昨今、デジタル技術を用いてビジネスモデルの変革を目指す企業が増えてきています。こうした取り組みは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれていますが、その成功の鍵を握っているのがDX人材の育成です。
DX人材には幅広いスキルや知識が求められるため、「DX人材を育成したいが、どのようにすればいいのかわからない……」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、DX人材を育成するための方法やDX人材育成にありがちな失敗例などを徹底的に解説します。「社外での実践」という新しい取り組みでDX人材育成を成功させた事例も紹介するので、DX人材育成でお悩みの方はぜひ最後までお読みください。
DX人材とは
まずは、DX人材の定義からおさらいしておきましょう。DX人材とは、「DXを推進するために求められる知識やスキル、マインドを身につけている人材」のことです。
経済産業省が2024年7月に改訂した「デジタルスキル標準」では、DX人材に必要なマインドやスキルが以下のようにまとめられています。
- マインド・スタンス……社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要なマインド・スタンスを知り、自身の行動を振り返ることができる
- Why……DXの重要性を理解している
- What……DX推進の手段としてのデータやデジタル技術について知っている
- How……データ・デジタル技術を実際に業務で活用できる
(要点に絞って要約)
この経済産業省の定義からもわかる通り、DX人材とは単に「ITツールやパソコンに詳しい人材」のことではありません。デジタル技術をビジネスに活かす方法や、DX推進のために必要なマインドなど、DX人材は幅広い能力を身につけることが期待されています。
DX人材育成とは
DX人材育成とは、DXを成功させるために必要な社員の知識やスキルを伸ばすことです。具体的には、以下のような方法で社員のITスキルを磨き、社内のDX実現につなげます。
- ITリテラシー研修の実施
- ITツールの使用方法を学ぶ講習会の実施
- プログラミングを学べる学習教材の導入
- 越境学習の実施
DX人材育成は、従来のように集合型の研修で実施されることもありますが、eラーニングなどの学習ツールを導入することも多いです。また、記事の後ほどで詳しく解説する通り、他社でDXの実践を行う越境学習形式で実施されることもあります。
DX人材育成が注目されている背景
DX人材育成が注目されている主な理由は、デジタル人材の不足です。
ChatGPTなどに代表されるように、最近のAIは目覚ましい進化を遂げています。また、自動レジやスマホアプリの導入などを通じて、業務効率化を目指す企業も増えてきました。こうしたデジタル技術の発達を受け、DX人材の需要はますます高まっています。
しかし、働き手人口の不足が深刻化している日本では、外部から優秀なデジタル人材を確保することは簡単ではありません。金銭的なコストもかかりますし、外部から採用した人材が社内の風土に合わずに離脱してしまうケースも多いです。
そこで、社内の人材を育成することでDXへ向けた機運を高めるDX人材育成に注目が集まっています。すでに自社のビジネスモデルや業務内容を深く理解している社員だからこそ、自社のビジネスモデル変革につながる本質的なDXが期待できるのです。
DX人材育成にありがちな4つの課題
DX人材育成は、一筋縄ではいかないことも多いです。DX人材育成にありがちな課題としては、以下の4つが挙げられます。
- 育成方針が明確に定義されていない
- 社員によって知識やスキルに差が出てしまう
- 教育を担当できる人材が社内にいない
- 学んだ内容を実務で活用できない
ここからはDX人材育成で直面しがちな課題について、その解決策も交えながら見ていきましょう。
育成方針が明確に定義されていない
育成方針があやふやなままDX人材育成をスタートしてしまうと、期待通りのDX人材が育たない可能性があります。
そもそもDXは、言葉としては2018年ごろから注目され始めた新しい概念です。まだ「DX人材」の理想像が社内でしっかりと共有できていなかったり、そもそも「DX」という言葉の意味が社内に浸透していなかったりする企業も少なくありません。
こうした状況のままDX人材育成に取り組むと、「経営陣からの期待に応えられない」「DXがかえって業務の足かせになっている」といった事態を招いてしまいます。まずは自社における「DX」や「DX人材」がどういった内容を指すのか、言葉の定義をしっかりと明確化しておくことが大切です。
社員によって知識やスキルに差が出てしまう
DX人材育成は、どうしても「すぐに理解して使いこなせる社員」と「なかなか理解できず、内容についていけない社員」に二分化してしまいがちです。
例えばプライベートでよくスマホやパソコンを使う社員であれば、業務で使うITツールも比較的スムーズに習得できるでしょう。一方、あまりスマホに馴染みのないシニア層の社員や、プライベートでほとんどパソコンに触れないような社員は、慣れない画面操作に苦戦することも多いです。
こうした失敗を防ぐためには、以下のような対策が有効です。
- レベルごとにクラス分けして研修を実施する
- 個別に学べるeラーニングを導入する
社員のデジタルスキルには差があることを前提にした上で、さまざまなレベルの社員が学べる研修設計にするよう意識しましょう。
魅力的な処遇・仕事が用意できない
DX人材育成の大きな課題の一つが、「魅力的な処遇・仕事が用意できない」ことです。
多くの企業がDX推進の重要性を認識しながらも、「優秀なDX人材を惹きつけ、維持すること」に苦戦しています。
その背景には、従来の組織構造や評価制度がDX人材のニーズに適合していないことがあります。具体的には、先進的なプロジェクトや、スキルに見合った報酬体系の整備が追いついていないのが現状です。柔軟な働き方の導入や、継続的な学習機会の提供など、人事制度と連動した魅力的な職場環境の創出が不可欠です。
学んだ内容を実務で活用できない
DX人材育成では、「学びっぱなし」「やりっぱなし」になってしまうという課題も珍しくありません。
例えば「Excelのマクロで集計業務を自動化する」というDX研修を実施したとします。このとき、研修中では一見うまくいったように見えても、「結局現場ではマクロが全く使われていなかった」というのはよくある失敗パターンです。もちろんこうした失敗はマクロに限らず、AIやRPA、業務ツールなどのさまざまな研修テーマで発生します。
こうした失敗の原因は、実務を想定した研修が実施できていない点です。具体的には、以下のような内容を研修中で伝えきれていない可能性があります。
- 今学んだ技術を業務のどの場面で使えるのか?
- その技術を使うためのデータはどこで手に入るのか?
- 業務を自動化するためには誰の許可が必要なのか?
- エラーが起きたらどうするか?
- 業務フローが変更になったらどうするのか?
これらを解消するためには、できる限り実践に近い場でDXを学んでもらうのが大切です。この次で詳しく解説しますが、越境学習を実施してDXの現場に飛び込んでもらうのがおすすめです。実践的な場に身を置くことで、座学だけでは伝えづらいノウハウやマインド面を磨くことができます。
DX人材育成に必要な3つの「社外実践の場」
以下は、アメリカと日本の育成方法の違いを比べたグラフです
DX案件を通じたOJTプログラム、社内外兼業など「DXの実践の場」の用意が不足していることが分かります。しかし、大きな企業ほど、人事制度や職場環境を根本的に変えていくには時間もかかります。

そこで、近年は他社と連携した越境学習によるDX人材育成に取り組んでいる企業が増えています。社内で用意できないポジションを社外で用意し、リアルな課題に対して学んでもらうことが可能です。社内にはないノウハウを吸収できますし、思いがけないアイディアが生まれやすいというメリットがあります。
具体的には、以下の3つの「社外実践の場」のパターンがあります。
- DXコンサルを事業とする企業
- DX化を実現している企業
- DX化を課題とする企業
それぞれの目的を簡単にまとめると、以下の通りです。
ここからは、それぞれの特徴やメリットについて解説します。
参考:「DX動向2024」
DXコンサルを事業とする企業
DXコンサルを事業とする企業でDXを学べば、DXを生み出す上で必要な組織や風土づくりについて学ぶことができるでしょう。
DXコンサルを事業とする企業には、「他社にDXを根付かせるためには何をすればいいのか?」というノウハウが蓄積されています。例えば、単にITツールを導入するだけでなく、ITツールを活用する業務プロセスの策定方法やルールの設定方法など、上流工程から深く理解することが可能です。
企業全体のIT戦略に関わる上級管理職や経営層の方、まとまった人数を率いるチームリーダーの方などは、DXコンサルを手掛ける企業での越境学習が特に向いています。
DX化を実現している企業
DX化を実現している企業では、主に以下の2点について学ぶことができます。
- AIやITの活かし方
- アジャイルマインド(スピード感、試行錯誤、多様な人を巻き込む力)
DX化を実現している企業では、すでにAIやIoT、クラウドなどの最新技術を活用した業務効率化が進んでいます。実際の成功例に触れることができるので、「このようにすればDXを成功できるのか」という具体的なイメージが湧きやすくなるでしょう。
また、越境学習でDX化を実現している企業の社員と交流を深めることで、DXを進展させるのに必要なマインド面についても学ぶことができます。DXに必要なスピード感や試行錯誤の精神などを学ぶことが目的の場合は、DX化を実現している企業への派遣がおすすめです。
DX化を課題とする企業
DX化を課題とする企業で学べるのは、主に以下の3点です。
- DX推進(他組織折衝・協働経験)
- AIやITの活かし方
- アジャイルマインド(スピード感、試行錯誤、多様な人を巻き込む力)
DX化を課題とする企業とは、今まさにデジタル技術を活用して業務効率化や競争力向上を目指そうとしている企業のことを指します。DXの最前線に身を置くことができるので、他組織との折衝や協働など、DXのリアルを知ることができるでしょう。自社のDXにおいて先導役となる人材や、他部署との連携が求められるポジションの社員は、DX化を課題とする企業への派遣が向いています。
DX人材育成における実践事例
ここからは、実際にDX人材育成に成功した越境学習の事例を3つ紹介します。DX人材育成に越境学習を取り入れる方法や、具体的な越境学習の流れを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
ベンチャー企業で未知の分野での学びに挑戦した事例
株式会社オリエントコーポレーションの笠松様は、自分の考え方や行動や過去の経験にとらわれすぎてしまう可能性があるという課題意識から、弊社エンファクトリーが実施する越境学習プログラムへの参加を決めました。
普段内部監査に取り組んでおられる笠松様は、複業留学先において主に以下の3つの業務に取り組んでいます。
- 情報セキュリティ
- DX推進
- CV戦略推進
特にこのうちのDX推進では、留学先のベンチャー企業におけるDX戦略の策定に向けた提言を行いました。DXを成功させるために必要な認定取得のプロセスや、DX人材育成の市場分析結果を取りまとめ、報告しています。
笠松様はもともとDXやCXに関して座学で得た知識はありましたが、越境学習に参加することで、はじめてそれらの知識が現場で実践されている様子を実感したそうです。DXに対する理解が深まったと同時に、自分自身の経験不足も痛感し、ますます継続的なリスキリングへ取り組もうという意識が高まりました。
本事例の詳細は、以下のページから詳しくご覧いただけます。
複業留学体験レポート「自分のスキルを試す3ヶ月間:新たな視点からの学び」 | 株式会社エンファクトリー

AIの本質について学び、自らの可能性を広げた事例
株式会社ニフコで製品の寸法測定を担当する多田様は、自分自身のキャリアの可能性を広げたいという思いから、エンファクトリーの実施する越境学習プログラムへ参加しました。
本事例では、受け入れ先のIT企業において「AIの活用可能性を考える」というテーマに取り組んでいただいています。自分で考えたアイディアをもとに、実際にAIを形にするところまで取り組まれたそうです。AIの活用方法を模索する中で、AIの本質について深く考えるとともに、AIの売り込み方やマネタイズの方法まで広く学ぶ機会となりました。
加えて、IT企業ならではのコミュニケーションスタイルに触れていただいたのも本事例の特徴です。受け入れ先企業ではSlackを用いたスレッド形式での会話が行われており、一般的なメールとは異なるコミュニケーションスタイルを学んでいただいています。
越境学習後には、社内でAI勉強サークルを作るなど、DXが波及する動きも生まれました。本事例の詳細は、以下のインタビューからご確認ください。
複業留学体験レポート「自分の可能性を広げる3ヶ月」 | 株式会社エンファクトリー

新たな業務にチャレンジして自信につながった事例
大日本印刷株式会社の高橋様は普段、自然言語処理のデモンストレーションやセキュリティ関連の業務に取り組まれています。日々の業務の中で「ゼロから新しいものを作る」という場面が増えてきたため、新たな体験を得ることを目的に複業留学へ参加しました。
複業留学先では、「ユニボ」という会話ができるロボットを用いた新規サービスの立ち上げに携わっていただきました。本業の自然言語処理のデモンストレーション開発に取り組む中で身につけた「ユーザー視点」を意識しながら、ゼロから新たなサービスを作る貴重な経験を得ています。
高橋様は複業留学の経験を通じて、組織の意思決定の速さに衝撃を受けたそうです。また、「画面デザイン」や「UI設計」などの本業ではなかなか手が出せなかった業務にも挑戦し、自信を深める機会となっています。
本事例についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
複業留学体験レポート「違う組織でも、楽しめることや得意なことがわかり、自信につながった」 | 株式会社エンファクトリー

関西電力株式会社による事例
2018年からデジタルを変革の中心に据え、デジタルトランスフォーメーション(DX)に本格的に取り組んでいる関西電力株式会社。この取り組みを支援するために専門機能子会社「K4 Digital(ケイ・フォー・デジタル)」が設立されるなど、DX推進を強力に推し進めています。
同社の取り組みは、生産性向上にとどまらず、新たなビジネスモデルの構築や収益向上に寄与する「価値創出」案件にも注力しており、単年のDX効果は240億円(IRR 8%)に達するとされています。
このような関西電力のDX推進を支える基盤が、関西電力株式会社が独自に取り組む「DX人材育成」と「DX風土の醸成」です。IT戦略室IT戦略グループマネジャーの谷様から、同社のDX人材育成の方針、具体的な施策の一環として導入している「越境学習」の狙いや効果についてもリアルな実情について解説いただきました。
関西電力が実践する、企業価値創造につながるDX人材育成戦略とその成果

まとめ
DX人材育成について、具体的な育成方法やありがちな失敗例、成功事例などを解説しました。
e-ラーニングの導入などの育成施策に取り組まれている企業も増えています。
しかし、DX人材育成を成功させるためには、「DXを実践する場」を設けるのが大切です。今回ご紹介した越境学習は、DXを実践する効果的な手段となるでしょう。
越境学習に特化してプログラム提供を行い累計80社7,000名以上の支援を行ってきた株式会社エンファクトリーでは、企業の目的に合わせた越境学習プログラムを展開しています。
はじめて越境学習を導入する企業にも効果を実感いただけるプログラム設計となっているので、ぜひ興味のある方はお気軽にお問い合わせください