管理職の育成において、「優秀なプレイヤーだった社員が、昇進後にマネジメントで苦戦している」「階層ごとにどのような研修を行えばよいか分からない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
カッツモデルは、管理職の階層ごとに求められるスキルを整理したフレームワークです。これを理解することで、各階層に最適な育成施策や評価基準を設計できるようになります。
本記事では、カッツモデルの基本概念からドラッカーモデルとの違い、研修・評価制度への活用法、さらにはスキル強化に効果的な「越境学習」の事例まで詳しく解説します。
目次
カッツモデルとは
カッツモデルとは、管理職に必要な能力を3つに分類した理論です。1955年に、ハーバード大学のロバート・カッツ教授によって発表されました。
カッツモデルでは、管理職の階層によって求められるスキルの重要度が変わるとされています。その概要は、次の図に示す通りです。
簡単にまとめると、現場に近いロワーマネジメント層は業務に関する専門知識が重要で、経営層に近いトップマネジメント層は抽象的な思考力が重要になる、ということです。管理職育成では、このモデルを参考に育成の重点を変える必要があります。

ドラッカーモデルとの違い
カッツモデルと混同されやすいのが、ドラッカーモデルです。両者の最大の違いは、管理職を評価する視点にあります。
ドラッカーモデルは、「マネジメントの父」とも呼ばれるピーター・ドラッカー氏が提唱した理論です。管理職の役割を、「目標設定」「組織化」「コミュニケーション」「評価測定」「問題解決」という5つに分類しています。これは、「管理職は日々何をすべきか」という業務内容に主な焦点を当てた理論です。
一方、カッツモデルでは「その業務を遂行するためにどのような能力が必要か」というスキルに焦点を当てています。例えば、ドラッカーモデルの「コミュニケーション」という機能を果たすためには、カッツモデルでいうヒューマンスキルが必要です。
管理職の役割を明確化する際にはドラッカーモデルが、その役割を達成するために必要な能力を育成する際にはカッツモデルが参考になります。
▼カッツモデルとドラッカーモデルの違い
| 比較項目 | カッツモデル | ドラッカーモデル |
| 焦点 | 業務を遂行するための「スキル・能力」 | 達成すべき「役割・業務機能(タスク)」 |
| 視点 | 「どのような能力が必要か」 | 「日々何をすべきか」 |
| 主な用途 | スキル定義、管理職研修の設計、能力開発 | 役割定義、目標設定、業務評価 |
カッツモデルにおける管理職の3階層
カッツモデルでは、管理職を以下の3階層に分類しています。
- トップマネジメント層:最も求められるのは コンセプチュアルスキル(経営方針の策定・本質見極め)
- ミドルマネジメント層:最も求められるのは ヒューマンスキル(上下間の橋渡し・調整力)
- ロワーマネジメント層:最も求められるのは テクニカルスキル(現場指導・業務フォロー)
それぞれの階層の特徴や具体例を見ていきましょう。
トップマネジメント層
トップマネジメント層とは、企業全体の方向性を決定する経営陣のことです。CEOやCOOなどのいわゆる「CxO」や取締役、執行役員などの経営層がこれに該当します。
この階層の管理職は、M&Aや新規事業参入の可否といった企業全体の戦略を決める必要があります。そのためには、物事の本質を見抜くコンセプチュアルスキルが必要です。
また、取引先や株主、銀行といった外部との関係構築も重要な業務の一つで、このときにはヒューマンスキルが求められます。
ミドルマネジメント層
ミドルマネジメント層とは、トップマネジメントの方針を現場に落とし込む中間管理職のことです。部長や課長などがこの階層に当てはまります。
この階層は、トップマネジメント層とロワーマネジメント層の橋渡し役となることが重要です。ミドルマネジメント層がうまく機能していれば、トップマネジメント層の方針が現場に伝わりやすくなりますし、経営層も現場の声を吸い上げやすくなります。そのためには、ミドルマネジメント層のヒューマンスキルが重要です。
なお、現場の意見をうまく取りまとめて経営層へ伝えるためには、コンセプチュアルスキルも求められます。また、現場との信頼関係を築くためにはテクニカルスキルも必要です。
ロワーマネジメント層
ロワーマネジメント層とは、現場の最前線で部下を直接管理する管理職のことです。主任や係長、チームリーダーなどがこの階層に該当します。
この階層の管理職は、メンバーに業務を教える機会も多いです。ときには、フォローが必要な部下の仕事を巻き取ることもあるでしょう。そのため、ロワーマネジメント層には高いテクニカルスキルが必要です。
また、現場からの信頼を獲得するためにはヒューマンスキルも求められます。
カッツモデルに含まれる3要素
カッツモデルでは、管理職に必要な能力を以下の3つに分類しています。
- コンセプチュアルスキル
- ヒューマンスキル
- テクニカルスキル
それぞれの内容を順に確認していきましょう。
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルとは、複雑な問題を体系的に整理し、本質を見抜く能力のことです。日本語では「概念化能力」とも呼ばれます。
たとえば、「自社の経営方針を噛み砕いてチームの目標に落とし込む」「トラブルの原因を分析し、根本的な再発防止策を立てる」といった場面で求められます。
このスキルは、組織全体の方針を決めたり、将来の計画を考えたりする際に必要です。次のような要素を伸ばすことで、コンセプチュアルスキルを高めることができます。
- 論理的思考力
- 課題解決力
- 戦略的思考力
- クリティカルシンキング
なお、このスキルは一朝一夕に身につくものではありません。日頃から論理的に考えるクセをつけるなど、長期的に思考力を鍛える習慣を作ることが大切です。
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは、周囲の人々と良好な関係を築き、効果的にコミュニケーションを行う能力です。「対人関係能力」とも呼ばれます。
たとえば、「1on1で部下の悩みや本音を引き出す」「業務の優先順位をめぐって他部署と交渉・調整する」といった場面で発揮されます。
全ての管理職に必要な能力ですが、特に人と人との調整が多いミドルマネジメント層では重要視されます。ヒューマンスキルは以下の要素から構成されています。
- コミュニケーション力
- リーダーシップ
- 共感力
- 傾聴力
- 交渉力
- コーチング力
- ファシリテーション力
コミュニケーション力やリーダーシップは先天的なものだと思われがちですが、これらは研修によって伸ばすことが可能です。計画的に研修を実施して、管理職のヒューマンスキルを伸ばしましょう。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、業務遂行に必要な専門知識や技術のことです。このスキルは、上司としての信頼に直結します。現場に近い管理職ほど、重要度は高いです。
たとえば、「メンバーの成果物をチェックして具体的にフィードバックする」「業務上のトラブル発生時に自ら現場に入ってフォローする」といった場面で必要になります。
具体的な内容は職種や業界によって大きく異なりますが、例えば製造業であれば品質管理の知識、金融業であれば金融の知識やリスク管理などが該当します。また、データ分析やプログラミング、AIなどは、多くの職種でも必要なテクニカルスキルの一つです。
これらのスキルは、研修や実務経験を通じて伸ばすことができます。
カッツモデルを人材育成に活用する方法
ここまで、カッツモデルを構成する3つの階層やスキルについて解説しました。ここからは、カッツモデルを実際に人材育成へ活用する方法について解説します。
管理職向け研修の設計
カッツモデルは、管理職向けの研修を設計する際に役立ちます。
例えばロワーマネジメント層向けの研修では、テクニカルスキルの向上を主軸に設定しつつ、基礎的なマネジメント力の向上を図りましょう。KPI管理の方法や部下の指導方法などを学んでもらうのがおすすめです。
ミドルマネジメント層向けには、ヒューマンスキルの強化を中心とした研修がおすすめです。チームビルディングやコミュニケーションについて学び、周囲とうまく信頼関係を構築できるようになってもらいましょう。グループワークやロールプレイを多用しながら、実際の場面を想定した演習を積極的に盛り込むのが効果的です。
トップマネジメント層向けの研修では、コンセプチュアルスキルの強化を図ります。戦略立案や経営分析、リスクマネジメントなどが主なテーマですが、経営層候補の数が限られている場合には個別の育成プランを作成するのもおすすめです。
管理職の評価
カッツモデルは、人事評価にも組み込むことができます。各階層で必要なスキルをバランスよく評価することで、納得感の高い制度を構築できます。
評価に活用するときは、各階層に求めるスキルを具体的に示しましょう。例えば、以下のように階層ごとの評価基準(ウェイト)の目安を設けるのがおすすめです。
- ロワーマネジメント層: テクニカル 50% / ヒューマン 40% / コンセプチュアル 10%
- ミドルマネジメント層: テクニカル 20% / ヒューマン 50% / コンセプチュアル 30%
- トップマネジメント層: テクニカル 10% / ヒューマン 40% / コンセプチュアル 50%
このように定量的かつ明確な基準を設けることで、各階層にふさわしい評価を行えるだけでなく、管理職本人にとっても「どの能力を重点的に伸ばすべきか」が明確になり、納得感が高まります。
また、カッツモデルを元に作成した評価基準を育成方針と連動させることで、一貫性の高い人事施策を展開できます。
リーダー育成には越境学習もおすすめ
管理職・リーダーの育成には、越境学習もおすすめです。
越境学習とは、所属する組織の枠を超えて異なる環境に身を置き学ぶ人材育成手法で、本記事で紹介したカッツモデルにおける3つのスキルを効果的に伸ばすことができます。
第一に、越境学習はヒューマンスキルの強化に大きく貢献します。アウェイな環境で普段関わることのない異業界・異職種の人材と協働することで、多様な価値観を理解し、円滑に仕事をすすめながら信頼関係を構築する能力が自然と身につきます。
第二に、コンセプチュアルスキルを伸ばす際にも効果的です。経営層との距離が近く高い視座を獲得できることに加え、自ら課題を探しに行き、正解のない中で主体的に取り組んでいく経験を通じて、本質的な思考力や対応力が磨かれます。
また、普段と異なる業務やプロジェクトに取り組むプロセスの中で、実務に必要なテクニカルスキルを補完的に伸ばすことも可能です。
ここからは、リーダー育成に越境学習を活用した企業事例を2つご紹介します。
異質な環境が引き出したリーダーシップ
大日本印刷株式会社の秦様は、事業開発チームのリーダーを務めています。日々新規事業の開発に取り組む中で、ゼロからイチを生み出すベンチャー企業の活動について興味が湧き、越境学習プログラム「複業留学」への参加を決めました。
留学先として「みんなのまちづくり」という企業へ参画。地域への移住者を増やすためにさまざまな仕事へ取り組む中で、仲間とのコミュニケーションが次のように変化したそうです。
複業留学を経て、特にチームのメンバーや部下に対して、自分の想いや考えをはっきりと伝えるようになったと感じています。以前は新規事業のチームにおいて調整型のリーダーシップを優先し、部下がやりたいことやモチベーションを重視していました。しかし、今は自分の中にミッションやビジョンをしっかりと持ち、それを堂々と表現することができるようになったと思います。
【向上したスキル:ヒューマンスキル(リーダーシップ・意思伝達力)】
普段とは異なる環境で新しい仲間と触れ合うことで、チームを牽引する力や自身のミッションをはっきりと伝えるヒューマンスキルが飛躍的に向上した事例です。
本事例の詳細は、次のインタビュー記事から詳しくご覧いただけます。
異なる世界への挑戦:多様な経験が自信を育む
大鵬薬品工業株式会社の吉澤様は、「ベンチャーのスピード感や新しい世代の働き方に触れたい」という思いから、複業留学への参加を決めました。開始当初は「不安が大きかった」という吉澤様ですが、留学中は日頃の経験も活かしつつ、以下の業務に取り組んでいます。
- 業界理解(前半)
- 売上向上のための施策立案(後半)
活動期間中の前半は、新しい業界に関する知識を深めることを重視しました。留学先の代表とコミュニケーションや展覧会への参加を通じて、業界の文化や状況を把握したそうです。後半では、前半で身につけた知識を用いながら、売上向上のための施策立案などに取り組んでいます。
こうした活動の効果について、吉澤様からは次のようにお答え頂きました。
複業留学での経験を通じて、特にマネジメントの面での成長を実感しています。会社の代表や他のリーダーたちの考え方や覚悟を学ぶことで、これからの自分のマネジメントスタイルに大いに活かせると感じています。特に、人との関わり合いを大切にしたいと思っています。
【向上したスキル:ヒューマンスキル / コンセプチュアルスキル / テクニカルスキル】
人との関わり合いによるヒューマンスキルの向上はもちろん、経営目線での施策立案を通じたコンセプチュアルスキルの強化、さらに新たなツールへの関心などテクニカルスキルも含め、3つのスキルをバランスよく伸ばすことに成功した好例です。
本事例についてさらに詳しく知りたい方は、次のページをご覧ください。
まとめ
カッツモデルは、管理職の階層に応じて必要な能力(コンセプチュアル・ヒューマン・テクニカル)を整理した実践的な理論です。
一言で管理職といっても社内にはさまざまなポジションがあり、求められる役割も異なります。育成や評価制度の構築に苦労している人事担当者の方は、ぜひカッツモデルを基準にした施策づくりを試してみてください。
▼ 本記事のポイント
- 階層ごとの最重要スキルを押さえる: ロワーは「テクニカル」、ミドルは「ヒューマン」、トップは「コンセプチュアル」に比重を置く
- 研修・評価基準へ落とし込む: 評価の割合(ウェイト)を具体化することで、効果的な研修設計と納得感のある評価が可能に
- 実践の場として越境学習を活用: 3つのスキルを実地でバランスよく鍛え上げたい場合、「越境学習」などの社外実践プログラムが非常に有効
自社の管理職育成を見直す際は、まず現在の階層別スキルの定義を整理し、実践的な成長機会として「越境学習」などの活用もぜひ検討してみてください。
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