「次期リーダー候補に研修を重ねても、現場での行動が変わらない」「経営を担う視座を持った人材がなかなか育たない」とお悩みではありませんか?
座学中心の研修だけでは、リーダーに欠かせない意思決定の経験や、過去の成功体験が通用しない場面を乗り越える力を養うことは困難です。こうした課題を突破する手段として、社員を社外の異質な環境へ送り出す「越境学習」をリーダー育成に組み込む企業が増えています。
本記事では、リーダー育成に越境が効く理由から、主な形式の比較、企業事例、プログラム設計における6つの視点まで、人事担当者の方に向けて詳しく解説します。
目次
リーダー育成における「越境」とは?
越境学習は、次世代リーダーを育てる手段として活用の幅を広げています。まずは言葉の意味と、企業のあいだで広がっている背景を確認しましょう。
越境とは、慣れ親しんだ環境の外に身を置いて学ぶこと
社員が自社での実績や前提が通用しない環境へ一時的に身を置き、「他流試合」を通じて得た経験を成長の糧にする人材育成手法です。
越境学習では、普段働いている職場を「ホーム」、それとは異なる環境を「アウェイ」と捉えます。ホームは、知った顔が多く居心地は良いものの刺激の少ない環境(自社)を指します。一方のアウェイは、見知らぬ人に囲まれ居心地は悪いものの、刺激に満ちた環境(他社など)です。
この「ホーム」と「アウェイ」という2つの境界を行き来し、客観的に自分や自社を見つめ直す点に、越境学習の本質があります。
大企業の管理職がベンチャー企業で経営課題に取り組むケースは、その典型例です。アウェイでの挑戦とホームでの内省を往復する経験が、社内だけでは得にくい高い視座をもたらします。
越境学習の定義やメリットは、下記の記事で詳しく解説しています。
リーダー候補を社外へ送り出す越境学習が広がっている
次世代リーダーの育成を目的に、越境学習を人材戦略へ組み込む企業は着実に増えています。
エンファクトリーの越境学習プログラムは、累計400社・12,000名以上の支援実績があります。なかでも大手企業がベンチャー企業へ社員を送り出す「複業留学」は、製造業や金融・保険といった業界の大手企業を中心に、キャリア自律の支援や組織の活性化、次世代リーダーの育成を目的として導入されてきました。
後述する株式会社オリエントコーポレーションのように、越境学習を経営人材の育成計画に位置付ける企業も現れており、リーダー育成の有力な選択肢として定着しつつあります。
従来のリーダー研修における課題
越境が求められる背景には、社内で完結する育成施策が抱える限界があります。人事担当者が直面しやすい3つの課題を見ていきましょう。
知識やスキルは身についても行動が変わらない
研修で得た知識を現場の行動へ結びつけられないことが、リーダー育成における大きな壁の一つです。
リーダーシップの成長要因は、座学研修によるインプットよりも、実務での経験が多くを占めるといわれています。研修はあくまで成長のきっかけの一部であり、行動を変える主な原動力は日々の経験にあります。
例えば、コーチングや戦略立案の研修を受けても、翌日から同じ会議、同じ部下、同じ評価基準の中に戻れば、以前と同じ振る舞いに戻りがちです。行動変容を起こすには、学んだことを試さざるを得ない「経験の場」が欠かせません。
これまでの成功体験がそのまま通用してしまう
社内で実績を積んだ人材ほど、自分の勝ちパターンを疑う機会を失いやすくなります。
同じ組織の中では、評価基準や意思決定の手順、人間関係の前提が共有されているため、過去のやり方でも一定の成果が出てしまうからです。社内の異動やローテーションで部署が変わっても、会社の文化や暗黙のルールまでは変わりません。
しかし、変化の激しい時代のリーダーには、自らの経験則を手放すアンラーニング(これまでの知識や価値観を意図的に捨て、学び直すこと)が求められます。成功体験が揺さぶられない環境に留まり続ける限り、このきっかけをつかむことは困難です。
本物の裁量と責任を経験する機会がない
大企業では、経営判断に近い裁量を任される場面が限られています。
組織の規模が大きいほど意思決定は複数の階層を経るため、個人が結果の責任を一身に負う局面は少なくなるからです。リーダー育成に有効とされるタフアサインメント(難易度の高い業務や役割を意図的に任せ、飛躍的な成長を促す手法)の機会を、社内だけで用意しきれない企業も少なくありません。
裁量と責任をともなう修羅場体験を計画的に積ませるには、社外に目を向けることが有効です。タフアサインメントの詳細は、下記の記事で解説しています。
リーダー育成に越境が効く4つの理由
社内研修の限界を補ううえで、越境学習は次の4つの点で大きな力を発揮します。
- 自分の実力が可視化される
- 自ら意思決定する経験を積める
- 自分の前提を相対化できる
- 経営者の視点が育つ
それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
自分の実力が可視化される
自社の評価軸から離れて挑む社外での「他流試合」は、リーダー候補が自らの実力を正確に知る絶好の機会です。
越境先では「〇〇社の課長」という肩書きは意味を持たず、提案の中身や行動そのもので評価されます。社内では部下や周囲が配慮してくれる場面でも、アウェイ環境では通用しない部分がはっきりと表れます。
さらに、利害関係のない社外の経営者や同僚からのフィードバックは、社内評価では見えにくい強みと弱みを浮き彫りにします。この客観的な自己理解は、リーダーとして成長する確かな土台となります。
自ら意思決定する経験を積める
限られた人員と情報の中で決断を迫られる経験は、リーダーに必要な視座を一段引き上げます。
ベンチャー企業などの越境先では、前例がなく、上位者の承認を待つ余裕もない場面が日常的に訪れます。事業の優先順位をどうつけるか、どの顧客に注力するかといった判断を自ら下し、その結果を引き受ける修羅場体験を重ねることになります。
こうした経験を通じて、部分最適ではなく事業全体を見渡して判断する力が鍛えられます。社内に戻った後も、指示を待つのではなく自ら方針を示すリーダーへと変わる大きな契機となります。
自分の前提を相対化できる
異なる価値観に触れる経験は、自分が当然と考えてきた前提を問い直すきっかけになります。
相対化とは、自分の考えを絶対視せず、数ある見方の一つとして捉え直すことです。アウェイ環境では、意思決定のスピードや会議の進め方、ミッションへの向き合い方に至るまで自社と大きく異なります。そのギャップに戸惑う体験こそが、自社の「当たり前」を疑うきっかけとなります。
前提を相対化できるリーダーは、自分と異なる意見を持つ部下の声にも耳を傾けられるようになります。多様なメンバーの力を引き出すうえでも、この変化は極めて重要です。
経営者の視点が育つ
経営陣と同じ目線で課題に向き合う経験が、次世代の経営人材に欠かせない全体を俯瞰する力を育てます。
ベンチャー企業では経営者との距離が近く、資金調達や採用、事業戦略が一体となって動く様子を間近で見ることができます。エンファクトリーの「リーダー留学」の参加者からも、資金調達や投資家への説明の場面を通じて、経営者の覚悟を肌で感じたという声が挙がっています。
自身の部署やチームの管理にとどまらず、会社全体の命運を背負う視点を持てるかどうか。この差が、次世代の経営人材としての成長を大きく左右します。
リーダー育成における越境学習の主な形式
一口に越境学習といっても、手法によって得られる経験の質や導入の負担は大きく異なります。リーダー育成で用いられる主な形式は、次の4つです。
- 留学(レンタル移籍など)
- 社内副業
- プロボノ(仕事で培った専門スキルを生かした社会貢献活動)
- 異業種交流
各手法の特徴比較
育成効果と導入ハードルの2つの軸で比べると、各形式の違いが明確になります。
| 形式 | 主な特徴 | 育成効果(裁量権・修羅場度) | 導入ハードル(期間・費用・契約面) |
|---|---|---|---|
| 留学 (フルタイム型) | 在籍型出向など、籍を置いたまま他社の業務に専念する | 非常に高い | 高い(数か月から1年程度職場を離れ、費用や契約の調整が必要) |
| 留学 (兼業型) | 本業を続けながら週1日程度、ベンチャー企業などで働く | 高い | 中程度(3か月から6か月の期間と本業との時間調整が必要) |
| 社内副業 | 自社の別部署やプロジェクトに参加する | 中程度 | 低い(社内ルールの整備で始められる) |
| プロボノ | 専門スキルを生かしてNPOなどを支援する | 中程度 | 低い(短期や少人数から始めやすい) |
| 異業種交流 | 他社の社員と対話や共同ワークを行う | 限定的 | 低い(オンライン型など手軽な形式も多い) |
経営に近い裁量と修羅場体験を重視するなら、留学型が最有力です。なかでも兼業型は、本業の業務を続けながら社外での実践経験を積めるため、職場を長く離れられない管理職層や次世代リーダー候補の育成として、近年導入する企業が増えています。
一方で、まずはハードルを下げて越境の文化を根付かせたい場合は、社内副業やプロボノから始めるのも選択肢となります。自社の育成目的が「本格的な行動変革」なのか「幅広い視野の獲得」なのかによって、育成効果と導入ハードルのバランスを見極めて選ぶことが大切です。
【企業事例】越境でリーダーに変化を起こした事例
ここからは、エンファクトリーの越境プログラムを通じて、リーダー育成に手応えを得た企業と参加者の事例を3つ紹介します。
越境経験をサクセッションプランへ接続した事例
株式会社オリエントコーポレーションは、社員のキャリア自律を促す人事制度改定の一環として、2022年9月から複業留学や越境サーキットを導入し、これまでに120名以上が参加しました。
一方で、アウェイ環境で高い熱量を得て戻った社員が、通常業務でその熱量を持て余すという課題も見えてきました。そこで同社は、越境学習をサクセッションプラン(経営幹部の後継者を計画的に育てる仕組み)の施策に位置付けています。人事・総務グループ キャリアデザイン推進部の相川様、豊田様は次のように語ります。
「行って終わり」にするのではなく、持ち帰った変革マインドを次の打席でどう活かすかというストーリーを人事側で描き、次世代経営人材として戦略的に育成していく。
社内副業や越境経験者同士のコミュニティも並行して動かし、帰任者の熱量を組織の成果へ還流させています。本事例は、越境を個人の成長で終わらせず、経営人材の育成計画に組み込んだ好例を示しています。
人事ご担当者へのインタビュー全文は、下記のページでご覧いただけます。
課長職のリーダーが再び「挑戦者」になった事例
大日本印刷株式会社で決済サービスの営業企画を担う瀬川様。2024年4月に課長職にあたるグループリーダーへ就任し、メンバーに挑戦の場を譲るなかで「自分はこのままでいいのか」と危機感を抱いたことが参加のきっかけです。
留学先の株式会社FINBESTでは新規事業の事業計画書づくりを担い、時間の確保に苦労しながらも生成AIを活用して本業との両立を図りました。何より心を動かされた点は、ミッションが日々の行動に浸透した組織の姿だったといいます。
ミッションを掲げるだけでなく、それを日々の具体的な行動にまで落とし込んで体現している組織の在り方は、私にとって新鮮な驚きであり、大きな学びとなりました。
帰任後は、決済と環境ビジネスを掛け合わせる発想が生まれ、同僚との新たな企画づくりも動き出しています。
会社が掲げるミッションに対し、自分のグループが何を成すべきか、そして私個人として何を成し遂げたいのか。このミッションを自分の中で矛盾なく繋ぎ合わせ、心から「腹落ち」した状態で仕事に臨みたい。
本事例は、管理職が挑戦者の立場に戻り、チームを率いる軸を再発見した好例といえます。詳しい取り組みは、下記の記事でご紹介しています。
社外の評価で自分の強みを客観視できた事例
ピジョン株式会社で商品企画を担う瀬島様は、新卒入社から10年以上同じ会社で働いてきました。自分の力が社外でどこまで通用するのかを確かめるため、「社外留職体験」に参加しています。
留職先の株式会社ビジョナリーエンジンでは、新しい協会の立ち上げ支援などを担当しました。完全オンラインの環境に当初は戸惑ったものの、自ら短いオンライン会議を設定して対話の機会をつくり、壁を乗り越えています。
留職先からは行動力やコミュニケーション力を高く評価された一方、細かな確認が漏れやすいという弱みも指摘されました。
自分がどのような環境であれば強みを発揮しやすいのか、どの部分を周囲に頼るべきなのかが明確になったことは、今回の社外留職で得られた非常に価値のある気づきだと感じています。
瀬島様は、将来管理職になった際には「個人の専門性を磨くことの重要性」をメンバーに伝えたいと語っています。本事例は、利害関係のない第三者の評価が、リーダーとしての自己理解を深めた好例を示しています。
体験談の全文は、下記のページに掲載しています。
リーダー向けの越境プログラムを設計する際の6つの視点
越境学習の効果は、送り出す前から帰任後までの設計次第で大きく変わります。
人事担当者が押さえるべき視点は、次の6つです。
- 誰を送るか
- どこへ送るか
- どれくらい送るか
- 何を任せるか
- どう支えるか
- どう戻すか
誰を送るか|本人の意思を軸に対象者を選ぶ
選抜にあたっては、本人の「挑戦したい」という意思を何より重視すべきです。
アウェイ環境で壁にぶつかったとき、踏みとどまれるかどうかは自発性に大きく左右されるからです。株式会社オリエントコーポレーションも、公募形式を土台に据えたうえで、経営人材の育成では選抜を組み合わせています。
公募の際は、越境先で何を任され、どのような成長が期待できるのかを募集文で具体的に示しましょう。説明会や過去の参加者の体験談の共有も、手を挙げる後押しになります。
どこへ送るか|自社にない意思決定の速さがある環境を選ぶ
越境先は、意思決定のスピードや組織文化が自社と大きく異なる環境を選ぶことが重要です。
同じ業界や同規模の企業では、ビジネスモデルや暗黙の前提が似通っているため、殻を破るほどの刺激は得にくくなります。大企業のリーダー候補であれば、少人数で素早く判断を重ねるベンチャー企業が有力な越境先となります。
企業の知名度ではなく、経営陣とどれだけ近い距離で働けるかという観点で見極めることも重要です。自社単独での開拓が難しい場合は、多様な越境先とのネットワークを持つ外部サービスの活用も現実的な選択肢です。
どれくらい送るか|変化が定着する期間は3〜6か月が目安
リーダーの行動変容を定着させるには、3~6か月程度のまとまった期間を確保することが重要です。
越境直後は新しい環境のルールに慣れることで精一杯となり、自分を深く見つめ直す段階まで至らないからです。数日程度の研修では一時的な刺激で終わってしまい、価値観の転換までは期待できません。
葛藤を抱えながら試行錯誤を重ね、自分なりの答えを見つけるには相応の時間が必要です。週1日程度の兼業型であれば、本業を離れずにこの期間を確保できます。
何を任せるか|責任と裁量をともなうミッションを設定する
ミッションは「お手伝い」ではなく、成果に責任を負う役割として設計しましょう。
補助的な業務にとどまると、意思決定の経験が積めず、リーダー育成の効果は大きく損なわれます。例えば中期経営計画の立案、DX推進、新規事業開発など、経営課題に直結するテーマが適しています。
育成したい能力から逆算し、受け入れ企業とも事前にすり合わせながら、本人が成果の当事者となれる役割を明確にしておきましょう。
どう支えるか|内省を引き出す伴走支援を組み込む
越境での経験を意味のある学びへ変えるには、内省(リフレクション)を促す伴走者の存在が欠かせません。
経験を振り返って言語化しなければ、アウェイでの奮闘も単なる苦労話で終わってしまうからです。エンファクトリーの「リーダー留学」では、コーチ兼アセッサー(伴走しながら思考や行動を評価する専門家)が越境前・中・後を通じて伴走します。
伴走者はキャリアコンサルタントの有資格者や経営経験のあるエグゼクティブコーチなどが務め、受け入れ企業の社長・役員からのフィードバックも得られます。
どう戻すか|帰任後のポジションと社内還元の場を用意する
帰任後の活躍の場を設計段階から用意しておくことが、離職を防ぎ、エンゲージメントを高める決め手になります。
リーダー育成に越境を取り入れる際、「外を知って辞めてしまわないか」「戻った後に孤立しないか」と懸念する人事担当者は少なくありません。こうした懸念は、学びを生かす受け皿がないときにこそ現実のものとなります。
新規事業や改革プロジェクトへの配置、社内副業、経験者同士のコミュニティ、成果報告会などを事前に準備しておきましょう。あわせて、送出元の部署や上司に対しても越境の目的を事前に共有し、持ち帰った新たな視点や変化を歓迎する受け入れ姿勢を促しておくアプローチも効果的です。
こうした越境経験を歓迎する環境や周囲の理解が整っていれば、会社への信頼と貢献意欲は着実に高まります。
リーダーの越境ならエンファクトリーの「リーダー留学」にお任せください
越境は、肩書きが通用しない環境で実力を試し、自ら意思決定する経験を積めるリーダー育成の有力な手段です。
株式会社エンファクトリーの「リーダー留学」は、本業を続けながら週1日程度、ベンチャー企業の経営層に参画する越境プログラムです。期間は3か月から6か月、稼働時間の目安は月10時間から30時間で、オンラインと対面を併用します。300社を超える越境先から育成テーマに合ったミッションを設計し、コーチ兼アセッサーが一貫して伴走します。
次期リーダー候補の育成にお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。






