■ 導入企業
企業名:農林中央金庫( https://www.nochubank.or.jp/ )
業種:金融
従業員数:3,380名 (2025年9月末現在)
スタート時期:2021年~
対象者:若手職員からベテランまで幅広い層
人選方法:公募
人数:若干名
■ インタビュー
農林中央金庫
人事部 矢島様
変化の激しいビジネス環境において、組織の持続的な価値創造と職員の「キャリア自律」は、多くの上場企業や伝統的な組織にとって共通の命題です。今回は、2023年の人事制度見直しを機に大きな組織変革を進める農林中央金庫の人事部・矢島様にインタビューを実施。同金庫がなぜ今、「完全アウェイ」とも言えるベンチャー企業などへの「越境研修」を導入し、どのように社内のポジティブな連鎖を生み出しているのか、その舞台裏を詳しく伺いました。
2030年を見据えた人事制度改革――なぜ「完全アウェイ」の環境が必要だったのか
エンファクトリー: 農林中央金庫様では2023年の人事制度見直しをはじめ、近年大きな変革を進められています。今回、越境研修を導入されるに至った背景や、当時の課題意識について教えてください。
農林中央金庫 矢島様(以下、矢島): 当金庫では、2023年に従来の組織主導・年功序列によるキャリア形成から脱却し、「職員の自律性と専門性の重視」へと舵を切る人事制度の見直しを行いました。さらに、2030年に向けた中期ビジョンでは「柔軟で強靭な組織、多様性の実現」を掲げています。これらの実現に向けて、職務ポスト公募や社内インターン制度など、自律性を高める施策を矢継ぎ早に打ち出しました。
先行きが不透明なこれからのビジネス環境において、これまでの硬直的な組織風土や、同質性の高い文化のままでは、持続的に新しい価値を創造していくことは難しいという強い危機感がありました。
エンファクトリー: 社内異動(ジョブローテーション)ではなく、あえて「社外へ飛び出す」選択をされたのはなぜですか。
矢島: 同じ組織に長く身を置いていると、どうしても視野が狭まり、自社の「当たり前」に染まってしまう懸念がありました。
だからこそ、居心地の良いコンフォートゾーンを一度抜け出し、ベンチャー企業をはじめとする「完全アウェイ」な組織へ身を置くことが必要だと考えたのです。多様な価値観に直接触れる経験こそが、当金庫の組織風土をオープンに変えていくための起爆剤になる。そう確信したことが、今回の越境研修の導入を決めた大きな理由です。
「自律を後押しする」メッセージの工夫――職員の一歩を促す社内展開と上司の巻き込み方
エンファクトリー: 伝統ある組織だからこそ、新しい挑戦に一歩を踏み出すのを躊躇する職員もいらっしゃるかと思います。社内展開や公募において、どのような工夫をされましたか。
矢島: 単に「新しい研修制度ができました」とアナウンスするだけでは、職員の心は動きません。人事部としては「あなたの自律的なキャリア形成や学びを全力で後押しする」という明確でポジティブなメッセージを一貫して発信し続けました。
具体的には、社内広報ツールでのマメな周知はもちろん、越境研修の公募にあたっては、研修の目的を伝える説明動画を配信したり、過去の参加者の体験談を紹介したりしました。実際に経験した先輩職員の「迷っているなら挑戦してみてほしい」というリアルな背中を押すメッセージは、応募を迷っている職員が具体的なイメージを持つ上で非常に効果的だったと感じています。
エンファクトリー: もう一つ、こうした外部研修では「直属の上司の理解」がハードルになるケースも多いですが、そこはどのようにクリアされたのでしょうか。
矢島: そこは非常に重視したポイントです。部下の成長・学びを後押しすることの重要性は、管理職向け研修など様々な場面で発信しています。研修の応募にあたっては、本人が直属上司の承認を得たうえで応募することとなっていますが、これは業務上の必要性というのはもちろんのこと、上司側にも研修の意義をしっかり理解してもらうことも企図しています。
人事部が送り出して終わりではなく、現場の上司も一緒になって送り出す。そして研修の最後に行われる最終報告会には、基本的には上司にも出席してもらうようにしています。部下がアウェイな環境で揉まれて得てきた学びを、上司が一番近くで受け止め、現場でのサポート体制をつくる。この「上司を巻き込む仕組み」が、研修の効果を現場に定着させるために不可欠だったと考えています。
「自社の当たり前が通用しない」冷や汗が、確固たる自信と組織へのポジティブな連鎖を生む
エンファクトリー: 実際に越境を経験した職員の皆様には、具体的にどのような行動変容や、組織への波及効果が見られましたか。
矢島: 参加した職員の多くが、全く異なる環境での業務を通じて「自社の常識や当たり前が外では通用しない」という壁にぶつかり、良い意味でのストレス――いわば「冷や汗をかく経験」をしています。
しかし、そこからが非常に面白い変化です。苦戦しながらも泥臭く業務に向き合う中で、「いや、自分が自社で培ってきたスキルや業務推進力は、外の環境でも普遍的な強みとして通用するんだ」と、自分の足元を再認識し、確固たる自信へと昇華させて帰ってくるのです。
エンファクトリー: 素晴らしいですね。そうして自信を深めて帰ってきた帰任者の方々は、職場にどのような影響を与えているのでしょうか。
矢島: 目に見える変化として、越境先で学んできたノウハウや最新の知見、例えば効率的なAIツールの活用方法などを、自発的に自部署のメンバーに共有し、現場の業務改善に繋げるといった行動が生まれています。職場で相互に学び合う風土が、帰任者を起点に自然と作られつつあるのを感じますね。
また、若手からベテランまで、身近な同僚が社外で生き生きと挑戦し、一回り大きくなって帰ってきた姿を見ることで、「自分も何か新しいチャレンジをしてみたい」「次回の公募には手を挙げてみよう」というポジティブな連鎖が職場全体に広がり始めています。これこそが、人事として最も手応えを感じている部分です。
他社の人事担当者へ――組織風土改革に正解はない。悩みながら進むプロセスそのものが成長
エンファクトリー: 最後に、同じように組織改革や自律型人材の育成に頭を悩ませている、他社の人事担当者の方々へメッセージをお願いします。
矢島: 組織風土の変革やキャリア自律の推進において、最初から「これを選べば一発逆転できる」というような正解はどこにもないと思っています。
大切なのは、自組織の課題に真摯に向き合い、自社に合ったやり方を泥臭く模索し続けることです。「これでいいのだろうか」と悩み、試行錯誤しながらも一歩ずつ取り組むプロセスそのものが、挑戦する職員を育て、結果として組織全体の成長に繋がっていくのだと信じています。当金庫もまだまだ変革の途上ですが、ぜひ一緒に一歩を踏み出していきましょう。
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