変化の激しいVUCA時代と言われて久しい昨今、多くの企業が人材育成のあり方を見直し始めています。
そんな中で注目を集めているのが、社外の環境で学びを得る「越境学習」という手法です。
本記事では、越境学習を導入した企業や越境を経験した方の事例10選を紹介します。成功させるためのポイントも解説するので、自社での導入を検討している人事担当者の方はぜひ最後までお読みください。
目次
越境学習とは何か
越境学習とは、自分が普段所属している組織を一時的に離れ、別の環境で新たな知識や視点を獲得することです。社内では得られない刺激に触れることで、社員の視野を広げたり、価値観の転換を促したりすることができます。
実施の形はさまざまで、外部の企業に一定期間身を置く「企業間留学」のほか、副業や兼業、異業種混合のチームで課題解決に取り組むプログラムなどがあります。近年は越境学習へ取り組む企業が増えており、その手法も多様になってきました。
越境学習の定義や実施方法は、次の記事で詳しく解説しています。
越境学習の主なアプローチ(種類)
越境学習を実施する方法は多様で、自社の目的に合わせて選ぶことができます。代表的な手法は、次の通りです。
- 外部企業での実務経験(レンタル移籍・在籍出向など)
- 副業や兼業の活用
- 異業種混合チームでの課題解決(ワークショップなど)
- 外部のセミナーや勉強会への参加
- 海外研修
◆外部企業での実務経験
ベンチャー企業やスタートアップ企業など、外部の環境に一定期間入り込み、実際の業務に取り組む手法です。一般的に「レンタル移籍」や「企業間留学」とも呼ばれます。
自社とは全く異なる組織文化や、圧倒的な意思決定のスピード感を肌で体感することで、既存の枠にとらわれないマインドセットやスキルを養うのに適しています。
◆副業や兼業の活用
本業と並行して別の仕事に挑戦することで、自社だけでは得られない新たなスキルや視点を得ることができます。
◆外部セミナーや勉強会への参加
短期間かつ低コストで気軽に参加できるのが特徴で、越境学習のスモールスタートとして多くの社員が取り組みやすい手法です 。普段は関わりのない他社の社員や異業種のメンバーとディスカッションを行うことで、手軽に新しい視点や刺激を得ることができます。
その一方で、単発のイベント参加だけでは深い学びや行動変容にまで至りにくいという側面もあります 。そのため、受講後に内省(リフレクション)の機会を設けたり、他の実践型プログラムと組み合わせたりして運用するのが効果を高めるポイントです。
【目的別】越境学習の実践事例
ここからは以下の4つの目的別に、越境学習の実践事例10選を紹介します。
- サクセッション・リーダー育成
- キャリア自律
- イノベーション・新規事業
- DX推進
参加者や導入企業へのインタビューを通じて、越境学習のイメージを膨らませましょう。
サクセッション・リーダー育成
越境がくれたのは、自分を肯定する自信――視座が変わった4か月――
大鵬薬品工業株式会社の社長室に所属する吉田様は、研究職という現場を離れ、全社的な視座を養いたいと考えていました。そこで、ベンチャーへ留学する越境学習プログラム「複業留学」への参加を決めました。
留学先では、米国のフランチャイズ市場を調査し、新規事業を提案するというミッションに取り組みました。本業の研究で培った調査・分析の力を活かし、市場の構造を整理して3つの事業案を留学先企業の取締役へ提示しました。
活動の中で吉田様が痛感したのは、リーダーに求められる姿勢の違いでした。留学で最も印象に残った経験について、インタビューでは次のようにお答えいただいています。
一番の違いを感じたのは、「自信を見せること」の重要性です。留学先で新規事業の提案を行った際、「自分が不安に思っている部分があったとしても、それを表に出さず、自信を持って示すこともスキルの一つだ」というアドバイスをいただきました。
データを客観的に示す研究職の世界とは異なり、経営の現場では提案者自身が自信を持っていなければ、経営陣は判断を下してくれません。普段と全く異なる環境へ飛び込むことを通じて、人を動かす立場へ踏み出すために必要なマインドの土台を築いた事例といえます。
吉田様の体験は、次のページで詳しくご紹介しています。
外の世界から得た、自分の判断軸
大鵬薬品工業株式会社の経営企画部に所属する箕輪様。越境学習プログラム「複業留学」へ参加し、EV充電サービスを展開するスタートアップ企業へ留学しました。手つかずだった法人向けの営業を任され、長年携わった医薬品業界のネットワークも活かしながら課題解決を進めました。
本事例では、本業のマネジメントに良い変化が生まれています。留学中、箕輪様は本業の稼働が2割減り、これまでのように部下の営業に同行できなくなりました。しかし、これをきっかけに部下が自分で考えて動く機会が増え、結果的にチームの自律と成長につながったのです。すべてを管理しようとするのではなく、「要所を締める」というスタイルへの切り替えに成功しました。
越境学習先でも、さまざまな学びを得ています。越境を通じた成長について、箕輪様は次のように語っています。
自分の中に、会社や組織を見るための「客観的な軸」ができました。以前は自社のやり方が全てでしたが、外の世界を知ったことで、「自社のここは恵まれている」「ここはもっと改善できる」といった比較検討ができるようになりました。
越境学習をきっかけに視野が広がり、リーダーとしての幅を広げることに成功した好事例です。
箕輪様へのインタビュー全文は、次のページからお読みいただけます。
キャリア自律
自分の価値観や既存の方法に囚われず、俯瞰的に考えて発言するようになった
株式会社パルコのエンタテインメント事業部で法務を担当する高石様。定年後のキャリアの選択肢を増やしたいといった想いから、越境学習プログラム「複業留学」への参加を決めました。
留学先では、家計改善を支援するプログラムのPR戦略に取り組みました。当初は価格設定の訴求に苦労しましたが、留学先の社長から企業理念を直接聞く中で、機能や価格ではなく「お金について安心して相談できるパートナーが見つかる」という定性的な価値を打ち出す方向に考えがまとまったそうです。
複業留学を経た変化について、高石様は次のように語っています。
相手のことを俯瞰的に考えて発言するよう、心掛けるようになりました。自分の価値観や既存の方法に囚われず、「この人はなぜそれがいいと思ったのか」「確かにこちらの方が効率的かもしれない」と、相手の視点に立って深く考えるようになっています。
意見が合わない場合でも、以前より気楽に受け止められるようになったといいます。普段は出会えない多様なキャリアの人と交流し、コミュニケーションのあり方に変化が生まれた事例といえます。
本事例の詳細は、次のページからご覧いただけます。
未知の領域への挑戦:複業留学で得たスピード感と自信
株式会社NTTドコモで端末の調達販売戦略を担当する佐々木様は、一社だけでキャリアを積むことへの不安と、デジタルマーケティングに挑戦したいという熱意から、越境学習プログラム「複業留学」へ手を挙げました。
留学先では、新規事業に向けたデジタルマーケティングのコンサルティングを担当しています。週に1日という限られた時間の中で未知の領域に立ち向かう難しさもありましたが、週末に自主的に学び、翌週その知識を実践する流れを作って乗り越えていったそうです。
複業留学を通じた変化について、佐々木様は次のように振り返ります。
異なる環境で自分のスキルが通用するか試すことができ、自信を持つことができました。特に、未経験の領域に飛び込んで自分なりに勉強することで、自分の長所を見つけることができたと思います。また、自分の意見をしっかりと言うようになりました。
以前は上司から異なる意見を言われると折れてしまうことが多かったものの、複業留学を経て自分の意見をしっかり伝えられるようになったといいます。未経験の領域で成果を出した経験が、新たな挑戦への自信につながった事例です。
佐々木様の体験は、次のページで詳しくご紹介しています。
【導入企業】株式会社パルコ
株式会社パルコは、社員が社外で経験を積むことで「経験価値の最大化」につなげたいという考えから、越境学習プログラム「複業留学」を導入しました。2022年11月にスタートし、公募で決定した1名が月30時間程度の活動に取り組んでいます。
人事戦略部の松井様は、公募型ならではの良さを次のように語っています。
公募型の複業留学であれば、会社として「キャリアを考えて」という会社からの一方的な伝達ではなく、自分なりのタイミングでキャリアに向き合うことができると感じています。
参加した社員は、留学先のスタートアップ企業との違いに試行錯誤しながらも、関係構築力やコミュニケーション力を発揮して問題解決を図っています。社外と比べることで、こうした力が自社の強みであると改めて感じるようになりました。
同じく人事戦略部の緑川様からは、「越境学習は、新卒採用が中心で価値観が固定化しやすい組織にこそ効果がある」とお答えいただいています。実際、同社では社外にロールモデルを見つける機会となり、キャリアへ不安を抱える社員が前向きに一歩を踏み出す後押しにつながっているそうです。
インタビューの全文は、次のページからお読みいただけます。
イノベーション・新規事業
大企業の看板をおろし、自分の力を客観視できた
帝人株式会社の新規事業マーケティング部に所属する奥山様は、大企業の看板がなくても生きていける力を持っておきたいと考え、越境学習プログラム「複業留学」へ参加しました。
留学先では、再生可能エネルギーに関するサービスの法人営業に挑戦しました。会社の知名度やブランドに頼れない環境で顧客開拓に苦労しましたが、とにかく数をこなし、留学先の代表への貢献を支えにモチベーションを保ったそうです。
複業留学の前後での変化について、奥山様は次のように振り返ります。
留学先は、目的に向かって直線的かつ合理的に仕事を進めていました。自社の場合、大きな組織ということもあり、紆余曲折しながら進めることで目的から外れてしまうケースも多くあります。留学先のようにしっかり目的に向かって進むことができるよう考え方が固まりました。
共感してくれる人を巻き込み、周囲の意見にも耳を傾けながら進める大切さも実感したそうです。
本事例の詳しい内容は、次のページからご覧ください。
【導入企業】サッポロビール株式会社
サッポロビール株式会社・人事総務部の間瀬様は、社員からポストオフや雇用継続に関する相談を受ける中で、シニア層の活躍を推進する必要性を強く感じていました。そこで、越境学習プログラム「越境サーキット」を導入しています。
同社は、まず45歳以上の社員を対象にプログラムを案内しました。一斉メールが使えないといった社内事情があったため、社内ウェブサイトを活用するなど、告知の方法には工夫を重ねたそうです。
越境学習の効果について、間瀬様は次のように語っています。
参加者同士の人脈も大きな成果の一つです。異業種の方々とリアルに会って情報交換をすることで、コミュニケーションが生まれ、ビジネスの幅が広がりました。
越境学習後には、参加者同士がコミュニティを作り、北海道から九州まで離れた地域のメンバーがオンラインで交流する動きも生まれています。こうした交流を通じてそれぞれの参加者が築いた人脈は、社内だけでは得られない貴重な情報源となっているそうです。
間瀬様へのインタビュー全文は、次のページからご覧いただけます。
DX推進
自分のスキルを試す3か月間:新たな視点からの学び
株式会社オリエントコーポレーションの内部監査グループに所属する笠松様。社歴が長くなる中で「自分の考え方や行動が過去の経験に囚われすぎているのではないか」と感じていたそうです。そこで、自分のスキルが他社でも通用するのかを見つめ直したいと考え、越境学習プログラム「複業留学」への参加を決めました。
留学先では、情報セキュリティ、DX推進、CX戦略推進という3つのテーマに取り組みました。数か月で留学先の全体像を把握する難しさに直面しましたが、完全な正解にこだわらず、仮説を立てて議論を前に進める形で対応したそうです。
留学先で驚いたのは、自由に意見を交わす風土でした。留学後のインタビューで、笠松様は次のように語っています。
自由に意見する風土が根付いていて、実際に自由闊達な意見交換が行われていることです。誰もが 積極的に自分の思ったことを発言していて、当社に比べて、留学先はより発言しやすい環境にあると感じました。
第三者から自分のスキルがどう評価されるかを客観的に把握できたことも、有意義だったといいます。自社の常識を離れ、自分の強みと改善点を客観視できた事例といえます。
笠松様へのインタビュー全文は、次のページからお読みいただけます。
周囲に頼ることで生まれた、「チームで働く」意識の変化
前田様は、東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社でITやシステムの企画を担当しています。入社以来、自社での経験を重ねる中で、異なる環境で自分のスキルが通用するのかを確かめたいと考え、越境学習プログラム「複業留学」へ手を挙げました。
留学先では、DXの調査やワークフローシステムの運用設計書の作成に取り組みました。本業が忙しくなり時間の確保が難しくなる中で、一人で抱えることの限界も実感したそうです。
複業留学を通じた変化について、前田様は次のように語っています。
自分自身仕事で周りのメンバーに頼ることが苦手でしたが、もっと積極的にメンバーに頼ってみようという思考の変化が生まれました。
周囲の力を借りながら進めることで、自分もメンバーも成長できると学んだそうです。「チームで働く」という意識の変化を持ち帰った事例といえます。
本事例の詳細は、次のページに掲載しています。
外部の視点がもたらす変化を実感
帝人株式会社で炭素繊維の製造技術開発に16年間携わってきた中村様。「他社がどのように意思決定し、業務を進めているのかを知りたい」という考えから、越境学習プログラム「複業留学」へ参加しました。
留学先では、AIエージェントに特化した協会の立ち上げに携わりました。当初は1,000人の参加を目標としたオンラインカンファレンスが、結果的に3,000人を超える参加者を集めるなど、圧倒的なスピード感の中で実務を経験しています。NotionなどのITツールを活用しながら仕事を進めていく周囲の姿勢も刺激的だったそうです。
帰任後は、チーム内のやり取りをチャット中心に切り替えるなど、DXに向けた行動が定着しています。
中村様の体験の詳細は、次のページからご覧いただけます。
越境学習を成功させるためのポイント
ここまで、越境学習の成功事例10選を紹介しました。ここからは、越境学習の効果を最大化するためのポイントを解説します。
越境学習を実施する際のポイントは、以下の4点です。
- 越境学習の目的を明確にする
- できる限り異なる業種の企業へ留学する
- 越境学習を社内に浸透させる仕掛けを作る
- 普段から社員の主体性を高めておく
それぞれを詳しく確認していきましょう。
越境学習の目的を明確にする
越境学習を成功させるうえで最も重要なのが、施策の目的を明確にすることです。何のために越境学習を実施するのかが定まることで、自社に適したプログラムの形が見えてきます。
例えばリーダー育成に越境学習を活用したい場合には、経営層と近い距離で関わることのできるプログラムが向いています。DX人材育成が目的なのであれば、ITやAI系のベンチャー企業で経験を積んでもらうことがおすすめです。
越境学習はさまざまな実施方法が考えられるため、目的を明確化しておくことが一貫性のある施策につながります。
できる限り異なる業種の企業へ留学する
越境学習の効果を高めたい場合は、できる限り自社と異なる業種の企業へ送り出すのがおすすめです。
普段の環境との差が大きいほど、社員が受ける刺激も大きくなります。反面、普段と似たような環境では「異質さ」を十分に引き出すことができません。
また、受け入れ先の社員はもちろんのこと、他の参加者ともコミュニケーションを取る機会が多いプログラムだと、得られる学びもより深まります。
越境学習を社内に浸透させる仕掛けを作る
越境学習の効果を組織全体へ広げるためには、社内に施策を浸透させる仕掛けを作ることが欠かせません。越境に取り組む社員が増えれば、社内にイノベーションの種が増え、組織改革を起こしやすくなります。
施策を広めるうえでは、下記のような要素が大切です。
- 社内共有会
- 越境学習後の報告会
- 社員同士の口コミ
越境を経験した社員が体験を共有することで、徐々に関心が社内へ広がっていきます。成功事例は、積極的に発信してもらいましょう。
普段から社員の主体性を高めておく
越境学習の成果を引き出すためには、普段から社員の主体性を高めておくことも大切です。自ら学ぼうとする姿勢があってこそ、越境先での経験が深い学びにつながります。
主体性を育むには、社員が自分の意思で挑戦を選べる環境を整えることが効果的です。手挙げ式の制度を用意したり、日頃から社員の「やってみたい」という気持ちを尊重したりすると、越境学習への一歩を踏み出しやすくなります。
主体性が高い社員が増えるほど、越境学習の参加者も増えやすいです。制度だけでなく、挑戦を後押しする日常的な風土づくりにも目を向けてみてください。
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越境型研修サービス「複業留学」 | 越境学習で変化に強い組織へ
また、3か月間かけてスタートアップの課題解決に取り組むオンライン型研修「越境サーキット」の詳細は、次のページからご覧ください。
越境サーキット|異業種混合チームでスタートアップの課題解決にチャレンジ
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