【事例あり】経験学習モデルとは?人材育成に活かすときのポイント、実践事例を解説

越境学習

人材育成に携わる方なら、「経験学習」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

経験学習は、研修企画や人事施策の立案など、さまざまな場面で役立つ考え方です。今回は経験学習モデルについて、理論や最新の研究成果をもとにわかりやすく解説します。人材育成に活かす際のポイントや実践事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

経験学習とは?

経験学習とは、経験を重視しながら次につながる学びを得るプロセスのことです。

立教大学教授の中原淳氏によると、経験学習の特徴は以下の2点に集約されます。

  • 学習における経験・実践の重視
  • 経験の内省

ここからもわかる通り、経験や実践を積極的に行い、それらをあとから振り返ることが経験学習の本質です。

経験学習にはいくつかの関連する理論がありますが、その中でも特によく知られているのは「7:2:1の法則」です。7:2:1の法則では、人間の学習は以下の割合で行われるとされています。

  • 70%……個人の経験(実務経験)
  • 20%……他者とのかかわり(上司や同僚からのフィードバック)
  • 10%……オフィシャルな教育(研修など)

もちろん経験だけを重視すればよいわけではありませんが、この法則からも「学びには実践が重要である」という点がわかるでしょう。経験学習は、こうした法則に基づく学習プロセスです。OJTやジョブローテーションなどの一般的な人事施策も、経験学習を促進するために行われています。

(※)中原淳, 「経験学習の理論的系譜と研究動向」, 人材と育成キャリア開発 (2013)

PDCAとの違い

経験学習とPDCAでは、目的とプロセスがそれぞれ異なります。具体的に違いを整理すると、以下の表の通りです。

目的プロセス
経験学習能力開発経験→観察→概念化→実験
PDCA目標達成や業務改善計画→実行→評価→改善

経験学習は、個人の能力開発を目的とした学習理論です。このあと詳しく解説しますが、経験を概念化し、次につながる学びを得ることが重視されています。

一方、PDCAは目標達成や業務改善を目的としたフレームワークです。次につながるノウハウを得るということよりも、目の前の業務を改善したり、目標を達成したりすることを重視します。

体験学習との違い

経験学習と体験学習の違いは、「内省」が必要かどうかです。

経験学習は、内省が必要です。例えばOJTに取り組む際に、目の前の仕事をこなすだけでは経験学習になりません。OJT中の業務を振り返り、そこからどういった学びが得られるのかを自分で咀嚼することで、はじめてOJTは経験学習となります。

しかしながら、体験学習では必ずしも内省を必要としません。何かに触れることそのものを「学び」と捉えるのが体験学習の特徴です。また、経験学習と比べると、より身体的な経験を重視する傾向があります。「森で釣りをして自然を感じる」「陶芸教室で文化体験をする」といったように、体験することそれ自体を学習とみなすのが体験学習です。

経験学習モデルとは?

経験学習モデルとは、経験学習におけるプロセスを以下の4つに分けて体系化したものです。

  • 具体的経験
  • 内省的観察
  • 抽象的概念化
  • 能動的実験

このモデルは、アメリカの教育理論家であるデービッド・コルブ氏によって提唱されました。日本では、北海道大学教授の松尾睦教授が研究の第一人者として知られています。

ここからは、経験学習モデルにおける4つのプロセスについて詳しく見ていきましょう。

具体的経験

具体的経験は、新しい仕事について経験を積む段階です。経験学習において学びの源泉となる重要な段階で、ここでいかに質の高い経験を得られるかが、このあとの学びの質を大きく左右します。

質の高い経験をするためには、以下の2点が重要です。

  • 本人にとって新しい経験か?
  • 主体的な経験か?

例えば同じ業務を何年も繰り返している状態は、経験学習モデルにおける「経験」とは呼べません。また、単にマニュアルに書いてあることをこなすだけというのも、経験学習としては質の低い経験です。上述の通り、「新しいことを」「主体的に」こなすという2点を意識する必要があります。

内省的観察

内省的観察は、具体的経験によって得られた成果を個人で振り返るステップです。「リフレクション」「反省的思考」などと呼ばれることもあります。

内省は、一度業務から離れて行います。例えばOJTに取り組んでいる際には、一日の最後に何らかの振り返りを行うでしょう。その時間が、経験学習モデルにおける「内省的観察」に相当します。内省的観察を効果的に進めるためには、「KPT」「YWT」などのフレームワークを活用するのもおすすめです。

抽象的概念化

抽象的概念化とは、具体的経験と内省的観察の結果をもとに、他の状況でも適用できるようなルールやノウハウを見出すステップです。

例えば、OJTの一環として客先営業を行い、残念ながら商談が失敗してしまった場合を考えます。このとき、本人の中ではいくつかの反省点があるでしょう。この反省点をもとに、「商談成立の直前ではレスポンスの速さが重要だな」「商談時には斜めに座ると打ち解けやすいな」といった教訓を見出すプロセスが、この抽象的概念化です。

ちなみに、ここで得られる教訓は一般的に「汎用性」と「質」のトレードオフになります。特定の状況にしか適用できない学びはなかなか活かす場面がありませんし、抽象的すぎて実際の場面に当てはめられない学びは実効性がありません。両者がバランスよく担保された学びを生み出すことが、このステップの肝です。

能動的実験

能動的実験とは、抽象的概念化で得た教訓が本当に正しいのかを検証するステップです。

抽象的概念化で見出したルールやノウハウは、あくまでも仮説に過ぎません。そこで、実際にそれらが正しいのかどうかを、能動的実験によって検証する必要があります。例えば先述したOJTの例であれば、見出した仮説を次の営業活動で試してみて、実際に通用するのかを確かめます。

経験学習モデルを人材育成に取り入れるときのポイント

経験学習モデルを人材育成に取り入れる際のポイントは、以下の4つです。

  • 主体的な気づきを促す
  • 組織の心理的安全性を高める
  • 新しい経験を積んでもらう
  • 内省・リフレクションの機会を意識的に作る

ここからは、経験学習モデルを実践する際に意識したいポイントを解説します。

主体的な気づきを促す

経験学習モデルを実践する際は、主体的な気づきを促すのが大切です。

例えばOJTで業務内容を上司と一緒に振り返る際、上司はつい部下へアドバイスしたくなる場面もあるでしょう。しかし、経験学習で求められているのは、あくまでも「内省的」な観察です。他者からの指摘を受けても、その後の抽象的概念化や能動的実験は効果的に進みません。

しかし、「アドバイスしないなら、上司はどう部下の経験学習に関わればよいのか」と思う方もいらっしゃるでしょう。この点について、北海道大学教授の松尾睦教授は、「上司が部下へ仕事を割り当てる段階が重要だ」と指摘しています。

松尾教授が言及しているのは、特に以下の2点です。

  • 少し背伸びすればできる程度の仕事にアサインする
  • アサインする際に、仕事の意義や期待感、成功のためのポイントを伝える

上記の2点からもわかる通り、上司は部下の学びをマイクロマネジメントしようとするのではなく、部下の経験学習サイクルが回るような仕掛けを間接的に作るのが大切です。

組織の心理的安全性を高める

経験学習サイクルを回す際には、組織の心理的安全性を高めることも意識しましょう。

心理的安全性とは、「この組織では率直に意見を言っても大丈夫」「失敗しても受け入れてもらえる」といったような、組織に対する安心感のことです。もし心理的安全性が低いと、「失敗したら白い目で見られるのではないか」といった心理が生まれるため、メンバーは新しい業務にチャレンジしづらくなります。その結果、経験学習サイクルが回るきっかけがなくなり、メンバーの経験学習は思うように進まなくなるでしょう。

「この組織であれば失敗しても大丈夫」といった安心感が、メンバーの主体的な行動を生み、経験学習サイクルを回すきっかけを作りやすくするのです。

新しい経験を積んでもらう

経験学習サイクルを回すためには、新しい経験を積んでもらうことが肝心です。

経験学習の起点となるのは、1つめのステップである「具体的経験」ですが、この「経験」という言葉はしばしば誤解されています。

経験学習モデルを提唱したコルブ氏は、もともと「経験」を以下のように定義しました。

「新しい経験や状況に直面するか、再解釈するプロセス」

つまり、今までの経験を単になぞるだけでは、経験学習モデルにおける「経験」とは呼べないということです。「同じ部署で5年間勤め続けている」というだけでは、いつの間にか経験学習サイクルによる成長が滞ってしまうおそれがあります。

こうした状況の打開策としておすすめなのが、以下の2つです。

  • ジョブローテーション
  • 越境学習

ジョブローテーションを取り入れれば、社員は定期的に新しい仕事へ触れることができます。越境学習も、社内にない業務に挑戦できるため、コルブ氏の提唱する「経験」を得るうえで大変有効です。越境学習であれば人事異動も必要ないため、はじめの小さなステップとしても活用できます。

これらの施策をうまく取り入れて、社員が定期的に新しい環境へチャレンジする仕組みを作りましょう。

なお、弊社エンファクトリーでは、越境学習を支援するサービス「複業留学」を提供しています。複業留学について興味がある方は、以下のページをご確認ください。

越境型研修サービス「複業留学」 | ピアラーニングで越境学習を組織の力に 

内省・リフレクションの機会を意識的に作る

経験学習サイクルを実践する際には、内省やリフレクションの機会を確保しましょう。

内省やリフレクションは、具体的な経験から抽象的な概念化へ移行する際の「つなぎ」のような役割を果たします。ここがおざなりになってしまうと、せっかくの新鮮な経験が消化不良を起こしかねません。「楽しかったな」で終わらせないためには、意識的にメンバーの内省を支援するのが大切です。

内省やリフレクションの支援にはさまざまな施策が考えられますが、例えばエンファクトリーでは専用社内SNSツールを用いて、以下のような支援を行ってます。

  • レポートの共有
  • コーチングの提供
  • 社内共有会の設定
  • ピア同士での学び合いの促進

単に「内省してくださいね」と伝えるのではなく、内省やリフレクションが自然と進むような機会を積極的に提供するのが大切です。

経験学習における内省・リフレクションのポイント

経験学習を取り入れる際は、内省やリフレクションが肝心であることがわかりました。それでは、これらを実践する際にはどういった点に気をつければよいのでしょうか。

内省やリフレクションを行う際には、以下のポイントを意識してみましょう。

  • 失敗と成功をどちらも振り返る
  • リフレクションの時間を確保する
  • 批判やアドバイスは避ける

ここからは、内省やリフレクションの理論をもとに、それぞれを実践する際のポイントを3つ解説します。

失敗と成功をどちらも振り返る

リフレクションの際には、失敗と成功の両方をバランスよく振り返るのが大切です。成功ばかり振り返っていても次につながる学びは得られませんし、失敗ばかり振り返るとモチベーションや成長実感の低下につながります。

失敗と成功をバランスよく振り替えるためには、「KPT」「YWT」といったフレームワークを活用するのがおすすめです。

KPTとは、以下の3つの観点からリフレクションを行うフレームワークです。

  • K(Keep)……継続
  • P(Problem)……問題
  • T(Try)……挑戦

成果につながった行動は「継続」として振り返り、それ以外の失敗は「問題」として整理して、次につながる挑戦を導きましょう。

もう一つ、「YWT」というフレームワークも紹介します。YWTとは、以下の3つの観点でリフレクションを行うフレームワークです。

  • Y……やったこと
  • W……わかったこと
  • T……次にやること

シンプルでわかりやすいので、初めてリフレクションを行う際におすすめです。

リフレクションの時間を確保する

リフレクションを実施する際は、決まった時間を確保するのがポイントです。例えば、以下のような形でリフレクションを習慣化しましょう。

  • 一日の最後に15分の振り返りタイムを設ける
  • 毎日日報を書き、KPT(YWT)のフレームワークに沿って報告してもらう
  • 1週間に1回のミーティングで、リフレクションの結果を周囲と共有する

新しい経験を追い求めると、目の前の仕事をこなすことで精一杯になり、ついリフレクションが後回しになりがちです。しかし、丁寧なリフレクションがなければ、単に新しい仕事をしただけで終わってしまいます。リフレクションを忘れないような仕組みを作ることで、経験学習サイクルの効果を最大化できるのです。

批判やアドバイスは避ける

リフレクションを成功させるためには、批判やアドバイスを避けることも重要です。

経験学習サイクルで新しい業務に挑戦した際には、何らかの失敗をすることもあるでしょう。しかし、こうした失敗を他者が指摘するのは避けるべきです。本人の主体的な内省を阻害してしまいますし、何より組織の心理的安全性が低下する原因になります。

リフレクションに介入するのであれば、部下を意識的に褒めたほうが効果は高いです。実際、リフレクションを効果的に支援できている上司は、部下の成果を積極的に認めて自信をつけさせていることが研究によって明らかになっています(※)。

※永田正樹, “リフレクションを中心とした経験学習支援 ――マネジャーによる部下育成行動の質的分析――”, 日本労務学会誌 (2021)

経験学習の実践事例

エンファクトリーでは、越境学習を通じて社員の経験学習をサポートしています。ここからは、越境学習によって効果的な経験学習を実現した事例を3つ紹介します。

経験学習の具体的な進め方について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

3ヶ月間で新たな視点から学びを得た事例

株式会社オリエントコーポレーションの笠松様は、他者の風土を体感し、幅広い視野を獲得したいという思いから、3ヶ月間の複業留学へ参加しました。

本事例では、留学先で以下の3つの業務に取り組んでいただいています。

  • 情報セキュリティに関する業務内容・体制の見直し
  • DX人材育成に関する市場調査と報告書の作成
  • CX戦略の推進

笠松様にとってはどれも新鮮な業務でしたが、新しい経験が効果的な学びにつながったと実感したそうです。複業留学で得た学びについて、インタビューでは以下のようにお答え頂いています。

DX推進やCX戦略などの未経験分野について、座学で得た知識は多少ありましたが、実際に業務の中で、その知識を実践されているところを体感し、理解が深まるとともに、経験不足も実感し、ますます 継続的なリスキリングに取り組もうという意識が高まりました。

過去の経験をなぞるだけでなく、新しい業務に挑戦することで経験学習のきっかけをつかんだ成功事例です。本事例の詳細は、以下のページからご確認ください。

複業留学体験レポート「自分のスキルを試す3ヶ月間:新たな視点からの学び」

新規事業創出へ挑戦し、自信と新たなスキルを獲得した事例

コニカミノルタ株式会社の京極様は、医療向け装置のシステム技術開発リーダーを務めていました。京極様の部門では、新規事業創出をミッションとしています。しかし、社内では事業開発に関する知見を得る機会が限られていると感じていました。

そこで、事業創出のポイントやプロジェクトの進め方を学ぶため、エンファクトリーの実施する複業留学への参加を決めました。留学先では、オンライン診療サービス事業の立ち上げに携わり、競合分析からリリースまですべての段階に関わっています。

留学の結果、ベンチャー企業ならではの「まずやってみる」というチャレンジ精神に感銘を受け、普段の業務でも「一歩踏み出してみる」という自信がついたそうです。経験学習を進めるために必要なマインドの獲得に成功した事例といえます。

本事例について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

複業留学体験レポート「挑戦から得た自信と新たなスキル」

自分の強みを再発見して自信をつけた事例

株式会社DNPデジタルソリューションズの藤村様は、「現場感覚を失いたくない」「スタートアップの厳しい環境で、自分の知識がどれほど通用するのか確かめたい」という思いから、エンファクトリーの実施する越境学習へ参加しています。

本事例では、主に事業計画の策定支援に携わっていただきました。普段とは異なる業務でしたが、積極的に情報のインプットを進めることで、財務や組織体制に関する議論の下地づくりを行っています。

留学の成果について、藤村様からはインタビューで以下のようにお答えいただきました。

複業留学を通じて、自分のキャリアに対して前向きになれたと感じています。「腹が据わった」というか、環境が変わっても、今までやってきたことが自分の強みであり、それを活かせばどんな状況でも乗り切れるという自信が付きました。

再三お伝えしているように、経験学習サイクルを回すためには、新しいことへ挑戦するチャレンジ精神や自信が必要不可欠です。本事例では越境学習を機に、経験学習サイクルに必要な自信をつけることに成功しました。

本事例の詳細について知りたい方は、以下のページをご覧ください。

複業留学体験レポート「自分の強みを再発見した3ヶ月の挑戦」 

まとめ

経験学習サイクルについて、定義やポイント、事例などを幅広く解説しました。

人間の学びは、実に70%が経験から生まれると言われています。一方、人材育成施策はどうしても対面研修やオンライン研修でのインプットが中心になり、実践を通じた学びは現場任せになりがちです。

経験から最大限の学びを得るためには、リフレクションの強化を始めとした経験学習の支援が欠かせません。ぜひこの記事の内容を参考に経験学習への理解を深め、社員の経験学習サイクルを回す施策につなげてください。

越境学習にご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。

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