既存事業の停滞突破や新規事業創出に向け、多くの企業で「イノベーション人材」の育成が急務となっています。しかし、「何から手を付ければよいかわからない」「研修をやっても現場でイノベーションが起きない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
イノベーション人材を再現性高く育てるには、人材の「3つのタイプ」を理解し、理論と実践を往復できる環境を整えることが重要です。
本記事では、イノベーション人材の定義やタイプ別の特徴、具体的な育成施策から導入企業の成功事例まで詳しく解説します。
目次
企業に必須のイノベーション人材とは
イノベーション人材とは、わかりやすくいえば「新しい価値を創造し、企業の成長を牽引できる人材」のことです。
まずは、イノベーション人材の定義について確認していきましょう。
イノベーションとは
「イノベーション」とは、従来にない新しい価値を生み出すことを指します。新技術の開発やビジネスモデルの刷新などが、ビジネスにおける「イノベーション」の一例です。
最近のイノベーションには、以下が挙げられます。
- 生成AI・大規模言語モデル(LLM): 知識労働やクリエイティブ分野の構造変化。
- 空間コンピューティング(XR): 物理空間とデジタル情報を融合するデバイスの進化。
- 完全自動運転(Waymo等)の商用化: ドライバーレスの無人タクシーサービスの一般化。
- mRNA・遺伝子編集技術: ワクチン開発の高速化や精密医療(プレシジョン・メディシン)の実用化。
イノベーションは、一度起こると世界中に大きな影響を与えます。世界知的所有権機関(WIPO)が毎年発表している「グローバル・イノベーション指数(GII)」における主要国の順位は以下の通りです。
| 国 | 最新順位 | 前年順位 |
| スイス | 1位 | 1位 |
| スウェーデン | 2位 | 2位 |
| 米国 | 3位 | 3位 |
| 韓国 | 4位 | 6位 |
| シンガポール | 5位 | 4位 |
| 日本 | 12位 | 13位 |
スイスやスウェーデンをはじめ、世界的なIT企業を擁する米国やアジア圏の主要国(韓国・シンガポール)が常に上位を占めています。
日本も上位圏内には位置しているものの、IT・デジタル活用の遅れや労働生産性の低さ、新規事業創出のスピード感など、依然として多くの課題が指摘されています。
参考:WIPO Global Innovation Index
イノベーション人材の定義
イノベーション人材とは、新しいアイディアを着想し、それを形にできる人材のことです。
イノベーション人材には、次のような特徴があります。
- 新しいアイディアを生み出すのが得意
- 変化を恐れない
- 失敗を前向きに捉えることができる
- アイディアを具体化することが得意
これらの素質には生まれつきの要素も関わってきますが、発想力や前向きなマインドなどは後天的に身につけることも可能です。研修などの人材育成施策に力を入れることで、社内にイノベーション人材を増やすことができます。
イノベーション人材が必要とされている背景
昨今、イノベーション人材のニーズがますます高まっています。文部科学省が2024年に公表した資料によると、イノベーションが必要な背景は以下の5つです。
- 少子高齢化の進行
- 日本の成長停滞
- 社会変化の加速(生成AI・市場のグローバル化)
- 価値観の変化
- 研究力・技術力・起業力の課題
日本では少子高齢化が進行しています。1年間の大学進学者数は現在約65万人とされていますが、2040年には約51万人まで減少すると予想されています。多くの業界で働き手が不足しますし、国内市場の縮小も避けられません。こうした事情から、海外を含めた新たな市場を開拓できるイノベーション人材の価値が高まっているのです。
また、生成AIを始めとする技術革新も重要な背景の一つです。今後は、ルールに沿うだけの単純な定型業務はAIによって代替されると言われています。一方、発想力や複雑な思考力が求められるイノベーション創出は、人間にしかできない仕事です。
参考:文部科学省「2050年を見据えた 「シン・ニッポンイノベーション人材戦略」 (案) 」
イノベーション人材の3つのタイプ
クレイトン・クリステンセン氏らのイノベーション研究(『イノベーションのDNA』等)やデザイン思考のフレームワークをベースに、一般的にイノベーション人材は以下の3つのタイプに整理されます。
- デザイナータイプ
- デベロッパータイプ
- プロデューサータイプ
3つのタイプはいずれもイノベーション創出に欠かせませんが、活躍する場面が異なります。それぞれ、以下のような場面で力を発揮するのが特徴です。
| タイプ | 担当フェーズ | 主な役割 |
| デザイナータイプ | 上流 | 新しいアイディアを着想する |
| デベロッパータイプ | 中流 | アイディアを具体化する |
| プロデューサータイプ | 下流 | 周囲を巻き込みながら事業化する |
イノベーション人材の3タイプを解説します。
デザイナータイプ
デザイナータイプは、新しいアイディアや構想を生み出すことが得意な人材です。
日常生活でも些細な改善点に敏感で、「こうすればもっと良くなるのではないか」という発想を次々と思いつきます。こうしたタイプは、イノベーションの最初の起点を生み出す貴重な存在です。
一方、思いついたアイディアを形にするところまでは苦手な場合もあります。「面白いことを思いついたけれど、どうやって実現すればいいかわからない」という状態で止まってしまうときは、後述するデベロッパータイプやプロデューサータイプとの連携が重要です。
デベロッパータイプ
デベロッパータイプは、アイディアを具体的な形にする能力が高い人材です。高度な技術やノウハウを持っており、アイディアを具体的な形に落とし込むことができます。
自分でコーディングができるエンジニアや、設計ができる技術職などはこのタイプが多いです。高い専門性と粘り強さを武器に、試行錯誤を重ねながらサービスや製品の完成度を高めていきます。
プロデューサータイプ
プロデューサータイプは、プロジェクト全体を統括する人材です。
どれほど優れたアイディアや技術があっても、それを事業として成立させなければイノベーションにはつながりません。アイディアと技術を人々に届けることで、はじめてイノベーションは完結します。そのためには、高いコミュニケーション力や交渉力、リーダーシップを持った人材が必要です。
プロデューサータイプは、こうした推進力に長けています。社内外のステークホルダーとの調整や、必要な資源の確保、スケジュール管理などを行い、事業化を推進していくのが特徴です。
イノベーション人材を育成する方法
イノベーション人材を育成するには、以下の3つの取り組みが有効です。
- イノベーションを起こす社内風土を醸成する
- 長期的な育成計画を策定する
- 理論と実践を反復する
これらの取り組みを進める際には、ぜひ長期的な視点を意識してみてください。イノベーションには偶発的な要素が絡んでいるため、「特定の能力を磨けば必ずすぐにイノベーションが起こる」というわけではありません。時間をかけて組織風土を整えておくことが、イノベーションを起こすためのポイントです。
ここからは、イノベーション人材を育成するための具体的な方法を解説します。
挑戦を後押しする社内風土を醸成する
イノベーション人材を育てるには、挑戦を後押しする組織文化をつくることが大切です。社員が挑戦できる環境を整えておかないと、どんなにポテンシャルの高い社員でもイノベーションに向けた行動を起こしづらくなってしまいます。
具体的には、以下のような方法が有効です。
- 評価制度の整備
- 外部研修の活用など社外での学び・挑戦の後押し
評価制度の整備では、失敗を許容するスタンスを伝えることがポイントです。減点方式ではなく加点方式の評価にする、目先の成果だけでなく過程も評価項目に加えるといった方法が考えられます。
また、外部研修や社外プログラムの活用を後押しするなど、社内だけでは得られない知見を取り入れる仕組みづくりも有効です。自社内だけでは得られない経験や視点を取り入れる選択肢(越境的な学び)を増やすことで、社員の挑戦意欲やイノベーションマインドが醸成されます。
自社での制度設計や運用ステップにハードルを感じる場合は、以下のガイドブックも参考にしてみてください。
長期的な育成計画を策定する
イノベーション人材を育成する場合は、粘り強く取り組むことが大切です。以下の手順に沿って、長期的な育成計画を練りましょう。
- 自社が求めるイノベーション人材の理想像を明確にする
- スキルを積み上げるためのロードマップを策定する
- 具体的な研修プログラムを設計する
まずは、自社の求める人物像を明確化します。先ほど解説した3タイプのうち、どのような人材が足りていないのかを把握しましょう。
スキルのロードマップを策定する際は、どの段階でどのようなスキルを身に着けておくべきなのかという目標を明確化しておくことが大切です。研修プログラムを設計する際は、育成対象者の上司や関連部署の上長とも連携しながら、全社的にイノベーション人材の育成に取り組んでいくよう意識してみてください。
理論と実践を反復する
イノベーション人材を育てるためには、学んだ知識を実際の業務で試し、その結果から学びを深めるというサイクルを回すことが大切です。
座学で理論を学ぶだけでは、実際の場面で応用する力が身につきません。例えばイノベーションが起こるまでの過程を丸暗記しても、実務でイノベーションは起こせません。
一方、経験だけに頼っていると、成功や失敗の要因を体系的に理解できなくなってしまいます。たまたまイノベーションにつながるような行動が起こせたとしても、「なんとなくうまくいった」となってしまい、再現性のある取り組みにはならないのです。
理論と実践を反復する具体的な方法は、以下の通りです。
| 区分 | 社内 | 社外 |
| 理論を学ぶ | 研修の実施 | 外部セミナー異業種交流会 |
| 実践する | プロジェクトアサイン配置転換 | 外部研修・社外プログラムの受講越境学習 |
理論を学ぶためには、研修の実施や外部セミナーなどへの参加が効果的です。
実践する方法は多岐にわたります。社内で実践するのであれば、プロジェクトアサインや配置転換を通じて、新規事業の創出に関わってもらうといった方法があります。
また、社外で経験を積んでもらうのも非常におすすめです。異質な環境で働くことで、既存の価値観から脱却し、イノベーションにつながる発想を得ることができます。新規事業の創出といった大掛かりなイノベーションだけでなく、日常業務の改善につながる小さなイノベーションの種を見つけることができるかもしれません。
具体的な方法としては、先ほど触れた社外での学び(外部研修の受講)のほか、今から解説する「越境学習」が挙げられます。
イノベーション人材の育成には越境学習もおすすめ
イノベーション人材の育成において「社外の現場で実践的な経験を積ませる」ことは非常に効果的です。 しかし、「社外で実践させたいものの、自社でいきなり副業や兼業(複業)を解禁するのはハードルが高い」とお悩みの企業も多いのではないでしょうか。 そこでおすすめなのが、副業解禁のステップを踏まずに社外での挑戦機会を作れる「越境学習」という育成方法です。
越境学習とは、普段とは異なる環境(アウェイ)に身を置いて学ぶことを指します。法政大学の石山教授は、越境学習を次のように定義しています。
何かの境界を超えて学ぶことであり、自分の心の中のホームとアウェイの境界を行き来することで学びが得られるもの
大企業における人材育成では、社員がベンチャーやスタートアップ企業へ数ヶ月間留学し、実際に働きながら経験を積む手法が注目を集めています。
越境学習の場では、これまで当たり前だった社内ルールや意思決定のスピード、予算規模などの前提が通用しません。限られたリソースの中で自ら判断し行動せざるを得ないアウェイの環境に置かれることで、既存の思考フレームや固定観念から脱却し、イノベーション創出に必要な発想力や粘り強さが磨かれます。
実践型イノベーション人材育成プログラムなら「複業留学」「越境サーキット」
「社外で実践させたいものの、副業解禁や自社での制度構築はハードルが高い」という企業に向けて、株式会社エンファクトリーでは実践型の越境学習プログラムを提供しています。
- 複業留学: 大企業の社員がベンチャー企業のリアルな経営課題に参画し、実践的なスキルと主体性を養う留学型プログラム
- 越境サーキット: 異業種の社員同士でチームを組み、スタートアップが提示する本気の課題解決に挑む短期集中型プログラム
自社(ホーム)の安全圏を離れ、多様なメンバーと協働しながら成果を追う体験を通じて、イノベーションの起点となる「デザイナー」「デベロッパー」「プロデューサー」それぞれの発想力と実践力を短期間で引き出します。
「自社でどのように越境学習を導入すべきか分からない」「導入手順や設計ポイントを知りたい」という人事担当者様向けに、ガイドブックをご用意しています。ぜひ以下のリンクからダウンロードしてご活用ください。
越境学習に成功した企業事例3選
ここからは、越境学習に成功した企業事例を3つご紹介します。イノベーション人材の育成に越境学習を活用したい方は、ぜひ参考にしてください。
【事例1】中部電力株式会社|周囲を巻き込み、スタートアップとの共創を推進するプロデューサー層の醸成
普段からスタートアップ企業との接点が多かった中部電力株式会社の内藤様。スタートアップ企業の課題解決に取り組むという越境学習のプログラムに強い興味を持ち、越境学習への参加を決めました。
越境学習の期間中には、スタートアップの一員になりきって、何もない状態から価値を生み出す経験を積んでいただきました。スタートアップならではのスピード感はもちろんのこと、限られたリソースの中で各参加者が協力しながら課題を解決していく様子が印象に残ったそうです。
越境学習の効果について、参加後のインタビューでは次のようにお答えいただいています。
研修後、 「自分がオープンマインドでないと何も生まれない」と実感し、行動が大きく変わりました。 この経験は社内外で共有し、スタートアップ関係者からは驚きの声が、社内では部下や同僚に「めちゃくちゃ良かった」と勧め、応募を促しています。
イノベーションを起こすためには、外部を巻き込みながら行動する姿勢が欠かせません。特に、本記事で解説した「プロデューサータイプ」として活躍するためには、周囲とのコミュニケーションがイノベーション人材としての鍵を握っています。
本事例は、異業種の人材と交流することでコミュニケーション能力を磨き、普段のスタンスにも変化が生まれた、イノベーション人材育成の成功事例と言えるでしょう。
本事例の詳細は、次のインタビュー記事からご覧いただけます。
【事例2】大日本印刷株式会社|異質な環境への挑戦が引き出した、アイデアを形にするリーダーシップ
新規事業開発のプロジェクトリーダーを務めている、大日本印刷株式会社の秦様。普段から新規事業開発に携わる中で、ゼロイチを生み出すベンチャー企業の活動に強い興味を持ち、越境学習の参加を決めました。
秦様が留学したのは、地域への移住者を増やし定着させることで地域の活性化やまちづくりに取り組む「株式会社みんなのまちづくり」です。留学期間中は、宿泊施設の手配や体験者の受け入れ、市の指定管理の仕事への応募といったさまざまな業務に携わりました。
越境学習を経て、自分の思いを堂々と表現できるようになったそうです。インタビューでは、次のようにお答えいただいています。
今は自分の中にミッションやビジョンをしっかりと持ち、それを堂々と表現することができるようになったと思います。唐突にアイデアを出すことも増え、そうしたアプローチが許されることに気づきました。
イノベーションを起こすうえでは、新しいアイディアを着想し、それを周囲の人に伝えることが必要不可欠です。こちらも、異質な環境に飛び込むことで、イノベーション人材としてのポテンシャルを一段と高めることに成功した成功事例といえます。
本事例の詳細は、次のページからご覧ください。
【事例3】株式会社Spomee|大手企業社員との共創から新たな事業アイデアを生み出した受け入れ事例
最後にご紹介するのは、越境学習の受け入れ企業の代表からの声です。
株式会社Spomeeの代表取締役である松尾様は、大手企業との関係構築を進めていきたいと考えていました。一方、同社には大手企業での実務経験者が少なく、大手企業の課題感の把握が難しいという課題がありました。
そこで、越境学習の受け入れを通じて、大手企業の社員との交流を進めています。参加者にはチームビルディングに関する課題を提示し、異業種の交流を通じて新しい価値を共創していくことを目指しました。
越境学習の手応えについて、インタビューでは次のようにお答えいただいています。
課題提示の際に細かいディテールに落とし込まないよう心掛けたことで、多少枠から外れたアイデアが出ました。私たちは既存のサービスを拡張するアイデアに加え、枠に捕らわれないまったく異なるアイデアを得ることができたことは、大きな発見となりました。
現在は、越境学習のプレゼンで出たアイディアをもとにした新サービスの開発に着手しているそうです。越境学習は参加者のみならず、課題を提示した企業もイノベーションにつながる新しい発想を得るチャンスと言えます。
本事例の詳細は、次のページからご覧ください。
まとめ
イノベーション人材について、定義や育て方、育成の成功事例を紹介しました。
イノベーション人材とは、これまでにない新しい発想で価値を創造できる人材のことです。先の見通しづらい現在において、その価値はますます高まっています。
イノベーション人材を育成するためには、イノベーション人材の定義や3タイプを理解したうえで、自社に合った長期的な育成プランを立てることがポイントです。その際には、理論と実践を繰り返す仕組みづくりにも力を入れましょう。社外で実践してもらう際には、越境学習に取り組んでもらうのがおすすめです。
イノベーション人材を計画的に育てる第一歩として、ぜひ本記事の内容をお役立てください。






