現代社会では、キャリアの多様性や不確実性が増加しており、変化に対応する力である「キャリアアダプタビリティ」の重要性が高まっています。この概念は、従業員が変化する環境や新しいキャリア課題に適応するための能力を指し、企業にとっても優れた人材育成の鍵となります。本記事では、キャリアアダプタビリティの定義、そしてキャリアアダプタビリティを高めるために企業ができる施策について解説します。
キャリアアダプタビリティとは?
キャリアアダプタビリティとは、変化する職業環境や予期せぬ状況に適応し、自身のキャリアを柔軟に管理する能力を指します。この概念は、ドナルド・E・スーパーによって提唱され、その後マーク・L・サビカスが発展させました。現代の不確実な労働市場において、個人が自身のキャリアを効果的に構築し、維持するために不可欠なスキルとして注目されています。
キャリアアダプタビリティは、以下の4つの要素から構成されています。
1. 関心(Concern):
将来のキャリアに対する前向きな姿勢と計画性を持つことを意味します。自身の職業生活に関心を持ち、将来を見据えて準備する能力が含まれます。例えば、業界のトレンドを常に把握し、必要なスキルの習得に取り組むことなどがこれに当たります。
2. コントロール(Control):
自身のキャリアに対して主体的に関与し、意思決定する能力を指します。環境に流されるのではなく、自らの選択と責任でキャリアを形成していく姿勢が重要です。具体的には、目標設定とその達成に向けた行動計画の立案などが挙げられます。
3. 好奇心(Curiosity):
新しい機会や可能性を探索し、自己と環境について学ぼうとする姿勢です。異なる職種や業界に関心を持ち、積極的に情報収集を行うことで、キャリアの選択肢を広げることができます。例えば、異業種交流会への参加や、新しい技術の習得などがこれに該当します。
4. 自信(Confidence):
キャリア上の課題に対処する自己効力感を持つことです。過去の成功体験や克服した困難を振り返り、新たな挑戦に対する自信を培うことが重要です。プレゼンテーションスキルの向上や、資格取得などの具体的な成果を積み重ねることで、自信を高めることができます。
企業ができる、キャリアアダプタビリティの高め方
1. キャリアメンタリングプログラムの導入
文教大学 人間科学部教授の益田勉氏の研究によると、上司からのキャリア支援はキャリア・アダプタビリティを高めることにつながるということが分かっています。また、上司からの支援は、組織内でのキャリア発達の見通しを高めるといったようにはたらき、「組織にとどまる」という考えを強くするように影響する、ということも明らかになっています。
直接の上司からの支援が難しくても、少人数のキャリアデザインワークショップや、コーチによるキャリアパスの可視化は有効な手段でしょう。
参考文献)
『キャリア・アダプタビリティと転職の意志』
『キャリア・アダプタビリティと組織内キャリア発達』
2. 手上げによる異動や柔軟なジョブローテーションの実施
手上げによる異動や柔軟なジョブローテーションの実施は、従業員のキャリアアダプタビリティを高める効果的な方策です。
具体的には、定期的に社内で異動やローテーションの機会を公開し、興味のある従業員が自ら応募できるシステムを構築します。自身のキャリア目標や興味に基づいて新たな挑戦を選択することができ、また、組織側も人材の適材適所を図りやすくなり、潜在的な才能の発掘にもつながります。
3. 越境学習や異業種交流などを通じた、外部との交流機会の創出
具体的には、異業種セミナーへの参加、他社との人材交流プログラム、副業解禁、オープンイノベーションプロジェクトへの参画などが挙げられます。
越境学習は、社員が新しいキャリアに挑戦するきっかけになります。普段とは異なる業務に取り組むことで、「自分にはこんな可能性があったんだ」「まだまだ新しいことを学べるんだ」といった気づきを促すことができるでしょう。組織にとっても、外部の最新トレンドや革新的なアイデアを取り入れる機会となり、競争力の強化に寄与することが期待できます。
キャリアアダプタビリティを高める越境学習の実践事例
従業員のキャリアアダプタビリティを高めるには、越境学習がおすすめです。
ここからは、弊社エンファクトリーが実施した事例の中から、社員のキャリア自律に成功した事例を紹介します。
新たな挑戦により、キャリアの迷いを手放せた事例
株式会社パルコの小野様は、約20年間パルコに勤務し、様々な業務を経験してきましたが、自身の強みや会社への貢献方法に迷いを感じていました。そこで、他社での業務経験を通じて新たな視点を得るため、エンファクトリーの実施する複業留学プログラムに参加しました。
留学先では、和菓子を世界に広めるミッションを持つ企業で、主力商品のプロモーション戦略を担当しました。この経験を通じて、小野様は以下のような気づきを得たそうです。
- 自身の資質や特性に対する新たな気づきを得た
- 人をサポートし応援することが得意だと再確認した
- AIを活用した業務効率化に興味を持つようになった
プログラム後、小野様は次のように述べています。
他の留学生との交流を通じて、学ぶことの楽しさを再確認できました。学び直しについての取り組みとして、現在も半年間のスクールに通っています。以前に実務経験として積んだ学びは、20代の頃とは異なる感覚があります。知識の整理やおさらいの部分もありますが、今の時代に合わせた新しいやり方やトレンドをキャッチアップすることができるのは非常に新鮮です。 知識を更新し、常にアップデートしていくことが重要だと感じています。
インタビュー本文は以下からご覧ください。
複業留学体験レポート「迷いを解消して見つけた自分の強みと可能性」

新しい挑戦へのハードルが下がった事例
株式会社NTTドコモ 門田様は、他社の文化に触れ、自身の業務スキル向上を図るため、エンファクトリーの実施する複業留学プログラムに参加しました。留学先のタイムクラウド株式会社では、主に営業活動に従事し、会社を俯瞰的に捉える視点や、新しい出会いから人脈を広げる大切さを実感されたそうです。
複業留学後には、インタビューで以下のようにお答えいただいています。
新しいことへ挑戦し、発信していく姿を見てもらい、「楽しそう」「やってみよう」という気持ちになる人を増やしたいです。
また、複業留学が始まる前は、新しい環境に飛び込む怖さやどうなるのか先が見えない不安がありましたが、挑戦してみた結果、大変なこともありましたが「何とかなる」というポジティブな感情が生まれました。今後、新しいことへ挑戦する際の障壁が下がり、尻込みせずポジティブに挑戦できるのではないかと思います。
以下のインタビューからぜひ全文をご覧ください。
複業留学体験レポート「気づかなかったスキルが自信となり、今後のキャリアの選択肢が広がった」

まとめ
キャリア自律について、定義やポイント、よくある課題点などを解説しました。
時代の変化が加速しつつある昨今、キャリアアダプタビリティの向上は人材育成における重要なテーマの一つです。越境学習などの社外での腕試しにつながるプログラムを増やすことも、キャリア自律を実現する上で重要な一手となるでしょう。
この記事が、キャリア自律の理解を深めるきっかけになれば幸いです。