下と向き合いながら、気づけば進捗確認だけで時間が終わっていた。そんな経験は少なくないはずです。
多くの人が「マネジメント」という言葉を聞くと、人材管理や進捗管理、予算管理といった管理業務を思い浮かべます。しかし英語圏における本来の「マネジメント」の語義は、達成困難な目的を工夫してやり遂げるという意味合いが強く、日本語で理解されがちな管理そのものとはニュアンスが異なります。
逸脱させるマネジメントは、この本来の語義に立ち返り、組織の現状や暗黙の前提そのものに挑戦していくマネジメントです。1on1や評価という日々の場面に置き換えると、その違いが一気に鮮明になります。
日々の1on1や評価で現場が直面する『実践の壁』
評価の場面で、つい「管理」に偏ってしまう背景には、思想的なルーツの誤解があります。
書籍では、マネジメントを企業経営の概念に昇華させたドラッカーの思想を掘り下げています。ドラッカーは、全体主義に対抗し自由な社会を守る手だてとしてマネジメントをとらえていました。同時代のハナ・アーレントの全体主義論と比較すると、個人が組織や社会への帰属感を失い孤独になることこそが、両者が共通して警戒した危機だと分かります。
この視点に立てば、MBO(目標管理)も社員を縛る手法ではなく、目的を主体的に設定し、やり遂げる力を引き出す手法だったといえます。1on1で原点に立ち返ることが、実践の壁を打ち破る一歩です。
個人技で終わらせない。強みフォーカスの組織文化へ
優れたマネジャーが一人で奮闘するほど、そのやり方は組織に広がらず、むしろ孤立を深めていきます。
「強みフォーカス」とは、メンバーの欠点や標準からのズレを修正するのではなく、個々が持つ独自の強みや才能を伸ばして生かすアプローチを指します。 書籍では、STGモデルを実践する優れたマネジャーであっても、組織文化そのものがこの強みフォーカスに基づいていなければ孤立してしまうと指摘しています。センスで強みに注目する関わり方は、基準を厳しく保とうとする層から「甘やかしている」と批判されることもあります。
だからこそ本書は、STGモデルを使いこなす特別なマネジャーが少数派である組織ではなく、組織そのものが強みフォーカスとなり、逸脱を支える伴走者が当たり前に存在する組織カルチャーの実現を強く目指しています。
伴走者は一人では足りない
強みフォーカスの組織文化を実現するには、伴走者となるマネジャーを一人に頼らず、組織全体で増やしていく必要があります。
越境学習における伴走者とは、慣れない環境に挑戦する学習者の横に立ち、強みを引き出し、挑戦を後押しし、学びを深める存在でした。日常のマネジメントに置き換えれば、伴走者とは未知の領域に挑む社員を支え、成長を促す存在だといえます。
伴走者を増やすことには、既存業務の効率が短期的に下がる懸念も伴います。しかし個人の強みを起点にしたイノベーションを持続的に生み出すことや、社員の高いエンゲージメントの獲得は、中長期的な組織の成長にとってはるかに大きな価値を持ちます。
日本企業の組織文化の課題
強みフォーカスになりきれない日本企業の実態は、社員エンゲージメントの国際比較調査に、はっきりと表れています。
米国ギャラップ社の調査によると、2022年の日本の従業員エンゲージメントは5%で、調査対象145カ国の中でイタリアと並び最も低い水準でした。その後2023年に6%、2024年に7%まで回復したものの、世界平均と比べて低い傾向が続いています。
ギャラップ社の経営トップは、この背景として「マネジャーが社員ともっと対話をする必要がある」と指摘し、社員一人ひとりの強みを生かし引き出していく意識こそが必要だと述べています。これはまさに本書が説く強みフォーカスの発想そのものです。
文化として根づかせる4段階
一部のマネジャーだけが実践する強みフォーカスは、放っておいても組織全体には広がりません。
書籍では、取り組みを制度や文化として定着させる過程を、「前発展・探索」「立ち上がり」「加速」「安定化」という4つの段階で示しています。最初の「前発展・探索」の段階では組織の主流はまだ変わっておらず、強みフォーカスは一部のマネジャーやチームの実践にとどまります。
この段階で組織は、強みフォーカスを実践している小さな芽を探し、現場のマネジャーや社員、越境学習者、人事それぞれの困りごとに耳を傾ける必要があります。自社が今どの段階にあるかを正確に把握し、各フェーズにおけるボトルネックを一つずつ解消していくことが、文化定着に向けた鍵となります。
書籍を読むだけでは解決しきれない現場での実践の壁を乗り越えるため、著者が直接解説する無料ウェビナーをご案内します。
【ウェビナーのご案内】
『逸脱させるマネジメント』の理論を、自社の評価制度や組織文化の中でどう乗り越えていくか。著者・石山恒貴氏が自社運用のポイントを解説します。
日時:2026年10月13日(火)14:00〜15:00
詳細・お申し込み:https://enfactory.co.jp/ekkyo-gakushu/seminar/11020/
逸脱を育てる打ち手としての越境学習と外部プロ人材
強みフォーカスの組織文化を内側だけで育てようとすると、変化のスピードに限界があります。
書籍を読み、STGモデルを理解しても、社内だけで変化を起こすことには限界があります。長年染みついた「自社の当たり前」を内側から疑うことは容易ではなく、内部で完結する研修は既存の枠組みを前提としてしまうからです。
そこで有効な打ち手が、社員を異質な環境に置く「越境学習」と、外部の専門人材を組織に迎え入れる取り組みです。自社の常識が通用しない環境に身を置くことで、社員は自らの固定概念を打ち破り、変化を楽しむマインドへとアップデートされます。「逸脱させない力学」を越えて学習する組織へ変革するうえで、社外との接点は欠かせない選択肢です。
著者・石山恒貴氏とエンファクトリーが語る無料ウェビナーのご案内
書籍の理論を自社でどう運用するかは、著者と直接対話できる場でこそ深められます。
2026年10月13日(火)14:00〜15:00、著者の一人である法政大学の石山恒貴教授にご登壇いただく無料ウェビナー「限界を突破する『非連続組織』のつくり方」を開催します。
【本ウェビナーの参加メリット】
- 書籍に書かれていない泥臭い失敗事例の解説
- 制度やカルチャーとの衝突をどう乗り越えたかの実例を紹介
- 著者へ直接質問・相談が可能
- 「自社の評価制度とバッティングする」といった現場の悩みを直接解消
- 組織への落とし込み手順の提示
- 単なる理論で終わらせず、明日から実践できるステップを提示
書籍を読んで「理論は分かったが、自社でどう運用すればいいのか」と感じた方こそ、著者に直接質問できるこの機会をご活用ください。詳細・お申し込みは、下記の告知ページからご確認いただけます。

