地域×越境がもたらす「社員の変容」のリアル~都市と地方の非対称性が呼び起こす、VUCA時代の人材育成~

越境学習

「社外研修で刺激を受けても、現場に戻ると元の業務に埋もれてしまう……」そんな一過性の経験で終わらせない人材育成の手法として、いま「地域への越境学習」が注目を集めています。

エンファクトリーでは、2026年7月に「地域×越境がもたらす『変容』のリアル」をテーマにしたセミナーを開催。静岡県熱海市(株式会社Gensen & Co)や奈良県東吉野村(株式会社Rebe)での先進事例を交えながら、都市部と地方の圧倒的な環境差(非対称性)がどのように学習者の「アンラーニング(学習棄却)」を促すのか、そのメカニズムに迫りました。

参加者が直面する「アウェイの洗礼」やアイデンティティの葛藤、そして3か月・20時間の「他流試合」で見える化された変化し続ける力、「変身資産」とは何なのか? 当日の熱気あふれるセミナーの模様をダイジェストでレポートします。

なぜ今、ビジネスパーソンに「地域への越境」が必要なのか

予測不可能なVUCA時代において、企業が持続的なイノベーションを創出するためには、従来型の社内教育という「閉じた」育成だけでは限界に達しています。今、戦略的な人材開発の処方箋として注目されているのが「越境学習」です。

越境学習の本質は、慣れ親しんだ職場という「ホーム」を離れ、全く異なるルールや価値観が支配する外部環境としての「アウェイ」を行き来するプロセスにあります。単なる環境の変化が「深い学び」へと昇華される背景には、既存の成功体験やスキルが通用しない「認知的不協和」を戦略的に活用するメカニズムが存在します。

特に「地域」への越境がもたらすインパクトは、都市部と地方の間に存在する「絶対的な非対称性」に起因します。高度にシステム化され、効率が極限まで追求された都市部に対し、地方は深刻な資源制約と正解のない課題がむき出しになった環境です。この圧倒的なアウェイ環境に身を投じることで、学習者は自身の「当たり前」を根底から揺さぶられ、強烈なアンラーニング(学習棄却)を経験します。この認知の転換こそが、自律型人材への変容を促す触媒となるのです。

「地域課題の最前線」で何が起きているのか

越境学習のフィールドとしての「地域」には、教科書的な正解が存在しない、泥臭くも切実な経営課題があふれています。本セミナーでは、対極的なアプローチで地域変革を推進する2つの先進事例が紹介されました。

静岡県熱海市(株式会社Gensen & Co)

熱海では、15年以上にわたる「熱海銀座」のリノベーションまちづくりの実践から、企業研修事業が誕生しました。2025年4月に(株)machimoriからスピンオフし創業した同社は、代表である佐々木 梨華氏法政大学でキャリアデザインの非常勤講師を務めるなど、学術的な知見と現場での感覚を高度に融合させています。 

導入企業100社、受講生1,200名以上の実績を誇る同社の強みは、研修プロデューサー自身が「地域の当事者」として課題に向き合っている点にあります。表面的な「地方体験」ではなく、ビジネスの論理だけでは動かない地域の急所に触れる設計が、多くの企業の信頼を獲得しています。

奈良県東吉野村(株式会社Rebe)

代表の狩野 良太氏は、理学療法士・コミュニティナースとしての背景を持ち、人口1,500名、高齢化率59%(奈良県1位)という「消滅可能性自治体」の最前線で起業しました。「誰もがありのままで暮らせる社会」をミッションに掲げ、地域の厳しい課題を、クリエイティブな発想で事業へと昇華させています。

  • 買い物支援バス「ひよサポ」: 担い手不足による在宅生活の困難さを、単なる支援ではなく、車内の対話から地域の困りごとを吸い上げる情報拠点へと昇華。2024年に「GOODおせっかいAWARD」を受賞しました。
  • 写真家監修の宿「Nagi no Ne」: 2026年5月の開業に向け、クラウドファンディングで260万円を調達。クリエイターが「暮らしの原点」を求めて集まる仕組みを構築しています。

越境者が直面する「アウェイの洗礼」と対話から見えた真実

セミナー後半のトークセッションでは、越境者が実際に現地の経営課題に飛び込んだ際に直面する生々しい葛藤と、それを乗り越えるためのヒントについて、佐々木氏・狩野氏との深いディスカッションが行われました。

都市部のビジネスパーソンが現場で打ちのめされる「アウェイの洗礼」とそこからのパラダイムシフトについて、お二人からは以下の3つのポイントが共有されました。

1.「正解」のないカオスと有能感の崩壊(熱海・佐々木氏の視点) 

佐々木氏は、「都市部のビジネスパーソンは、地域に来るとまず『正解』を探そうとするが、そもそも地域には問いすら設定されていないカオスな状態が多い」と指摘します。 

受講生は当初、自分が使い慣れたフレームワークやロジック、KPIを用いて綺麗に課題を解決しようと試みます。
しかし、現地のプレイヤーから「それ、表面的な数字の話でしょ?本当にうちの街のためになるの?」と本質を突かれ、ぐうの音も出なくなるケースが後を絶たないと言います。

この「これまで培ってきた自分の有能感がへし折られる瞬間」こそが、既存の常識を捨て去る強力なアンラーニング(学習棄却)の呼び水となります。 

2.「効率」の限界と、非効率に隠された価値(東吉野村・狩野氏の視点) 

一方で狩野氏は、「地方での事業推進において、最も重要なのは『数字』ではなく『手触り感のある関係性』と『おせっかい』である」と語りました。 

東吉野村での買い物支援バス「ひよサポ」の事例が示すように、高齢化率59%の地域では、最先端のMaaS(次世代移動サービス)やスマートな運行管理よりも、車内での泥臭い会話から住民の本当の困りごとを拾い上げる「非効率なプロセス」の方が圧倒的に機能します。

「都市のスマートなビジネスに慣れた人ほど、この非効率の中に隠された価値に気づいた時に大きな衝撃を受ける。合理性だけで割り切れない現場に身を置くことで、参加者の『ビジネスの物差し』が強制的にアップデートされる」と、狩野氏はフィールドが持つ独自の価値を強調しました。

3.葛藤の先にある「当事者意識」の覚醒(総括) 

お二人のセッションを通じて共通していたのは、越境学習とは単なる「地方体験」ではなく、「アイデンティティの揺らぎ」を伴う他流試合であるということです。

  • 都市のロジック vs 地域のロジック:データや企画書の美しさよりも、「あなたは誰で、なぜここにいるのか」という人間性が問われるアウェイの環境。
  • 「ないものねだり」から「あるもの探し」へ:予算もインフラもない環境で、「あれがない」と不満を言うのをやめ、地域にある歴史や資産をどう再定義するかという思考の転換。

誰かが決めた目標を追うことに慣れた受講生は、地域で「で、あなた自身はどうしたいの?」と突きつけられて初めてフリーズし、そして深く葛藤します。

お二人は、「この強烈な問い直しを乗り越えることで、指示待ちの『優秀な社員』から、自ら問いを立てて動く『変革の当事者』へと、参加者の目の色が変わっていく」と、葛藤の先にある変容のリアルを締めくくりました。

他流試合を通じた「変身資産」の獲得

個人の変容を最大化し、行動変容へと着地させるための具体的な仕組みが、対話型学習モデルを取り入れた越境学習プログラムである「越境サーキット」です。

3か月・20時間の「他流試合」

越境サーキットは、3〜5名の異業種混合チームでスタートアップ企業のリアルな経営課題に挑みます。一人のリーダーに頼らない「シェアド・リーダーシップ」の考え方を取り入れ、全員が当事者として意思決定やリーダーシップの発揮を行います。

「変身資産アセスメント」による可視化

参加者はプログラムの初期に、「変身資産アセスメント」と呼ばれるアセスメント診断を行います。『ライフシフト』の概念に基づく本診断では、「変化し成長し続けるための意志・能力」を可視化します。「心のアクセル(知的好奇心など)」と「心のブレーキ(同調圧力への屈服など)」を客観的に把握することで、自身の行動特性を自覚し、戦略的なスモールステップ(小さな行動目標)の設定を可能にします。

参加者の前後変化データから見えてくる「越境チーム活動」の価値

参加者の中心は30代〜40代の中核層(約7割)であり、役職別に見ても一般層から管理職まで幅広く分布しています。参加者層ごとのアンケートを分析すると、「越境チーム活動」について、以下の記述が多くなっています。

  • 管理職層:社外視点を取り入れた意思決定力の向上(インクルーシブリーダーシップ)や、組織マネジメントの視野拡張(自組織を俯瞰した視点)。
  • 若手・一般層:視野の拡張と、実践を通じた問題解決能力の向上。他社メンバーとの協働経験。

このデータは、次世代リーダー候補たちが社内では得られない「他流試合」を渇望している現実を映し出しています。

価値の共創、そして還流モデルの構築へ

地域への越境は、単なる「社員のリフレッシュ」や「社会貢献」ではありません。それは、企業が自社のパーパス(社会的存在意義)を地域社会というリアルな現場で再定義する、極めて戦略的な投資となります。

これからの地域×越境モデルは、外部から地域を助ける「支援」のフェーズを超え、互いに刺激し合う「共創」へとシフトします。越境者のウェルビーイング向上と、地域側の刺激・成長が双方向で起こる関係性を築くこと。そして、コーディネーターを介して若者が関係人口として還流する「地域資産化」を実現すること。これらを通じて、個人、組織、そして社会システムそのものが豊かになっていきます。

越境学習を一時的な「外部研修」として終わらせるのではなく、社員が地域で得た「強烈な違和感や当事者意識」を、いかに自社の組織変革のエネルギーとして戦略的に取り込んでいくか――。これこそが、これからの人事・経営層の皆様とともに考えていきたい重要なテーマです。

セミナーでは、地域というフィールドだからこそ得られる学びと、企業・地域双方にとっての価値について、多くの示唆が共有されました。

エンファクトリーではこれからも、地域に限らず、多様な価値観や環境に触れる越境経験を通じて、一人ひとりの変身資産を育み、人と組織の変化を支援していきます。

 

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