後継者育成計画の作成手順とありがちな課題|成功事例4選も解説

越境学習サクセッション・リーダー育成

企業の持続的な成長には、次世代を担う優秀な経営層の存在が欠かせません。しかし現在、多くの企業で経営陣の高齢化や後継者不足が深刻な課題となっています。

これまでの「背中を見て覚える」育成手法では、変化の激しい現代の経営環境に対応しきれません。早い段階から計画的に経営人材を育てる「後継者育成計画(サクセッションプラン)」の策定が必要です。

本記事では、後継者育成計画の具体的な作成5ステップから、策定時によくある課題と解決策、実効性を高めるポイントまで詳しく解説します。後半では越境学習を活用した成功事例2選も紹介しますので、自社の体制づくりにぜひお役立てください。

後継者育成の計画とは?

後継者育成計画とは、経営を引き継ぐ人材を育てるための計画のことです。「サクセッションプラン」と呼ばれることもあります。

どんなに優れた経営者でも、いつかは経営を後継者に引き継がなければいけません。しかし、昨今はますます経営環境が複雑になりつつあります。これまでのように、「社長の背中を見て覚える」だけの教育は通用しなくなってきていると言わざるを得ません。

こうした状況を乗り越えるには、計画的な経営層の育成が必要です。後継者育成計画では以下のような項目を明確にし、計画的に経営層を育成することを目指します。

  • 誰を後継者候補とするか
  • どのような経験を積ませるか
  • どれくらいの期間で育成するか

計画を立てることで、企業側も社員側も何を目指すべきかが明確になり、経営層に必要なスキルやマインドを身につけやすくなります。また、取締役会や株主に対して、後継者育成の進捗状況を説明しやすくなる点もメリットです。

後継者育成計画が求められている理由

昨今では、後継者育成計画の重要性が増しています。主な理由は、次の3点です。

  • 日本企業の経営者の高齢化
  • 経営層に求められるスキルや知識の多様化
  • 人的資本投資の開示

第一に、日本企業では経営層の高齢化が進んでいます。帝国データバンクが2025年に公表した調査によると、中小企業の経営者年齢の分布は次のように推移していることが明らかになりました。

2005年2015年2024年
〜60才56.5%47.9%47.9%
60〜69才30.4%33.2%26.7%
70才〜13.1%18.9%25.3%

※ 帝国データバンク『令和6年度中小企業実態調査事業』を元に集計

2005年時点で13.1%だった70才以上の経営者の割合は2024年時点で実に25.3%まで上昇しているなど、経営の引き継ぎを課題とする企業が増えてきています。

また、経営環境の変化が激しい現代では、経営者に高い判断力や実行力が必要です。こうした能力を身につけるためには、早期から計画的にさまざまな経験を積むことが重要です。

さらに、人的資本情報の開示に対する要求の高まりも大きな背景です。2023年3月期より大手企業等において人的資本の開示が義務化され、サクセッションプラン(後継者育成計画)に関する取り組みの開示要求も強まっています。中小企業においても、人的資本経営の観点から透明性の高い後継者育成計画を策定・実行しておくことが、取引先や金融機関などのステークホルダーからの信頼向上につながります。 

後継者育成計画を作成する方法

後継者育成計画を作成する際は、まず企業の目指す姿を明確にし、そこからトップダウンで必要な人材像を定義します。具体的な手順は以下の通りです。

  1. 企業のMVVを明確化する
  2. MVVと現状のギャップを洗い出す
  3. 人材要件を明確化する
  4. 候補者を選定する
  5. 育成計画を実行する

それぞれのステップを解説します。

ステップ1:企業のMVVと経営計画を明確化する

はじめに、企業のMVVや経営計画を明確化します。

MVVとは、企業の基本方針となる以下の3項目のことです。

  • ミッション(使命)
  • ビジョン(将来像)
  • バリュー(価値観)

MVVは企業がどのような価値を大切にするかを示すものであり、後継者に求められる資質や方向性を決める土台となります。経営計画も、今後の人材戦略を決める重要な要素です。

経営層とコミュニケーションを取りながら、企業全体の方針を正しく把握しましょう。

ステップ2:目標と現状のギャップを洗い出す

次に、目標と現在の組織状態の間にあるギャップを把握します。

例えば経営計画では「デジタルを活用した新サービスの創出」を掲げているのに、現在の経営陣にはITの知見が不足している場合があります。また、「グローバル展開」を目指しているにもかかわらず、海外事業の経験者が社内にいないケースもあるでしょう。

これらのギャップを洗い出すことで、次世代の経営層に必要な経験や能力が見えてきます。

ステップ3:人材要件を明確化する

次に、後継者に求められる具体的な能力や経験を定義します。

まずは、後継者育成計画を作成するポジションを明確化してください。一般的には社長や副社長、役員などの幹部候補となる人材の育成計画を作成することが多いですが、企業規模によってどこまでを幹部候補として扱うかは異なります。

次に、それぞれのポジションに求められる人材要件を定義しましょう。人材要件には、次の項目を盛り込むのがおすすめです。

  • スキル
  • 知識
  • 経験
  • コンピテンシー
  • マインドセット

これらの項目について、前の段階で洗い出したギャップを埋められるような要件を設定していきます。

ステップ4:候補者を選定する

人材要件に照らし合わせて、後継者候補となる人材を選びます。

後継者候補となる人材は、直属の上司からの評価だけでなく、360度評価や過去のプロジェクトの成果なども参考にしながら選びましょう。重視する人材要件から順にスクリーニングを行い、十分な人数が集まった段階で候補者を確定するとスムーズです。

なお、候補者選定の際に役立つ指標として、人的資本開示の国際標準規格「ISO 30414」で定められている「後継者候補準備率(Succession Readiness Rate)」があります。これは「重要な役職に対してどれだけの候補者を準備できているか」を示す指標で、以下の計算式で算出します。

後継者候補準備率(%)= 後継者候補の数 ÷ 重要ポストの数 × 100

例えば、重要な経営ポスト(役員等)が5名分あり、それに対して後継者候補が2名選出されている場合、計算は 2 ÷ 5 × 100 となり、後継者候補準備率は40%となります。

中小企業ではこの数値が10%〜20%にとどまることも少なくありませんが、これは10のポジションに対して1〜2名ほどの後継者しか用意できていない状態です。後継者育成に力を入れる企業では、200%を超える後継者候補準備率を達成しています。(※出典:三井化学株式会社「ESGパフォーマンスデータ」)

弊社エンファクトリーでは、200%以上の後継者候補準備率を達成している三井化学株式会社の人材育成戦略を紐解くイベントを開催いたしました。本イベントのレポートは、以下のページから無料でダウンロードいただけます。

ステップ5:育成計画を実行する

最後に、選定した候補者に対して育成を実施します。

育成計画を実行する際は、候補者にさまざまな経験を積ませることが重要です。これまで営業畑を歩んできた候補者であれば、製造部門や管理部門を経験させて全社的な視点を養ってもらいます。新規事業の立ち上げや海外拠点の管理といった「修羅場」を経験してもらうタフアサインメントも重要です。

なお、タフアサインメントの実施方法やポイントは次のページで詳しく解説しています。具体的な育成方法について興味がある方は、ぜひ以下のページもご覧ください。

後継者育成計画を策定する際にありがちな課題

後継者育成計画を作成するときは、以下の課題に直面しがちです。

  • 経営判断が過度に属人化している
  • 内向きな企業文化がある
  • タフアサインメントが不足している
  • 座学の研修だけでは限界がある

ここからは、後継者育成においてありがちな課題とその解決策を解説します。

経営判断が過度に属人化している

幹部育成において最もありがちな課題の一つが、現役の経営者に経営判断が集中しすぎており、他の人材が経営を学ぶ機会が少ないというものです。

特に中小企業では、創業者が長年トップを務めており、あらゆる判断が一人に集約されていることがあります。例えば、新規取引先との契約や設備投資の決定、人事異動の承認など、すべての決定を社長一人で行っている企業は少なくありません。

こうした状況では、次の人材が経営判断を学ぶ機会が奪われ、いざ後継者になった際に適切な判断ができなくなります。取引先との契約が現役の経営層との個人的な関係に依存しており、引き継いだ際に業績が悪化するパターンも多いです。

内向きな企業文化がある

内向きな企業文化も、後継者の育成を阻む要因の一つです。

人事異動が少なかったり、限られた人間関係の中で働いたりしていると、いつの間にか思考が硬直化します。外の視点を獲得できず、経営に必要な広い視野を身につけることができません。

また、社外との交流が少ない場合も同様です。新卒採用が中心で中途採用が少ない企業や、社外との人材交流が少ない企業では、社内文化が固定化されてしまいます。この場合、社内制度や組織形態が時代遅れのものとなったり、ITやAIといった先端技術の活用が遅れたりといった弊害が出てしまうのです。

タフアサインメントが不足している

経営層育成においてありがちな課題として、タフアサインメントの不足も挙げられます。

タフアサインメントとは、達成可能性が50%〜70%程度の困難な課題を与える育成手法です。例えば社外への出向や不採算事業の立て直しといったタフな課題を与えることで、スキル面のみならずマインド面での成長を促します。

しかし、社内だけで経営者育成を完結させていると、どうしても予定調和のような経験が多くなってしまいがちです。結果として、本当の意味での「修羅場」を体験できないまま、経営層になってしまうケースがあります。

弊社では、社外の環境で経営に携わることで真の修羅場を乗り越える「リーダー留学」という育成プログラムをご用意しています。タフアサインメントとしておすすめの育成手法なので、ぜひご検討ください。詳細は以下のリンクからご覧いただけます。

座学の研修だけでは限界がある

座学の研修だけでは、行動変容を促すことに限界があります。

座学で知識をインプットするだけでは、経営を「自分ごと」として認識することができません。経営を理論的に理解することはもちろん大切ですが、本当の意味で経営の手腕を磨くのであれば、実際の経営に携わる経験が必要不可欠です。

越境学習でベンチャー企業やスタートアップの経営経験を積んでもらうなど、経営層になる前に実際の経営を体験できるような育成計画を立てましょう。

実効性の高い後継者育成計画を策定するポイント3選

後継者育成計画を絵に描いた餅で終わらせないためには、以下のポイントが重要です。

  1. 現場での実践機会(修羅場体験)を提供する 
  2. 継続的な内省(リフレクション)で意識変容を促す 
  3. 社外や他部門との対話から多角的な視点を養う 

実効性の高い後継者育成計画を作る上で、特に重要な3つのポイントを解説します。

1. 現場での実践機会(修羅場体験)を提供する 

リーダーシップは、座学だけでは身につきません。経営者としての手腕を磨くには、リーダーシップを実際に発揮する機会が必要です。

後継者育成の中でリーダーシップを発揮する方法には、次のようなものがあります。

  • 新規事業の立ち上げ
  • 不採算事業の立て直し
  • 海外拠点の統括
  • 主要事業や大規模プロジェクトへの異動

座学の研修だけで終わらせず、実際の仕事を通じてリーダーシップを磨いてもらうことが大切です。

2. 継続的な内省(リフレクション)で意識変容を促す 

経営者としての器を磨くためには、自分自身の行動や考え方を振り返る「内省」が重要です。

経営者には、「あの人にならついていきたい」と思われる器が必要です。このような器を獲得するためには、マインド面での成長が求められます。ここで欠かせないのが、本人自身による「内省」です。本人が経験を自分の言葉で言語化し、自己認識をアップデートすることで、はじめてマインド面での成長が期待できます。

後継者育成計画では、本人の内省を促す仕掛けを作るように意識してみてください。定期的に振り返りの機会を設ける、振り返りシートで内省を促すといった方法が考えられます。

また、育成期間中に伴走者をつける方法もおすすめです。例えば弊社の越境学習プログラム中には、本人の内省を促進するため、伴走コーチがレポートへのコメントや1on1面談といった支援を行います。

3. 社外や他部門との対話から多角的な視点を養う 

経営層には、多様な視点が必要です。育成期間中には他者と関わる機会を増やし、多様な考え方を学んでもらいましょう。

例えば、以下の人と対話することが有効です。

  • 異部門の社員
  • 異なる事業の取引先・顧客
  • 外部の経営者

多くの人と対話することで、自分自身のスキルや経験を相対化することができます。自分の弱みや強みを自覚できれば、経営層としてのスキルをより効果的に磨けるでしょう。

後継者育成には越境学習がおすすめ

後継者育成には、社外の環境で研鑽を積む越境学習が効果的です。

ここまで解説してきた通り、経営者として活躍するためには多様な経験が必要です。もちろん社内でもさまざまな経験を積むことができますが、配置転換や異動による育成には手間がかかります。社内での異動だと、新しい人と関わる機会も限られてしまうでしょう。

そこでおすすめなのが、ベンチャー企業で経営に携わるという社外での越境学習です。ベンチャー企業という異質な環境に飛び込むと、次のメリットがあります。

  • 異環境でリーダーシップを実践できる
  • 内省を通じて自身の価値観を認識できる
  • 周囲への共有を通じたピアラーニングができる

弊社エンファクトリーでは、外部のベンチャー企業で経営に携わる経験を積む越境学習プログラム「リーダー留学」をご用意しております。後継者育成計画をお考え中の方は、ぜひリーダー留学を検討してみてはいかがでしょうか。

以下のページから、リーダー留学の詳細をご覧いただけます。

越境学習で経営者の育成に成功した事例2選

ここからは、越境学習で経営者の育成に成功した企業事例を2つご紹介します。経営者育成の具体的な進め方について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

株式会社コナカ|越境学習による経営幹部育成

紳士服の量販店などを手掛ける株式会社コナカでは、都市型店舗の「SUIT SELECT」やAI画像採寸技術を導入した「DIFFERENCE」といった多様な事業を展開しています。こうした事業を持続的に成長させていくためには、現社長に続く後継者の育成が不可欠であるとの認識がありました。そこで、後継者育成計画の一環として、越境学習を導入しました。

プログラムに参加したのは、本社社員100名の中から選抜された社員です。主に30代後半から40代前半の、「執行役員を目指せる候補者」を中心に選抜メンバーを決定しました。

越境学習に参加した社員からは、次のような声があがっています。

私自身の学びは非常に深く、今まで言葉は知っていても深く理解できていなかった概念が、自分の中で「つながった」感覚がありました。(中略)「自分が思っている以上に世の中が進んでいる」という気づきと、「うちの会社はもっとできることがある」という自社への還元視点を獲得できたと感じています。

AI、DX、HRテックなどの先端技術に触れることで、「自分が思っている以上に世の中が進んでいる」「自社にはもっとできることがある」といった気づきを得ることに成功しています。新卒採用が多く中途採用が少なかったコナカでは、越境学習が社外の人と触れ合う貴重な機会にもなりました。

本事例では、プログラムを実施する際に多くの工夫を行っています。詳細は、以下のページからご覧ください。

株式会社カルモア|人財育成ゼロからの次期経営者育成

株式会社カルモアは、アジアトップクラスで「空気環境ビジネス」を展開するメーカーです。創業以来30年間、「自主独立経営」を掲げ、後継者の育成にも戦略的に取り組んでいます。

同社の後継者育成計画の特徴の一つが、社外での武者修行体験として「越境学習」を導入している点です。社内の常識が通用しないタフな環境で働くことで、自己理解を深めることを目的にしています。社外を知ることで、社内にはない知見を持ち帰ってもらうことも目的の一つです。

株式会社カルモアの事例についてご興味がある方は、以下のページからぜひ詳細をご確認ください。

まとめ

本記事では、後継者育成計画(サクセッションプラン)の具体的な作成方法やありがちな課題、実効性を高めるためのポイントについて解説しました。

経営層の高齢化が進み、経営環境の不確実性が増す現代において、後継者の育成は企業の持続的成長を左右する最重要課題です。単なる座学や社内での慣習を踏襲するだけでは、真の経営人材は育ちません。早い段階から候補者を選抜し、越境学習などを通じた「実践的な修羅場体験(タフアサインメント)」を計画的に提供していくことが成功の鍵となります。

本記事の内容を参考に、自社の目指す将来像から逆算した育成計画を策定し、次世代を担う経営リーダーの育成に取り組んでいきましょう。

【次世代リーダー・後継者の育成にお悩みの方へ】

株式会社エンファクトリーでは、社内だけでは得られない「経営者視点」と「実践的なリーダーシップ」を育む越境学習プログラム「リーダー留学」を提供しています。

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